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おすすめ新書3冊と、新書のジェンダー問題

ツイッターで #専門家が選ぶ新書3冊 というタグがあって、これが面白い。

専門の先生たちが初学者向けに厳選した3冊は、ぜひ読んでみたいものばかり。中にはタグに便乗してよく分からない人が選ぶ、ただのミーハーなだけの3冊もあったりするのだが、それはご愛嬌かな。

ツイッター、表アカは消してしまったので、こちらで自分も選んでみたものを開陳。問題は、3冊に収まらないのと、自分が何の専門家か分からないことですね…。とりあえず市民活動、コミュニティ論を焦点としました。


市民活動論


渡辺 一史『なぜ人と人は支え合うのか』 (ちくまプリマー新書、2018年)

『こんな夜更けにバナナかよ』で重度身体障害者とボランティアの交流を取材し描いた著者の新書。「助けられる側」である障害者がボランティアを逆に助けていたことや、障害者運動の成果が一般の人の助けにもなっていることなど、助け合いとは、市民活動とは何か、などを考えるための好著。障害者を「障がい者」と表現することには当事者からも疑問があるという話も興味深かった。


藤井 忠俊『国防婦人会』 (岩波新書、1985年)

ボランティア活動は容易にナショナリズムなどの「大きな物語」に絡められることを理解しておくための一冊。戦争だけじゃないよ。「啓蒙された自由な個人がつながりあう」というモダニズム神話も「大きな物語」だよ。


角間 惇一郎『風俗嬢の見えない孤立』 (光文社新書、2017年)

角間さんの支援はかなり個性的で、ときに賛否もあるようです。しかしニーズをつかむということ。また、自立のための支援とはどうあるべきかや、支援者の立ち位置などを考えるために、市民活動関係者は読んでおいたほうがよい一冊だと思います。


4冊目として…加藤哲夫『市民の日本語』 (ひつじ市民新書、2002年)(本当は1冊目なのですが、絶版なので。加藤さんは仙台を中心に、戦後の市民活動を切り開いてきたキーパーソンのお一人。「行政と市民とは『言葉』が違うのだ」と喝破し、ではどうやって「連携」するのかを模索しようとする姿は現場ならではの視点であり、市民活動に必要な観点。)


コミュニティ論


白波瀬達也『貧困と地域』(中公新書、2018年)

大阪市西成区にある釜ヶ崎地区は日雇い労働者の街として有名でしたが、労働者の高齢化と建設業の衰退により「福祉の街」とも揶揄される生活保護世帯の多い地域に。しかしそこで支援やまちづくりを行なっていこうとする人々の取り組みや、あるいは独り身男性たちの姿を丹念に追い、この街の可能性を書かれた好著です。


吉本哲郎『地元学をはじめよう』 (岩波ジュニア新書、2008年)

私が地域づくりの方法として注目しているABCD(アセット・ベースド・コミュニティ・ディベロップメント)の思想と方法論によく似ており、地域活性化に向けた地域資源の活用とチーム作りを考えることができます。有名な『コミュニティデザイン』とも似ているかな。


中根 千枝『タテ社会の人間関係』 (講談社現代新書、1967年)

日本には上下関係に厳しい日本社会の構造とも結びついた「ウチとソト(ヨソ)文化」があることを同著では指摘。日本人は世界的に見て、「見知らぬ他者を助ける」ことをしない文化なのですが、それがこの本で納得。


4冊目として…広田 照幸『日本人のしつけは衰退したか』講談社現代新書、1999年。昔は地域で子育て教育していた、というノスタルジーを完全に破壊してくれる本です。


その他:大学で学ぶ基本書として


高根 正昭『創造の方法学』 (講談社現代新書、1979年)

卒論やレポートを書く前に、というか、経験科学とは何かを理解するために一読をしておきたい。大学では何を学ぶのか。(実証的な)研究とはなんなのかを理解できます。


筒井淳也『社会を知るためには』(ちくまプリマー新書、2020年)

社会学が他の社会科学とは違って「ムズカシイ」点を、それは観察対象である「社会」に自分が入っているからだ、ということと、社会の「部分」がそれぞれ、ゆるくつながっているからだ、ということから解説。裏を返せばそれこそが社会学の「おもしろさ」でもあるかと思います。


大牟羅 良『ものいわぬ農民』 (岩波新書、1958年)

調査やフィールドワークの際に気をつける点や、「虫の目」で観察することを理解するためによい本。なぜ農民は「ものいわぬ」のか。表面的なつきあいからでは、その真意にたどり着けない。これは「表面的な調査」を研究者や学生に戒めます。私も師匠から勧められました。


(4冊目として…小笠原 喜康・片岡 則夫『中高生からの論文入門 (講談社現代新書、 2019年。わかりやすいです!)


