寝返った主任
涙は次々流れるのに、感情は全く動きませんでした。
悲しいとか悔しいとか頭にくるとか、涙のもとになるような感情は感じられませんでした。
私の心にあるのは「無」だけでした。
きっとあまりに傷つけられすぎて、これ以上傷つかない為に私の心は何も感じないようになっていたのだと思います。
向かいに座っていた先生が主任を呼びに行きました。
「大丈夫?」主任がそう声をかけたので一応そちらに顔を向けましたが、私は主任の顔をぼんやりとしか認識しなくなっていました。視界に入っていても脳にその姿を伝達するのを視神経が阻止しているようで、声は聞こえても顔が認識できず、私はただぼーっとしていました。
主任を呼びに行った先生が寄り添うように背中にそっと手をあててくれましたので隣に立つその先生を見上げると、心配そうな表情がはっきりと見えました。
私の様子に恐れをなしたのか主任は園長に
「具合が悪いようなので帰らせますね」
と言うので、園長の方へ一応顔を向けました。
園長は頭髪が薄く頭皮が見えているせいか、主任よりもさらにぼんやりとして肌色の長丸にしか見えませんが「仮病だろ」と私を貶めるような言葉を吐いたのは聞こえました。
今まで園長のパワハラを容認し、なんだったら加勢するような言動をとっていた主任は私のただならぬ様子に対してさえも非情な言動をとる園長にカチンときたようでした。
「帰りなさい、園長には後で話ます」
と言い、私はそばにいてくれて先生に手伝ってもらい帰り支度をし、早退しました。
その間も涙は流れ続けていました。
車に乗り、職場を離れるにつれて涙は止まりました。
その夜、主任から連絡がきました。
私を気遣うような文章は最初にほんの少しで、要は私がこんな風に突然泣き出すまで追い詰めたのは自分ではないよね?全く園長ったら酷いよね?というような、これまた責任転嫁と自己保身満載の内容でした。