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【モルトケの法則】 名将の登用術

ヘルムート・フォン・モルトケは、プロイセンおよびドイツ帝国の軍事戦略家であり、19世紀を代表する名将の一人として知られています。

彼はプロイセン陸軍参謀総長を務め、特に普墺戦争や普仏戦争において、その優れた戦略的手腕によってプロイセンを勝利へ導き、ドイツ統一を達成するための重要な役割を果たしました。

同時代の人物としては、日本ではビスマルクの方が有名ですが、ドイツ人は彼を英雄視しています(ナポレオン三世を捕虜にしたのも実はモルトケです)。

例えばヒトラーの部屋には3人の肖像画がかけられていましたが、それらはフリードリッヒ二世、ビスマルク、そしてモルトケでした。

そんなドイツ陸軍の父に関して、現代の組織論で利用されている登用方法があります。

それが「モルトケの法則」です。

この法則は常識で考えられるものに反した登用方法で、そのような視点もあるのかと大変参考になります。

(この法則をご紹介するにあたり出典を調べましたが、モルトケ自身が著作や論文でこれについて言及したことはないようです。そのため、情報としては正確さに欠けるということをお断りしておく必要があります)


4パターンの人物評価

さて、この法則は主に2つの場面で有効です。

リーダーを任命する時と、自分の部下を登用する時です。

モルトケはある人物を評価する際に、ごく単純化して「能力」「意欲」に還元します。

少し踏み込むなら、能力とはどれだけ仕事ができるか、意欲というのはどれだけやる気があるか、と考えても良いでしょう。

これらの2要素について、能力が高いか低いか、意欲が高いか低いかのパターンが生じます。

すなわち、

①能力が高く、意欲も高い
②能力が高く、意欲は低い
③能力が低く、意欲は高い
④能力が低く、意欲も低い

という4つの分類が成立するわけです。

モルトケの法則は、人物をこれら4つのパターンに当てはめることで、適材適所に配置する際の参考にするのです。


リーダーを任命する場合

あなたにはプロジェクトを始めるにあたって、そのチームリーダーを選出する役目があるとします。

そのようなとき、これらの4つのパターンの中でどの人物が適切だと考えるでしょうか。

モルトケが選ぶのは、能力が高く、意欲も高いタイプです。

このタイプの人は、非常に有能で、積極的に行動するために、戦略的な意志決定を担当するような立場に最適です。

彼らは知識やスキルに優れ、さらに行動力も兼ね備えているため、リーダーとして非常に効果的です。

それゆえ、モルトケはこのタイプを高い指揮権をもたせるべき存在とし、重要な役職に配置すべきだと考えました。


能力が高く、意欲は低いタイプも決して悪くはないのですが、これらの人は参謀や分析的なポジションの方が適切です。

彼らは、知識やスキルは高いものの、積極的に行動する意欲に欠けるため、進んでリーダーシップを取るわけではありません。

それゆえ重要な決定を支える助言者として、冷静な判断が求められる役割が適しています。


最も不適切なのは、能力が低く、意欲が高いタイプです。

このタイプは、行動力や意欲はあるが、能力や知識が不足しており、モルトケはこのタイプを危険視します。

彼らをリーダーにすると無謀な行動や誤った判断をする恐れがあるため、単純な任務に従事させる方が良いとされています。


部下を登用する場合

リーダーを任命する場合は、比較的常識にかなった選出の仕方だったかと思いますが、ユニークなのは部下を登用する場合です。

あなたがチームリーダーであり、自分のチームに配属する部下を選出するとしたらどうでしょうか。

モルトケが選ぶのは、能力が高く、意欲が低いタイプです。

意欲が低い方を選ぶというのは意外ではないでしょうか。

このタイプの人間は、命令に従順であり、確実に業務を遂行することができる人物であり、やはり参謀タイプと言えます。

自分がリーダーであるならば、積極的にこの参謀タイプを部下に登用しましょう。


そして次点は、能力が低く、意欲も低いタイプです。

このタイプは大きな成果こそ期待はできませんが、業務においては扱いやすく、単純でルーティン化した作業にあたらせることができます。

組織を率いる上で、無害なタイプと言えるでしょう。


それでは、能力が高く、意欲も高いタイプが部下ではなぜいけないかというと、この種の人間はリーダーである自分と対立する可能性が高く、総じて扱いにくいからです。

自分がこのタイプの人物に対して圧倒的な能力を示すなら、ある程度は問題ないかもしれません。

しかし彼らに一度見切りをつけられたなら、チームリーダーとして彼らを率いることは難しいでしょう。


そして最も不適切なのは、能力が低く、意欲が高いタイプです。

このタイプを部下にすると、チーム全体に悪影響を及ぼします。

能力が低いために実際に仕事が進むわけではない一方で、はたから見ればとても勤勉に見えます。

そのため、他の人間よりも好かれやすいタイプではあるのですが、逆にそのことがリーダーにとっては他のメンバーを適切に評価する際の障害となり、意欲は低いけれど仕事をする人たちが退けられる要因になります。

また、やる気だけはあるのでそのような態度を見せようと積極的に行動するのですが、例えば会議中に全然有益ではない発言を頻繁に行うなど、チーム全体が時間を浪費してしまうことになります。


まとめ

以上がモルトケの法則です。

総括してみると、リーダーの任命にとって重要なのは能力と意欲が共に高いことでした。

これに対して、部下の登用にとって重要なのは能力の高低以上に意欲が低いことでした。

特に後者は常識とはほとんど反対ではなかったでしょうか。

今回はプロイセンの英雄モルトケの登用方法についてご紹介いたしました。

ところで、戦争とビジネスはよく比較されがちであり、似たような人間活動とみなされているような印象を受けます。

このような見解について、戦争においてこそ人間の最も高貴な美徳が現れると考えるモルトケ自身は絶対に反対するでしょう。

両活動は、本質的に似て非なるものであり、この法則にしても異なる活動領域にそのまま転用できるものではないでしょう。

それはともあれ、常識では捉えられない側面から物事を洞察するのは、いかなる領域においても有益なはずです。

意欲が高いのは良いことだという感覚には、今後はとりあえず疑問符をうつことにし、この記事は日本を代表する大物芸人の名言で終わろうと思います。


「やる気のある者は去れ」

タモリ


お読みいただき、ありがとうございました🌸

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