新書のジェンダー問題?


ところでツイッターでは、このハッシュタグ企画の話題のなかで、「専門家」が選ぶ新書の著者が、あまりにも男性に偏っているのではないかという指摘がなされました。確かに、上記の自分のも男性著者のものばかり。「新書縛り」を外せば、学生にオススメしたい本は女性著者が圧倒的に多くなるにも関わらず、です。

これは、専門家の(男性の)選定が偏っていて悪い、と言うことではな胃と思います。そうではなく、問題は(専門書的な)新書の著者全体が男性に偏っているのではないか。そしてそれはなぜか。という、構造的な部分に目を向けられなかったということです。そしてこれこそがジェンダー問題が解決しない理由だからです。指摘されたら上っ面の男女平等をとればそれで済むという対応。これはJOCのコメントにも表れていました。

「多様性と調和」は東京大会の核となるビジョンの一つです。ジェンダーの平等は東京大会の基本的原則の一つであり、東京大会は、オリンピック大会に48.8%、パラリンピック大会では40.5%の女性アスリートが参加する、最もジェンダーバランスの良い大会となります。

競技者に女性が多いからいいでしょ、と、本質的な意思決定に関わる女性の少なさには触れていません。ここに象徴される、「表面的な男女バランス」にとどまることこそが、日本での男女共同参画の問題の理解と解決を妨げてきました。

新書著者の男性優位性の問題に戻りましょう。もちろん背景には、学術界が男性優位社会であることも大いに影響しています。しかし、出版業界の事情もあるようです。下記は3人の女性の新書編集者へのインタビュー記事からの引用です。そのなかでも、新書の編集部の男女比率についてたずねた箇所になります。

――編集部の男女比率はどうですか?
小木田 実際に新書を作るのは女性の方が多いですね。書籍編集部全体で見ても、6対4ぐらいで女性の方が多いです。役員クラスになると、女性は1人なんですけどね。
草薙 うちの編集部は最近は7、8人の部員ですが、女性は私を含め2人ほどという体制です。育休明けで異動してきた女性がいますが、育児経験やジェンダーの視点をうまく企画に落とし込んでいて頼もしいです。
――会議で女性向けの企画が不利になることはありますか?
草薙 男性社員の中でも子育てにコミットしている若い人たちが出てきています。逆に自分の場合には、当事者だと考え過ぎてしまって、女性目線の強い企画を出せないような部分もあります。男性社員の目線から、子育ての問題や働き方の問題について、積極的に発言してくれたり、企画にしてくれたり、実際に行動面でも、積極的に在宅ワークをしたり、休みを取ったり、早く帰ったりしてくれることに助けられている部分があります。男性だからどうこうということはないですね。
小木田 男女差というよりも年代の差の方が大きい気がします。
大岩 なんとなくわかります。(笑)
小木田 若い男性編集者の出す企画の方がジェンダーについての意識が鋭いですね。逆に私の出す企画の方が昭和のおじさんっぽいものだったりします。(笑)


新書を作る編集部の中での人数的な男女差があったり、あるいは役員レベルでの男女差に、大きな偏りがあることが指摘されています。新書を企画するレベルに、女性が決定的に少ない現状があるのです。

さらには「意識」の問題として、世代差が話題にあがっています。若い男性編集者は、一定の年齢より上の女性編集者よりも、ジェンダー意識が「鋭い」のだそうです。こうしたことはおそらく既刊の新書の著者が男性優位であったことに影響を少なからずしているでしょう。しかし一方で、若い世代に期待が持てる話でもあります。

最後に

最後に、私の選書には、コミュニティ論、ボランティア論で有名な新書がいくつか抜けているではないか、というご指摘があるかと思います。正直、私がそれらにピンときていない、あるいは、もう時代的に古くなってしまっている、と考えているからだと思います(拙著『コミュニティの幸福論』で暗に批判しているのもあります)。


ほんとは自分で書きたいのだけれど、とくにオファーは今の所来てはいないので、がんばって書いて営業するしかないですね…。


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