人魚の鱗ーとある青年と彼女の話ー
俺と彼女である棗は中学校で出会い高校3年生で付き合い、大学生ってなって初めて俺の家族に会わせる事になった。
「まぁーこんなに可愛い女の子と付き合ってるなんて!」
「この果報者!」
と母親と姉が野次を飛ばし、無口な父親もニヤニヤと笑っている。
最初はニコニコしていた棗だが、一緒にご飯食べようって、いつものようにドタバタとしているうちに何だか俯いて俺から見ると寂しそうな笑顔で笑っていた。
外が暗くなっているので棗を送ることになり、アスファルトに電灯が付いている道を歩いていると重たい雰囲気がでている。
「ねぇーゆーちゃん。別れようか」
突然の彼女の別れ話に動揺した。
何も言えないと棗は泣いている声がする。
「なんでだよ!俺の家族が何かしたか?」
「すごくいい家族なの!すごくいい家族だから!」
棗の肩を抱いて、彼女の顔を見るとポロポロと泣いている顔を両手で隠していた。
「あのね、私は人魚なの」
棗の言葉は衝撃的で、信じられないような言葉だったがこんな嘘を言うような女では無い。
人魚というのは実際にいて、
人魚の鱗を手に入れると不老不死になる。
そのために乱獲されて人魚は人に紛れて隠れて生きているらしい。
「人魚はねある程度成長すると不老不死になるから、人間と結婚すると自分の鱗をあげて相手も不老不死になってもらう掟があるの」
棗は落ち着いたのかボソボソと話し始めた。
「だからあんなに優しい家族の所から切り離すなんて出来ないよ」
棗は俺の手を振り払い、悲しそうに笑った。
「さようなら」
そう言って立ちすくむ俺を振り向かずに歩いていった。
そうして、棗に避けられるようになり、連絡もつかなくなり数ヶ月。
やっと棗の友人にお願いして、騙すようにファミレスに連れて来てもらった。
「もう会わないつもりだったのに」
「俺の話を聞いて欲しい」
俺は口を開いた。
「俺の家族にも話したよ」
棗は驚いた顔をした。
「けど、色々話して悩んで、大学卒業したら鱗を貰いたい」
「え、だってあんないい人たちと同じ時を過ごせなくなるんだよ?いいの?」
棗は不安そうに言った。
「俺が幸せならいいって皆いってくれたし」
俺は棗の左の薬指に指輪をはめた。
いつか渡そうと思ったのが少し早まったけど俺は棗に笑った。
「自立っていうんだってさ、こう言うの」
それに棗は泣いた。悲しい、寂しい、そんな感情じゃない嬉しいっていう俺の好きな涙だった。
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