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匪石之アイデアル360°MVを制作して考えたこと

匪石之アイデアルMVについて

2020年8月7日 Pizuya's Cell official チャンネルにて投稿された「匪石之アイデアル」という楽曲の映像制作を担当しました.

キャラクターイラストはおなじみボーカルも担当しているめいどさん,背景イラストは現原宮さんです.

Pizuya's Cell では過去にも何本か映像作品を投稿しており,それらは数万再生にとどまっていましたが,本作品は現時点でそろそろ50万再生を突破しようという勢いです.

本作品を見ていただいたみなさま,本当にありがとうございます.

なぜ360°にしたか

実は,本楽曲は3月にshort版として360°ではないMVを一度投稿しております.

しかし,

・UNE が Oculus Quest を購入し,360°作品を制作できる環境にあった
・コロナ禍でバーチャルマーケット等が注目される中,バーチャル空間での映像表現に興味があった
・現原氏の描く背景のスケール感をもっと表現したかった

といった理由で,Full version は360°で作ることにしました(Goを出してくれたPizuya氏には感謝しかないです).

初の360°MVでしたが,デザインイメージはshort版ですでに作りこんでいたので,なんとか数ヵ月の制作期間で完成させることができました(360°でなければもっと早く公開できたかと思いますが,お待たせした分,良いものを出せたと思っています).

360°で苦労した点

本作品は After Effects ( + 一部 Cinema4D) という構成で制作しております.

しんどいポイント①:レンダリング時間がクソ長い

これに尽きます.あるパートでは数十秒の尺で平気で8時間とかかかってました(PCはi7-8700K/GTX 1080Ti/RAM64GBという構成です).おそらくRAMが足を引っ張っているように思います.RAM使用率が99%とかになったあたりで一気に処理速度が遅くなっていました.夜編集して,昼間は仕事をしながら裏でひたすらレンダリングが回っている,みたいな生活をしていました.

しんどいポイント②:一部のエフェクトが使えない

ショート版ではガンガン使っていた Optical Flares というレンズフレアを使うプラグインが360°動画だと使えませんでした.particular等も境界部分では破綻しやすかったですが,境界をぼかすことでごまかしました.

しんどいポイント③:フレームを生かした表現が使えない

通常のMVであれば16:9のフレームを生かした配置や表現を多用するかと思いますが,そもそも360°ではフレームが存在しません.ただ,これは自分で好きなようにフレームを切れるというメリットでもあります.本360°作品では,周囲をぐるっと帯のようにフレームを切る表現を使ってみましたが,結構良い感じになったと思っています.

映像作品と自由度

いままで数々の映像作品を作っていく中で,「今回はこの表現を使う選択をしたけど,別の表現にしていれば,また違うパターンの作品になったんだろうな」と思うことが多くありました.

以前の記事「作品を作る」=「最適化問題を解く」に詳しく書きましたが,作品を作る過程では「これもいいな」「こっちもいいな」という選択肢から一番良いと思ったものを選んでいきます.これはつまり,その作品が「成り得た完成系の可能性を絞っていく」作業ともいえると思います.

私は,この「成り得た完成系」をもっとたくさん視聴者に届けられたらいいなとずっと思っていました(一方で,いくつもの選択肢の中からその表現を選ぶということがクリエイターの価値の一つであることも認識しています).

そのためには,「視聴者に自由度を残す」ことがキーであると思っています.360°映像は,どの角度を向くか,という自由度を視聴者に残すことで,今までは16:9で区切られていたフレーミングを,360°では視聴者が自由に決めることができます.

人の暮らしと映像作品

映像作品と自由度を語る上では,映像作品を体験する環境を考慮しなければなりません.

かつては映画なんかに代表されるように,特定の時間に特定の場所に行かなければ見ることのできないものでした.それがテレビの登場により家庭で見られるようになり,PCやスマホの登場で個人が好きな時間に好きな映像を視聴できるようなり,さらには今や誰でも映像を配信する側になれます.

これらの「映像体験」の移り変わりには,ハードウェアはもちろんのこと,映画でいえば制作会社と配給会社という仕組み,最近でいえばYoutubeやTiktokといったプラットフォームの台頭など,作品自体の制作とは関係のない周囲の環境がカギを握ります.

私は,次に映像体験がガラッと変わるタイミングとしては,人々が「スマホ以外の何か」を持ち始めるタイミングだと思っています.そして,私はそれは「AR体験を可能にする眼鏡型デバイス」だと睨んでいます.

ARグラスで映像体験ができるようになった時,視聴者の自由度は今より何倍にも増やすことができると思っています(この辺の詳しい話はまたどこかで).

まとめ

匪石之アイデアル360°MVは,映像体験における視聴者の自由度を増やす試みの一つでした.

技術は技術でとどまるのではなく,今までとは違う幸せや楽しさを視聴者に伝えられる「価値」に昇華していく必要があると思っています.

こういった新たな映像体験に挑戦している会社さんがあったら教えてください.転職します.

おわり

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