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夏幻


どうしてこんなにも過去の貴女に縋ってしまうのかわからないけれど。
あなたがあの日と同じ詞を綴っているその事実だけで私は貴女を許してしまうんだろう。

大衆から外れたマジョリティを愛する君の言葉に私は幾度となく斜めからこの心を突き刺されたけれど、今考えてみたら君は結局ただこの世界のただ一人に過ぎないってこと。君を唯一の人だと確信していられた私は君を過信しすぎていたようだった。

煙も氷もそんな簡単に消費されていいものなんかじゃないでしょう。貴女は貴女の価値を信じてただ真っ直ぐに進み続けていればよかったんだよ。なんてそういう私も真っ直ぐになど進めてはいないのかもしれないけれど。貴女のことを思うと勝手にペンが進むんだ。貴女に恋しているかのように、貴女ばかりを考えて、悲しくなって。私が追っているのは貴女の幻影。過去に消えた貴女の幻想。あの頃の思い出。

夏がくるって。貴女と過ごしたあの夏を、今も私は超えられないのに。貴女だけが変わってしまってあの夏も染まってしまって。素直な女が可愛いなんて、幻みたいな呪いはかけないからさ。その大きな鎖を解くくらいしてみたっていいんじゃない?

蛍はもうすぐ光を灯してあの川のせせらぎでかくれんぼするらしいからさ。もう一度会いに行ってみないかい?一匹くらい見つけられたら帰りにアイスを食べに行こう。貴女の好きなのは何味だっけ。貴女の過去も淡い光とまじりって見えなくなって、いつか消えてしまうんだろうって怖かった。夏の夜の海なんかより貴女を失うのが怖かった。

もう貴女に期待などしてないの。だから貴女はあの時の貴女をどうか忘れさせないで。私は貴女の幻影と、きっとこれからも生きていくから。夏が終わっても幸せだったのは、やっぱりあの夏だけだったと思うんだ。


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