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『会社はあなたを育ててくれない』

…という言葉に、ぎょっとしつつも「そうだよね」と思った方は少なくないと思います。

キャリアは誰がつくるもの?

ここ数年で「キャリアは会社が作るもの」という社会の風潮から「キャリアは自らで作らないといけないもの」に切り替わっていっていると思います。

かつては、会社でバリバリと働くことで自然と何者かになれるといった社会的な通説がワークしていたように思えます。

心理学者アンダース・エリクソンによる研究によって、意図的な練習を積み重ねることが、技能を高めることにとって重要であると示されています。
これは、英国の作家によって広められ「1万時間の法則」として認知されるようになりました。

多くの時間を仕事に(OJTのような形で)費やすことで、自らの技術力を高め、それをキャリアに転換していくということが、かつては主流とされていたと思います。

しかし、2024年の今の会社は長時間労働を許しません。
また、社員に対して厳しい言葉をかけることも少なくなりつつあります。

2012年ころから「ブラック企業」という言葉が話題になました。
長時間労働を強いる会社や、有給や育休が取得できない会社、パワハラを容認している会社に対して、厳しい目が向けられるようになりました。

2019年からは、働き方改革に関連する、いくつもの法案が施行されてきました。
残業時間の上限規制や、有給取得の義務化がなされていきました。

2020年代においては、ウェルビーイングが実現できない会社は、人の採用が困難になっています。

このような流れの結果、構造的に「ゆるい職場」が生まれていきます。
(前提:労働環境の改善・是正に対しては肯定しています)

そして、この「ゆるい職場」で働き続けることに対して、若者は不安を感じます。

  • この仕事をしていて、自分ならではの人生を歩めるのだろうか

  • 友人と比べて差をつけられているように感じる

  • この会社でしか通用しない人間になってしまうのでは

会社が時間を拘束しなくなったことから、自由に使える時間が増えました。
その時間の使い方は、自分で決めなければなりません。

先程述べた不安は、その自由時間を使って、自ら解消していくことになります。

何者かになれるかどうかは、自分次第であり、会社のせいにできない「自己責任」となります。


書籍:会社はあなたを育ててくれない

…そのような状況に対して、どのような働き方をデザインしていくと良いかという話をしてくれるのが古屋星斗さんによる『会社はあなたを育ててくれない』という書籍です。

古屋星斗さん経産省にて様々な政策の策定に携わった後、リクルートワークス研究所にて若手のキャリア形成に関する研究をされています。

以下の書籍も書かれています。

  • 『ゆるい職場』

  • 『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか』

『会社はあなたを育ててくれない』は、けんすうさんが紹介されていたので、即ポチで拝読したところ、めちゃくちゃ面白かったです…!

