負け犬入院体験記 #14 二十九日目・女が恐い
ぼくはいま入院している。
突然だが、ぼくは女が怖い。
怖いというか嫌われている気がする。
声には出していなくても内心で僕を嫌っているような気がする。
自覚したのは今日の日中。
それ以前から女性が少し怖く感じていたが。
病棟の若い女性がなんとなく自分を避けているように感じた。もちろん気のせいなのはわかっていたが、それでもそれが恐ろしく感じた。
ぼくが嫌われているように感じた。
人は第一印象で全てが決まるとはよく言うものだが、ぼくの場合、他人から見た第一印象はとてもいいとは言えないと思う。
キモい。臭い。ついでにデブ。
外面はまあいいように装えても、気持ち悪い内面がにじみ出る。
結果、嫌われる。
そもそも、昨今なにをしてもセクハラ扱いされる。
口で言うのは論外としても、軽く視線があっただけでも、それどころか視線がうっかり尻や胸に行ってしまっただけでもセクハラ扱いされる。
ぼくみたいな変態が、セクハラとされない道理がないのである。
無論、人は嫌われるのがデフォルトのようなものだとも言えるし、内心はどう考えようと自由なはずだ。そもそも被害妄想であり、本当にそう思っているかどうかは本人に聞いてみないとわからない。
けれど、考えてもみてほしい。
すれ違う女性全員に嫌われている。若い女性に限定したとしても、空恐ろしくはないだろうか。
この場合の若い女性というのは、自分と同年代、具体的にはおよそ自分の年齢(二十一歳)とプラスマイナス十歳程度である。若い少女や年老いた女性などには比較的接しやすい(それでも難しいが)。
そういえば、ぼくは中学校卒業以来、ほとんど女性と関わりのない人生を送ってきたと思う。
高校は男子校で、それ以降も目まぐるしく状況が変わるなか、プライベートで女性と話す機会というのは滅多になかった。妹を除いて、女性とは必要最低限度の接触しかしてこなかった。
僕は女性に免疫がないらしい。
それでなにか問題があるかと問われれば、とくに目立った問題はない。外面を取り繕えばなんとか話せる。そうでなければ買い物の一つさえできない。
だが、同時に内心で「気持ち悪い」と思われる恐怖に常にさらされている。
再三言うが、内心はどう思おうといいはずなのである。怯えている方がおかしい。
ただ、裏で陰口を言われていたりしてるんだろうなと考えると、恐ろしくてたまらない。
なにを言われても、どうせ内心では気持ち悪いと思っているんだろうと、ある一種の諦念のような感情がよぎる。
それを友人に話したら病的だと言われた。自分でも少しそう思う。
思えば、この閉鎖病棟という特殊な環境が自分とそこまであっていなかったのかもしれない。
ただ街中で人とすれ違う程度なら全く問題ないだろう。さっきの買い物の件における女性店員だって同じだ。一瞬すれ違う程度なら、印象すら抱かずに終わる。せいぜい「あいつ臭かったな……」程度で終わる。
だが、この閉鎖病棟では必然的に看護師や患者と顔見知りになってしまう。
故に、悪い印象を抱かれる。陰口をいわれる。
以上、思考と現状を整理するための散文。
では、なぜそう思うのか。
仮説一・PTSD
単に過去のトラウマである説である。
自分は過去、中学生時代までいじめ紛いのことをされていたと記憶している。
記憶もおぼろげでよく覚えてはいないが、その軽いいじめのようなものの主犯の一人に女の子がいた。
それをいまでも引きずっているのかもしれない。
仮説二・自分がそう思っているから
実は自分も同じように、内心では見知らぬ誰かを嫌っていて、それが自分に返ってきているのではないかという説である。
僕は身も心も潔白な人間とはとてもいえない。
内心では知らない誰かに殺意のような感情を抱いているかもしれないし、なんならいまも、そと行きの笑顔の仮面の裏で相手を見下して唾棄しているかもしれない。
そう考えると、それが反転して、自分がそう思われていてもしょうがないと思うわけである。
仮説三・もはや理由などない
全ての考察を放棄した身も蓋もない結論だが、精神の問題であるため、十分に考えられる。
何故か。本能である。本能が女性を怖がっているのだ。
思えば、元々女性への関心はそこまで高くはなかったし、恋愛も書いたことがないわけではないが、実際に本当にしたことはなかったような気がする。
結婚なんてする気がないし、性交渉もやる気がない。二次元で十分だ。
本能が異性を恐れるようにできていたとして、何ら不思議ではないのである。
以上の三仮説におそらくどれか一つが正解というのはないと思う。たぶん二つないし三つの複合要因だ。
それ以外にも原因はあるかもしれないが、これ以上は思い付かない。
被害妄想の一言で片付く問題ではあるが、どうしたら改善できるかもわからない。改善する必要性もあまりないが、気がかりな問題でもある。
おそらく改善には根本からの意識改革が必要になるだろう。女性から無条件に嫌われるという、心の奥底に根付いたある意味本能じみた心理的スキーマ……つまりは本能的な思い込みをどうにかしない限りは、治ることはないと思う。
たぶん一生女性とか関わらずに生きていくことは難しいと思う。
一生女性に嫌われていると思い込んだまま一人で生涯を終えるのも悪くはないと思うし、僕の場合それが正解なのだとさえ思うが。
なんとかできるならなんとかした方がいいだろうと思う。苦手や恐怖は少ない方が人生は楽しめるだろう。
なにか妙案でもあれば教えてほしい。
P.S.
前回記事のおかげか食事は通常食になった。おかげで毎食毎食が楽しく感じる。
普通の食事のありがたみを文字通り噛み締められるようになった。
ある意味これも良い経験だったと思う。