72-26候 腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)
夏 芒種 72-26候 腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)
「ちょっと付き合って!」
机上業務を終えて帰ろうとしたら、仕事の相棒がイタズラっぽい顔をして言ってきた。もう20年ほど前のことになるだろうか。
「ええよ、どこ行くん?」
「内緒や!」
「ふう〜ん・・・」
何も言わずについていけば、大阪市内から府内の端っこの渓流まで約1時間ほどのドライブ。着いたところは、とある橋の袂から階段で渓流に降りられるようになっていた。
渓流の水音がどんどんと近づいてくる。
「あっ!ホタル!」
何年ぶりだろうか、、、刻々と濃紺に変わっていくそこにはたくさんの蛍が乱舞していた。地方ネタで新聞に紹介されたとかで、見学者は多く、後を経たない。
「今時分、なんの鳥?」
と美しい囀りに耳を傾け蛍を楽しむ。
「カジカ蛙や」
「えッ?カエル?」
「もう暗いからカジカの姿は見えへんけど、今度は昼間に連れて来たるわ!」
渓流の音にカジカの控えめな鳴声にホタルの光のなんと美しくて優しいこと!
『ガラガラガラ、バシンッ! ピシャ!ピシャ!』
音のする方を見上げると、渓流沿いの崖に建てられている家々の雨戸が次々と閉まられていく。こんなに蛍とカジカが美しいのに、なんの未練もなくピシャピシャと閉じられて、あっという間に戻った静寂。
ここに棲む人たちにとっては、今日のこの風景は私のように特別なものではなくて、365日の1日。そうなんだ・・・。
しかし、雨戸を閉める音も何十年ぶりだろうか・・・
腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)
貴重な経験をさせてくれた相棒に感謝、感謝。
2024年6月10日(月)【旧暦 皐月5日】
(またまたギリアップになりました)