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こんにちは😃
今回も他の方の写真から拝借しました。
さて、久しぶりに小説を書きました。
拙い文章ですが、お時間ある方はお付き合いくださいo(^o^)o


弥生(三月)中旬
此処は信州戸隠山の中腹の小さな村。
オレは、この村で甲賀流忍術の創始者、戸澤白雲斎先生の下で永年に渡って厳しい修行に邁進してきた。
その甲斐と、お師匠様の口添えもあってオレは信州上田の真田幸村様に仕官する事が出来たんだ。
お師匠様は父親のいないオレの父親代わりにもなってくれた、とオレは思っている。
どんなに感謝しても足りないくらいだ。
だから、そのお師匠様が危篤だ、とお師匠様の末娘でオレの幼馴染でもあるさくらから伝書鳩が届いた時は真田のお殿様に事情をお話ししてオレはお師匠様の下へ急いだ。


だが、間に合わなかった。


お師匠様が亡くなられてから約二ヶ月後  

*****  
                               五月晴れの爽やかな風と共に笛の音が聴こえる。
優しい、少し物憂い感じのする懐かしい、心地良い音色だ。
おそらく、さくらが奏でているのだろう。
少しだけ聴き惚れていたが、出立の準備もしなくてはいけない。  
オレは笛の音が聴こえる小高い丘の方へ行ってみる事にした。


                               「さくら、此処にいたのか?」

「佐助さん。」  
                               丘の上からは村が一望出来る。
オレとさくらと、時には村の子ども達とこの辺りで修行の合間に遊んだんだ。 
                               「懐かしいよな。」
                               「そうね。」  
                               微かに微笑みをたたえてさくらが答える。
                               その横顔を見ながらオレは、自分から言い出した事なのに、本当にさくらを連れて行って良いのだろうか、と少しだけ不安になった。
                               「さくら、怖いか?」
                               「怖くない。だって佐助さんと一緒だから。」


今度ははっきりとした笑顔でさくらは答えてくれた。
                               オレは苦笑した。                               
                               つい、二ヶ月程前は、あんなに頑なに拒んでいたのに。


*****
                               お師匠様の通夜 自宅

お師匠様の通夜が終わり、オレはさくらと向かい合い話し始めた。
お師匠様は最近では、時々胸の辺りを押さえて苦しそうな様子を見せる事はあったけれども、それ以外は普段通りだったという。
でも、それもどこまで本当かはわからない。
オレに気を使ってそう言っているだけかもしれない。
だって、さくらは随分痩せた。
元々華奢だったけれど頬や肩周りなんて特に。
さくら、随分苦労したんだな。
オレ、何にも知らなかったよ。
ごめん。
何か、何かオレに出来る事はないか。
感謝、尊敬して止まないお師匠様、そしてその愛娘であるさくらの為に。
考えた末にオレは結論を出した。
さくらと夫婦になろうと。
それがお師匠様への恩返しになるかは分からないけれど。

オレは襟元を正し、きちんと正座をして意を決してさくらに声をかけた。

「さくら、オレと夫婦になって一緒に来てくれないか。」

一瞬間が空いた。
                               「あ、勿論、今直ぐじゃない。お師匠様の四十九日が終わってからでいいから。」
                               だが、さくらは静かに首を横に振った。
                               オレは愕然とした。
                               自惚れかもしれないけど、さくらはオレに少なからず好意を持ってくれている筈。
だから、求婚したら承諾してくれる、と思っていたんだ。
                               「何でだ。誰か他に男がいるのか?」
                               聞かずにはいられなかった。
さくらに男がいるのだ、とすれば其奴にさくらを任せればいい。
オレの出る幕じゃない。 
だが、さくらはそうではないと言う。

「お父上の亡くなられた今、あたしの役目はもう終わったの。
お父上と佐助さんと三人で過ごした日々は、あたしにとってかけがえのない日々だった。
出来ればずっと、このままでいたい、と思った。
だけど、それは叶わない事。
お父上と共に佐助さんを一人前の忍びにするのがあたしの役目。
それが、叶った以上はいつまでも居心地の良さに甘えていてはいけない。だから‥」

「放っておける訳ないだろ。こんなに痩せちゃったさくらを。」
                               思わず大声をあげたから、さくらは一瞬固まった。

                               だが構わず続けた。  
                               「さくら、オレだってまだ一人前の忍びなんかじゃない。
不安になったり、迷ったりする事もあるんだ。
人間なら誰だってあることだと思う。

真田のお殿様だって、徳川家康だって。」
                               オレは、こんな時だけ敵将の名前を出した。
                               ま、いいよな。家康だって人間なんだから。
                               さくらは、やや柔和な表情になったが、まだ不安そうに黙ったままだ。
                                                              「さくら、ところでさ、お前嵐の夜でも一人で厠に行けるのか?
子どもの頃、雨風が強い夜なんかになると、一人で厠に行くのが怖いからって、オレを起こしていたよな。
全く、さくらはしっかりしているようで意外と‥」

                               そこまで話したオレに突然さくらが抱きついてきた。
                               そして小さな子どものように声をあげて泣いた。
                               オレはそんなさくらを抱きしめ、こう呟いた。
                               「厠、付いていってやるよ。」   
                               *****
                               再び、丘の上。

オレとさくらは並んで眼下の景色を眺めていた。
さくらの右手には先程の笛が握られている。

もう、此処には戻って来られないかもしれない。
嵐がきたら、そのまま海に沈んでしまうか、乗り切って陸地に辿り着くか。
どっちにしろ、オレとさくらは一艘の船に乗っている。
行き先は一緒だ。
                                                                                                        終わり                           

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