見出し画像

君はきりたんぽの謎を解けるか!

洗濯物を干していたらふと思い出した。
ずいぶんと前の話だけど。
ちなみに洗濯物とは一切関係ない。
ついでに、きりたんぽとは直接関係ないかもしれない。

小学四年生の息子と妻と三人でディズニーランドに行くときのこと。
新幹線の往復料金を切り詰めた分、ホテルを豪華にしようと高速バスを利用することにした。

バスに乗り込むと、私達の前席から数席は女子高生のグループに占拠されていた。
バス乗り場で一緒だった女子高生は、到着したバスに乗っていたグループの仲間らしく私達の前の席に座った。

彼女たちは他の乗客に自分たちの話がダダ漏れになっていることなどお構いなしに、大声で話し、そして大盛りあがりだった。
「やっぱさー、來未ちゃんの声、生で聴けるっていいよね~」
「あたしはさー、やっぱあゆだな」
「去年のコンサートはさあ、雨だったから今日は降らないでほしいよね~」
「そうそう、野外ってそこがなー」

話の内容から、彼女たちはavexの野外コンサートに行くと推測された。

一番声の大きい、一番喋っていた女子高生が突然手を挙げた。
「みんな聞いて聞いて!豆知識」
「えー、なになに?」
「なんとねー、秋田県にはセブンイレブンが無いんだよ!これ覚えておいて豆知識だから」

ほおお、そーなんだ。早速、調べてみる。
げっ!本当だ。

秋田県にセブンイレブンは2012年5月から出店されています。この話はそれ以前の思い出話です。

「ええーーー!!◯◯すご~~い!なんでそんなこと知ってんの?」
「ふふ~ん、君たち普段から学んどかないといかんよ」

「でも、なんで秋田県だけセブンイレブンが無いんだろ?(違う!)」
「〇〇わかんないの?」
「う~ん、さすがの私もそこまではわかんなかったんだよね」
彼女たちの話題はコンサートから秋田県セブンイレブン皆無の謎解きにシフトしていた。

突然、前の席の子がボソリと言った。

「きりたんぽだからじゃない?」

息子と私は思わず目を合わせた。
あまりにも奇想天外な考察が飛び出したからか、息子は半分笑っている。

「あ、そーかあ、きりたんぽだからなんだ」
「○○ちゃん、すごーーい!!よく気がついたねー」
「きっとそうだよ」

一同、その答えに賛辞を送り始めた。
息子に笑うなと首を左右に振った。自分も半笑いだった。

「でも、きりたんぽってなんだろうね?」

座っているのが椅子だったら彼女たち以外の人達は、皆ひっくり返ったはずだ。
限界だった。
息子は一瞬だけ笑い声を漏らしながらも、前の背もたれに頭を付けて肩を震わせている。
妻はさり気なく車窓の外の景色を眺めながら、その肩は震えていた。
私は左腕の袖で口を押さえつけ、それでも声が漏れそうだったので噛んだ。

その後も彼女たちは休むことなく話し続けたが、全然うるさくなかった。
なんせ、そんじょそこらのお笑い芸人より面白い。
おかげで3時間強のバスの移動時間も苦にならず、むしろ感謝したいくらいだった。

あの子達も今ではすっかり大人になっただろう。
結婚して子供もいるかも知れない。家族相手にどのような話をしているのだろうか。
そんなことを想像しながら、思い出し笑いをしつつ洗濯物を干し終えたのだった。