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リーディング小説「美しい子宮~寧々ね~」第二話 これが、わたしから彼への愛です

これが、わたしから彼への愛です

この日の夜も城から帰ってきた藤吉郎は夕食を終え、そのまま寝ようとしました。わたしは今日こそは、と思ったので
「ちょっと、待ってください」と彼を呼び留めました。
彼の背中がビクン!と揺れました。

「聞きたいことがあります。
そこに座って下さい」

硬い声でそう言うと、藤吉郎は叱られた子供のように渋々わたしの目の前に座りました。単刀直入に聞きました。
「わたしは、あなたの何ですか?」

彼は目を丸くし
「何を言ってる?
妻に決まっておるだろう」

そうぬけぬけと言うのが腹立たしく、ありったけの勇気を出して言いました。

「わたしが妻ならば、どうしてわたしを抱かないのです?」

それはもう、恥かしかったですよ。でも聞かずにいられない妻の気持ち、わかっていただけますか。

藤吉郎は、しばらくうつむいていました。
黙りこくって何も言わない彼にイライラしました。
もう、いいです!と言いそうになった時、彼が無言でわたしの手を引っ張り、布団に引き込みました。
あっ、と思う間もなく、着物を脱がされました。
乳房を掴まれたと思うと、乳首が生暖かいお湯に浸されたようにうねりました。
彼がわたしの乳首を口に含み、吸っています。

「あっ・・・」
これまで出したことのないような声が、わたしの口から洩れました。
どこをどう押せば、こんな甘い淫靡な声が出るのでしょう。
彼はこれまで私が誰にも触れられたことのない深い茂みに、手を伸ばしました。
茂みに分け入り探検しながら、ある敏感な場所にたどり着きました。
そこを円を描くようにゆっくりかき混ぜながら、そっと指を入れてきました。

「ああっ・・・」
顔を覆い隠したいほど恥ずかしい思いと、もっと続けて欲しい気持ちよさに、腰をねじりました。
これが、初夜の辛いことなのかしら?
義母の言葉がテロップのように頭をよぎります。
いえ、むしろ・・・気持ちがいいのだけど・・・そう思っていると、初めは何をされるかわからず固く縮こまっていた身体が、ゆっくりほとびてきました。
これから、どうなるの?
わたしは、どこに行くの?
そう思った時、ふっ、と身体に冷たい風が吹き込みました。

「ダメだ!やっぱり、わしには出来ん!!」

藤吉郎の身体がわたしから離れました。彼はわたしに背を向けてガックリ肩を落としています。
夢から醒めたようにわたしは起き上がり、後ろから彼をのぞき込みました。
彼の足の間にある男の証は、シワシワになった小さなおもちゃのようです。

昔わたしが外で用事をした時、歩いてきた浪人が目の前でいきなり着物をはだけ、それをわたしに見せたことを思い出しました。
五,六歳の頃ですが、初めて目にした赤紫色の屹立したそれはとてもグロテスクでした。怖くなったわたしは、走って逃げました。
そのことは、誰にも言えませんでした。

藤吉郎にもあるはずのそれは、あの時見たものと比べ物にならないほど弱々しく、しょんぼりしていました。

「寧々、すまん!」
いきなり彼はわたしに頭を下げ、土下座しました。

正直、わたしは彼が何を誤っているのかさっぱりわかりませんでした。さっきのことを続けられなかったのが、わたしに悪い事なのか、それともあの先に行けなかったことに、謝っているのか。
ヘンな話しですが、本当にわからなかったのですよ。

その時、わたしの疑問も吹っ飛ぶようなことを彼が口にしました。

「わしは、他の女だとできるんじゃ!
でも、寧々にはできん!
できんのじゃ!!」

他の女だと、できる・・・
彼のこの言葉は、ショックでした。でもその後にふつふつと疑問がわき上がりました。
他の女にはこの先ができるけど、わたしにはできない。
なぜ?なぜ?
わたしが女として欠陥があるから?

頭がグルグルして左の額のあたりがズキズキ痛みました。わたしは額を押さえながら真っ青になっていたのでしょう。
それに気づいた彼は、慌てて大きく手を振りました。

「ちがう!ちがう!
寧々は悪くない。
わしが、悪いんじゃ!
寧々はな・・・・・」

彼はその先をあまり言いたくなさそうで、いったん言葉を切りました。
でもわたしは唇を噛みながら、目線でその先の言葉を促しました。すると藤吉郎は怯えたように、でもしっかりわたしの目を見て言いました。

「寧々は、わしのかかじゃ。
わしのおかん、なんじゃ。
おかんにそんなこと、できんじゃろ?
わしは、寧々の子どもでいたいんじゃ!!」

はぁ?わたしにはさっぱり意味がわかりません。わたしは首を傾げ、ぽかんと口を開けてしまいました。

「寧々を初めて見た時、わしはすぐわかった。
あ、ここにわしのおかんがおる、と。
寧々はわしのおかんで、かかじゃ。
わしは寧々の子どもでいたいんじゃ!!」

はぁ~~~~~???ますます頭が混乱しました。痛む額を押さえながら、以前、藤吉郎に聞いた話を思い出しました。
藤吉郎が武士になったのは父が亡くなり、母親の再婚した継父とうまかず、家出同然で飛び出し、信長様に士官したからです。
母親が大すきだった彼は、再婚した継父に母を取られたと思ったのでしょう。
ということは・・・・・彼は大のマザコン!!

