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書籍:ハーバードの美意識を磨く授業

近年、「美意識」に対する注目が集まっています。

2017年に山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』という書籍が発売され、話題となりました。

そして、山口周さん監訳の書籍『ハーバードの美意識を磨く授業』が2021年に発売されています。

今回、こちらの書籍の内容を一部ご紹介いたします。

なぜ美意識が必要とされているか

「美意識」が必要な理由の一つは、「正解」の価値が大きく下がっていることです。

かつては、世界中に多くの「問題」が溢れていました。
例えば「食料の保存」「移動の制限」「情報の共有」といった問題がありましたが、幸い、これらの問題は冷蔵庫や車やインターネットによって解決していきました。

多くの「問題」が解決されていくことにより、「正解」を出すことの価値も逓減します。

かつては「正解」を出せる人材が少なかったのですが、教育の高度化により「正解」を出せる人材が増えてきました。

こうなると、「正解」の過剰供給が起こり、相対的に、解決すべき「問題」が希少となります。
その「問題」を発見・定義できる人間の価値があがってきていると言えます。

別の「美意識」が必要な理由として、「役に立つ」から「意味がある」へのシフトが始まっているという点が指摘されています。

「便利=役に立つ」ものが、世の中に溢れています。
比較的多くの人たちが問題解決のための道具、例えば、冷蔵庫や車やインターネットを利用できるようになりました。

そのとき、世の中は段々と「意味がある」ものを求めるようになってきました。

「問題」の発見・定義や、「意味がある」ものを作っていくには、「美意識」が重要となります。

人々が求めている体験

先述の通り、「正解」や「役に立つもの」よりも、「問題」や「意味があるもの」の価値があがっています。

そのような中で人々が求めているものは「心を潤すもの」や「活きている実感」のようなものです。

「体験」とも言いかえられます。

消費者が感じる喜びの半分は、期待感と記憶に依存し、もう半分は、購入時の体験(五感)に関連していると言われています。

人々を魅了するプロダクトやサービスは、単に便利というものではなく、五感に訴えかけるものである。

鳥のさえずりが聞こえる空が開けたカフェのテラスで芳醇な香りのコーヒーを飲む体験の方が圧倒的に心地よいですよね。

ディズニーランドには、常に音楽が流れ、甘い香りが漂っています。
ビルのようなファンタジーには無い建物は、一切見えないように設計されています。
道は常に清掃され、お客様をゲストと呼び、キャストは世界観に溶け込んでいます。

「ミュージカルのVIP席を購入したらステキな手紙が届いた」というのも、心を潤す体験と言えます。

「役に立つ」は、ビッグテックカンパニーのAmazonにすでにあります。

その「役に立つ」から外れて「意味がある」を求めてくださった方には、「体験」の提供を通して「つながり」を作ることができます。

その「つながり」は、一期一会から始まり、信頼によって継続されます。
その「つながり」は、とても簡単に失われるものです。

であればこそ、細やかな配慮が重要となります。
そして、その配慮は美意識からうまれてきます。

ワインの風味は、ワイングラスの形によって大きく変わるそうです。
スパーリングワインの醍醐味は、泡が強く立ち上るときに生まれる香りにあるそうです。
そして、その泡の立ち上がり方は、グラスの形によって大きく変わります。

このような細かい配慮の積み重ねが、最高の体験を生み出すために重要となります。

自分らしさの表現

ハーバード・ビジネス・スクールの教授、クレイトン・クリステンセンは以下のように述べました。

私達が何かを購入する場合、実質的には、自分の目的達成のための助っ人として、それを『雇って』いるのだ。

人は、自分ののぞみを叶えるための助っ人として、何かを購入しています。

ノーベル経済学賞を受賞したロバート・ウィリアム・フォーゲルは移管ように述べました。

世界中に広まった豊かさは、全人工のほんの一握りの人たちのものであった『自己実現の追求』を、ほとんどすべての人に広げることを可能にした。

世界は、自己実現欲求の市場となっています。

かつて世界中に存在していた問題は「生存欲求」や「安全欲求」を脅かすものでしたが、それらの問題は徐々に解決しつつあります。

それらの欲求が充足され、人々は「帰属欲求」「承認欲求」「自己実現欲求」を満たそうとします。

例えば「パタゴニアの理念に共感している」ということを表現するために、パタゴニアの製品を購入することで、自分らしさを表現するといったものです。

あるいは「日本中の子どもたちを大切に思っている」という思いの表現のためにフローレンスに寄付をしたり、「人文知とメタ認知が大切だ」という思いに共感してコテンクルーに参加したりすることも、自己表現のための消費になります。

ある意味、これは消費がファッション化しているとも言えます。
そのような市場においてこそ、美意識は重要と言えます。


著者は『ハーバードの美意識を磨く授業』の中で以下のように語っています。

人々が真に必要としているのは、コミュニティ(一体感や帰属意識)だ。
学び、発見する機会だ。
自分はどんな人間で何を感じるのかを表現する術だ。
自分の世界と自分自信をより美しく、より楽しくするためのツールや刺激だ。
それらすべては人間にとって絶対に必要なものだ。
そして、そうしたニーズが、人間の欲望の土台であるのは間違いない。

これらは、「正解」や「役に立つ」の価値が相対的に下がった現代において、とても重要な考え方となります。

この書籍では「美意識をどう磨くか」についても記述されています。
気になった方は、ぜひお手にとってみてください。

書籍の中では、倫理観についても語られています。

五感を刺激することで、依存症のあるビジネスを発展させることもできます。

書籍では、「キャンディ風味のタバコ」が例として挙げられていました。
キャンディ風味は、味覚と嗅覚を刺激し、タバコを吸いやすくする効果があります。

これは若者(特にアメリカで喫煙が禁止されている21歳未満)の喫煙を誘引するとして、2009年に法律で禁止されました。
なお、キャンディ風味のタバコを販売していたタバコ企業は2006年に、不正に利益を得ていたとして有罪判決を受けています。

これらは美意識の欠如によってブランドイメージの既存を引き起こすことも示しています。

美意識を持つことの真の価値は、「純粋な志」と、そこから引き起こされる行動によって示されるようです。

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