#14 豚バラ大根

雨が降る日が増えて、ジメジメして、色とりどりに咲いた紫陽花が少し枯れ始めるころ、
私の誕生日はやってくる。

毎年誕生日に必ず電話をくれるのは、遠くに住むおばあちゃん。
母が私を産んだ日、合歓の花(ねむのはな)がとても綺麗に咲いていたんだよ、って毎年言う。

高齢出産だった私の母の身を案じながら遠くの病院まで向かう道すがらで見かけた合歓の花のことを、ずっとずっと覚えているおばあちゃん。

なかなか見かけることのない合歓の花。
人生で一度だけ咲いているのを見たことがあって、
あ、この花は私が産まれた日に咲いていたんだ、
この風景をおばあちゃんはずっと覚えているんだな、
綺麗だな、と純粋に感動した。

今年の誕生日は新入社員ながら仕事がこんもり溜まっていそうな日で、
おばあちゃんから電話がかかってきても出られないかもしれないから、アンタ今日自分から電話しなさいよ、
なんてお母さんに言われたから、
本当に久しぶりにおばあちゃんに電話をかけた。

もしもしおばあちゃん、元気しとう?
明日私の24歳の誕生日やけど、おばあちゃんの電話出られんかもしれんけん自分からかけたっちゃん。
合歓の花が綺麗に咲いてたんやねえ、24年前のこの日。
おばあちゃん、私の年でもう子供産んどったと?私はまだそんなこと考えられんばい。
仕事は結構忙しいけど順調よ、毎日元気しとーよ。
今度実家帰るけどおばあちゃん家には寄る時間無さそーっちゃん、ごめんね。でもお盆に会いに行くけんね。
お土産は何がいい?終活しよるけん残らないやつがいいって?
そんなこと言わんとってよ、でも色々種類の入ったお菓子が良いとね。分かったよー。

なら、またね〜
身体に気をつけてね〜

と言い、電話を切ったところで、なんだか分からないけれど泣けてきた。
おばあちゃんと私は今とても遠い場所に住んでいて、
いつまで元気か分からなくて、
次いつ会えるか分からなくて、
こうやって毎年合歓の花が咲く頃に電話ができるのも、もしかしたら残り少ないことかも知れなくて、…
なんてことが急に実感を持って感じられたからだろうか。

電話を終えて寂しさに浸っていたところ、
煮込んでいた豚バラ大根がちょうど良い出来上がりになった。
いただきます。ホクホクの大根はちょっぴり甘くて、なんだかまた泣けてきた。

おばあちゃんが私が産まれた日に合歓の花が咲いていたことをずっと覚えているように、
おばあちゃんのことをこんなにも想って泣いた日に食べた豚バラ大根を、
私もずっと覚えている気がする。

明日は私の誕生日。

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