ようやくわたしは理解しました。彼が欲しかったのは、妻という名目の母親。
彼にとって結婚は、自分を丸ごと受け入れてくれる母親代わりの妻を手に入れることだったのです。
それが、わたしでした。
わたしはいつの間にか、彼と結婚し彼の母親になったのでした。
母親と子どもの関係だから、身体の関係は無理だ、と彼が言ってることにも気づきました。
そう言えば、いつも口づけは頬にチュッ、でした。
唇と唇で交わしたことがありません。
婚礼後もそうです。
それも母と子ども、と言われれば納得です。

わたしは自分が女として欠陥でないことに気づき、安心しました。そう言う事か、とホッとしようとした時、恐ろしいことに気づき、頭が真っ白になりました。藤吉郎と疑似親子の関係なら、わたしは一生彼に抱かれることはないのでしょうか?
わたしは一生、彼に抱かれず、男を知らない身体のままで生きていくのでしょうか?

目の前が真っ暗になりました。その時初めて婆様の言った、本当の意味がわかりました。
「女としての幸せは、あきらめることになる」
それに気づき呆然とし、身体中の力が抜けました。
ついさっきまでしっとり濡れていた身体が一気に乾き、身体中の水分がすべてなくなった気がしました。

「でしたら・・・・・・」
わたしの声は、かすれていました。
「でしたら、わたしはあなた以外の他の男に抱かれる、ということですか?」

すると藤吉郎はブンブン頭を振り、真っ赤な顔で怒り始めました。

「なぜじゃ!わしだけのかかじゃ!
わしだけのおかんだ!
やっと手に入れたんじゃ!
他の男になど抱かせるものか!
わしだけのもんじゃ!
他の男に指一本、触れさせてたまるか!!」

それは幼子が母親のことが大すきで、例え父親であろうと自分の母親に触れさせたくない!という独占欲そのものでした。
ああ、この人は年齢こそわたしより十近く年上だけど、中身は子どものまんま。中身はわたしより幼い。そんな偏った男がわたしの夫でした。
彼の求める結婚は、世間一般の結婚ではありませんでした。
男女の愛ではなかったのです。
その事実を知り、衝撃的でした。

あなたは、そんな男さっさと離縁し、次にちゃんと女として見てくれる男を選べばいいじゃない?と思いますでしょう?
だけど、わたしはそう思いませんでした。
なぜなら、わたしが惚れたのは彼の才能と運です。
それに賭けて、彼を生涯のパートナーに選んだのですから。

しかも婆様は、こうも言われていましたね。
「この娘は、この男と結婚し、天下を取るだろう」
わたしは彼を、天下を取らす男に育てたい!と思ったのです。
これは母親が子どもの才能を育て伸ばすのと、同じ気持ちかもしれませんよね?

そんなことを考えていたら、藤吉郎はわたしの手をしっかりと握って言いました。
「なぁ、寧々よ。
結婚する時にも言ったが、わしは、今に必ず天下を取る。
そして、お前を日本一のかかにしてみせる。
それは、約束する。
お前にとって、日本一の子どもになるからの!」

そう言って歯をむき出し、にかっ~と笑うのです。
わたしは彼のこの笑顔、何の邪気もないような、人たらしの笑顔。
そこに心惹かれ彼を愛おしい、と思ったのです。だからこう彼に告げました、

「わかりました。
わたしは、あなたのおっかあになりましょう。
だけど、たまには頬にチュウして下さいね」

「わかった」
そう言って彼はわたしの手を握り、頬にチュウしてくれました。

その夜から、わたしと彼は手をつないで寝ることにしました。
すべてを告白し彼は安心しきったのか、健やかに眠っています。
そんな彼の横でわたしはつつーっ、と涙が流れるのを感じました。その涙が悲しいから出るのか、くやしいから出るのか、安心したから出るのかは、わかりません。

だけどわかったことがあります。わたしの身体は、誰にも足を踏み入れられない真っ白い大地です。
その大地はわたしが朽ちるまで、汚されることはないのです。
死ぬまで、真っ白な処女地です。
そうなることを、わたしは彼のために決めたのです。
これが、わたしから彼への愛です。

こうしてわたし達は、セックスレスの夫婦になりました。

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