作家・能無 屑男の創作人生

 ちょっと半フィクションの短編を書いてみました。
 電撃小説大賞一次落ち記念です。やけくそです。リアリティを追求しました。
 どうぞ。

「チッ」
 僕、仮名「能無 屑男(21)」は、自称作家だ。
「またかよ、クソが」
 能無は最初から最後までひたすら無能だった。
 まず、いままで社会に出たことは一度もない。
 かといって学生でもない。高卒無職だ。
 成人済みとはいえ、実家の世話になりつつただ文章を書く生活を送る。
「また落選だよ」
 僕はブラウザのウィンドウを無感情に見ていた。
 ライトノベル新人賞の、一次選考の結果ページであった。
 そこに自分の名前なんて載っているはずはなかった。
 ペンネームで書いているから当然だろうが、ペンネームは作家にとって自分のもう一つの名前と言って等しい。すなわち、それすら載っているわけはなかったのである。
「ああ、クソッ」
 僕はただ呻くばかりであった。
 能無は、自分の能力に自信を持ったことなどない。
 ない能力に自信も何もあるまい。
 成功体験など持っていようはずもなかった。
 それなのに、プライドばかりが高く、負けず嫌いだった。
 その新人賞も自信をもって二次選考程度まで入ってほしいと願って出した代物だった。
 自信はないのに期待はする。能力もないのに愚直なほどの負けず嫌い。努力もできないので勝てないのに夢ばかり見てくじけてばかりいる。非常に厄介かつ馬鹿馬鹿しい僕の性根だった。
 新人賞一次選考落ち。正気に戻って考えてみれば、およそ九割もの作品がここで落とされるのだ。落ちて当たり前ではある。
 けれど、前評判では「落ちるのは文法も守れていないおおよそ小説ともいえないものばかり」とのことだった。
 ああ、そうか。僕の作品はおおよそ小説ともいえないような――もう煩わしいので一言で呼称しよう。「ゴミ」だったというわけだ。
 僕には創作しかなかった。
 能無におおよそ特技と言えるものは何もない。ただ一つ、拙い創作を除いては。
 涙が出た。
 笑いながら涙を流した。
 なんとなく、否定された気がした。
 僕の創作を、否定されたような気がした。
 能無には、創作以外何もないのだ。
 僕のすべてを否定されたような気がした。
 ああ、クソ。クソッ!
 死んでしまいたくなった。
 諦めたくなった。創作を諦めたくなった。
 ――果たして創作のできない自分に意味はあるのだろうか。
 繰り返そう。僕に創作以外の価値などない。
 その創作すら否定されたら。
 ――僕に存在の意味はない。
 すべてを諦めて、漂うプランクトンのように。いや、存在すらしなくたっていい。多摩川に落ちて土左衛門になってしまって、やがて微生物たちに分解されて、海中の肥料にでも、いやそれもだめだ。海を僕で汚したくはない。
 ならばどうしようか。
 自殺という思考が脳内を埋めたて始める。
 そのうち死ぬことしか考えられなくなって。
 でも、怖いな。なんとなく。
 そう思った自分が嫌になって、その頬を殴り飛ばした。
 脳内にどすっと響いた拳。ぱしゃりと水をかけられたように冷静になるのを感じる。
 ああ、もう。次だ次。次に期待することにする。
 ――次。次回作。新作長編。
 また書くか。
 おもむろにベッドに上がって、ぱたりと音を立てて寝転がった。
 書けないな。ああ、書けない。アイデアが出ない。
 耳を澄ますとじわじわとやかましい蝉の鳴き声がした。
 夏が始まっていた。
 扇風機がモーター音を立て、首を振りながら、エアコンのないこの部屋にかすかな涼を届けようとしている。
「情けないな」
 息を吐いた。
 呼吸の音がする。心臓が変わらず強く拍動するのを感じる。
 不意に笑った。自嘲するように笑った。
 書こうといっても書けないのに、なんでプロなんて目指してんだろ。
 激情はとっくに失せていた。
 ベッドから降りた。
 もう何も考えねぇ。いまの心情を短編にでもするか。
 舌打ちした。舌打ちして、息を吐いて、パソコンの前に座った。
 長編はしばらく休みにするか。こんな心持ちじゃ書けようもない。
 ……ツイッターを覗くと、受賞者が自分の功績をひけらかしていて。
「みじめだ」
 と僕はつぶやいた。
 能無 屑男というただの人間の、他愛もない日のことである。

 能無は沼米とは別人です(建前)
 でも、沼米が自作をゴミとか言うわけないじゃないですか。

 僕はきれいごとを言ってるだけなので、もしかしたら僕らの中にも能無がいるのかもしれませんね。ははっ。

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