若者をメインの読み手として想定しているとは思いますが…
30代後半〜40代、中間管理職や経営者にもオススメできる内容でした。

新自由主義からの「自己責任論」や「経済合理性」への過度な傾倒に対して疑問を持っている方にも、いくつかのインサイトを提示してくれる内容になっています。

特に、Chapter 7:「キャンペーン」の集合で作る、という章はミッドライフ(ミドルエイジ)クライシスにも効果があると思っています。

※ミッドライフ(ミドルエイジ)クライシスについてはこちら↓

この「キャンペーン」の集合で作る、という内容について一部ご紹介したいと思います。

「キャンペーン」の集合で作る

キャリアは複数の物語で構成される

「キャリア」という言葉は、車輪の轍から来ています。
ここから、あたかもキャリアは「一つの道」のように成立しているかのように解釈されがちです。

しかしながら、実際のキャリアを丁寧に紐解いていくと、全く関係の無い複数の物語で構成されているということがほとんどです。

むしろ、最初から全て一本道の最短距離で構成されているというキャリアの方が稀でしょう。

「キャンペーン」とは

経営学は、軍事学を背景として発展してきました。
その軍事学の中では、「戦略」「作戦」「戦術」という言葉があります。

  • 戦略(ストラテジー):国家の大方針

  • 作戦(オペレーション):戦略で定めた目標達成のために複数の戦闘・行動の統合・設計

  • 戦術(タクティクス):個々の戦闘(バトル)の戦い方

この中で、複数の戦闘・行動で構成される、大規模な軍事行動を戦役(キャンペーン)と呼びます。
※用語は文献・時代・国によって解釈が変わる

ライフキャリアにおける「キャンペーン」

ライフキャリアにおいて、例えばこのようなものが「キャンペーン」と呼ぶことができます。

  • 中学の部活動

  • 災害時のボランティア

  • コミュニティでの制作活動

  • PTA活動

  • NPO法人でのプロボノ

  • 営業二課での仕事

  • 新規システム開発

  • 副業でのイラスト製作

  • 子育て:保育園期

このような、中長期のプロジェクトを「キャンペーン」と呼べるでしょう。

キャンペーンの統合は難しい

これらを並べてみると、人は多くの役割りを同時に果たしていることになります。
そして、それらの役割は全く異なることが大半でしょう。

例えば、自分が大学生だとした時に「あなたは○○大学の学生ですね」と言われると、「そうでもあるし、それだけではない」と感じるかもしれません。

学業というキャンペーンの他に、サークル活動、アルバイト、インターンシップのようなキャンペーンが同時並行的に存在していたでしょう。

これらの中では、それぞれで「大事にしているもの」は違うはずです。

キャリアにおいて「大事にしているもの」は「アンカー」と呼ばれます。
キャリアアンカーとは、キャリアにおける譲れない価値観のことで、船の錨(いかり:アンカー)から来ている概念です。

ここでキャリアを「一つの道」と捉え、そのために全ての行動があると考えることには無理が生じます。

例えば、「自分は仕事の中で合理性を最も大事にしている」という考えのもと、育児に向き合うとどうでしょう。
子供との大切な時間を、すべて合理性のもと切り捨ててしまう可能性があります

同様に、ボランティア活動の中で、人と向き合うことが重要な場面であっても、合理性や効率性のみを突き詰めて活動し、そこで生きている人の生活や営みを無視したことをしてしまう可能性もあります。

複数のキャンペーンの中では「大事にしているもの」がそれぞれ異なるにも関わらず、無理やりに一つに統合してしまおうとすると、近視眼的な行動しか取れなくなってしまいます。

キャリアブレイク

自分の役割を一つに固定することは、非常にシンプルでわかりやすいかもしれません。
しかし、実際には人は複数の役割を同時並行で持っています。

「キャリアブレイク」という考え方があります。
これは以下のように定義されます。

今まで中心的に活動してきたキャリアの役割を手放すことによって、新しいキャリアの役割に向けて自分と社会を見つめ直している時間。

『会社はあなたを育ててくれない』キャリアブレイクの定義

あえて自分の役割を手放すことで、新しい何かを獲得することを推奨する言葉が「キャリアブレイク」です。

人のキャリアは、たった一つのことで成立しているものではありません。

複数の役割

著者は以下の設問を用いて社会調査を行いました。

  • 職場や家庭、趣味の場、コミュニティなど場面によって、どのような自分を見せるか使い分けたい

  • 仕事でうまくいかないことがあるときに、気持ちを切り替えられる別の活動がある

  • 本業以外の仕事は本業の成果に良い影響をあたえる

これらに対して「そう思う」「どちらかといえばそう思う」のように回答した人は、仕事満足度と生活満足度が高い傾向にありました。
さらに、キャリアに対する不安も少ない傾向にあったそうです。

「自分には複数の役割があり、それらを使いこなせている」と考えている人ほど、豊かな人生を生きられていると言えそうです。

ここから、キャリアは「同時並行的に進行するキャンペーンの集合体」と捉えた方が豊かになるという仮説が立ちます。

「キャリアは会社が作るもの」で「たった一つの道」と考えずに、複数の活動を組み合わせたものだと捉えて、様々な活動を楽しむことが重要と言えそうです。


…というのが、Chapter 7:「キャンペーン」の集合で作る、という章の概要です。

※だいぶ、個人の解釈を入れながら記述したので、「全然違うね」と言われる可能性もありますが

この「キャンペーンの集合体」という考え方は、作家の平野啓一郎さんが提唱されている「分人主義」とも通じています。

自分自身を、何か一つのものと同一視したり、何か一つのストーリーだけに埋め込んでしまうと、それが失われた時に多大なダメージを負ってしまいます。

例えば、自分を「○○という会社で働いている人」と認知していると、その会社を退職した時にアイデンティティを喪失してしまうことになります。

その状況が、ミッドライフ(ミドルエイジ)クライシスを引き起こす可能性があります。

自分のキャリアを「キャンペーン」の集合で構築することで、このリスクを下げると考えることができます。

今回ご紹介した書籍『会社はあなたを育ててくれない』は、若者のキャリア形成の一つの指針となると思います。

加えて、30〜40代の方々にも、めちゃくちゃ大事なインサイトを与えてくれると思います。

いま、めちゃくちゃ注目が集まっているそうです。
それだけ、社会の現状を捉えている書籍ともいえそうです。

気になった方は、ぜひ読んでみてください!


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