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【14日目】荒野の少年と星空

朝4時、うっすら空が明るくなってきた。
結局、焚火の前で軽く30分程度しか眠らず、ずっとウトウトしながら馬泥棒を警戒していた。

お湯を沸かして味噌汁を作り、昨日炊いたご飯の入った鍋にブチ込む。
ご飯を炊いた鍋も綺麗になるし冷えた体にはちょうどいい。

ジョナとクロは相変わらず一生懸命にボリボリ言わせながら草を貪っている。
周りには細くて乾燥した草しか生えてなかったから、食べ足りなかったのだろうか。

出発の支度をして、しばらく様子を見ながら待っていたら辺りもすっかり明るく、7時になってしまった。
クロの背中がまた鞍ズレしてしまったから、村で毛布を買ってから鞍の間に挟んで、降りて歩きで出発。

やっぱりクロの体の大きさじゃしんどいんだろう。
本格的に交換を考えないといけないかもしれない。

いつもなら嬉しい晴天も、乾いた大地の上だとなかなか辛い。
舌の上が乾燥しすぎて、呼吸の度にヒリヒリと痛くなる。

それでも360°続く壮大な景色は本当に綺麗で、やっぱりこれが見たくて旅を続けてるんだなって思う。
流れる雲の影が、どんどん自分を追い越していく。


鼻歌交じりに歩き続け、5時間後。
周りにゲルも青い草も水場もない荒野で、1人と2頭は完全にグッタリ状態。

そろそろ休まないとまずいなって思っていると、遠くに2つのゲルを発見した!

近くに行って、「こんにちはー!!」と叫ぶと13歳くらい男の子が出てきた。
「日本人か?どうしたの?」
「この辺で草を食べさせられる場所と水場を探してるんだけど知らない?」
「うちの井戸があるよ!1万Tg(700円程)でいいよ!」
「さすがに高くない?5000Tgでお願い!」
「じゃあ他を探して!近くにないから!」

こっちに選択肢がないのを知ってて、無邪気な笑顔で掌を見せてクイクイと動かしている。

見える範囲は全て荒野で、宛もなく歩き回る体力はジョナとクロにはもう残ってない。

やむを得なく要求を飲むことにした。
「オッケー。じゃあとりあえず案内してくれたらお金を渡すよ」
水場に向かう途中、少年は馬のことなど色々と話してくれた。
話によると、この先40kmは村がないらしい。

そしてこの辺りはオオカミがすごく多くて家畜も少ないから馬がやられやすいらしい。

先月も自分の馬が2頭やられたみたい。
今はナーダムで大人たちが留守にしているから少年が銃を持って、一晩中寝ないで馬を見張ってるそうだ。
だから、俺も絶対に寝るなよと言われた。

馬交換の交渉をしたかったけど、大人がいないならここはダメそうだ。
しばらく歩くと、人工的に掘ったのか地面が大きなクレーターのように凹んでいて、真ん中に馬が20頭ほど密集している。

その中心をよく見ると、水たまり程度だけど泥水が溜まっていた。
少年が馬を追い払ってくれて、ジョナとクロにたっぷり水を飲ませてあげた。

本当は自分も飲みたかったけどさすがにここは厳しそうだ。
そこからまた30分ほど歩いた所に30m四方くらいの草場があって、確かに周りよりはたくさん生えていた。

「助かったよ、ありがとう」 と言って、1万Tgを渡した。
自分一人では絶対に見つからなかっただろうし、こんなに離れている所だとは思ってなかったから案内料としては全然高くなかった。

少年は笑顔で、「応援してる!がんばってな!」と言って去っていった。
今日は体力も限界だし、この先に水場があるのかも分からないからテントを張ることにした。


オオカミ対策にムチを腰につけて、ナイフもすぐ出せるように準備。
暗くなってから、枯れ木を集めて焚火の横に腰かけた。

今夜は新月。
いつもにも増して天の川が綺麗に見える。
星が1つ1つ瞬いていて、「シャンシャン」と音が聞こえるような気がする。

見渡す限りに、ゲルも人も道もなく、自分と馬が2頭だけ。
焚火が薄っすら草を食べ続けているジョナとクロを照らしている。

聞こえるのは風の音と、焚火のパチパチ燃える音だけ。
それを見ながらフラスコで飲むウォッカが、今だかつてないほど美味しく感じる。

すごく「今、旅をしてるんだな」って実感して、贅沢な時間だと感じた。
この日見た夜空を、おそらく一生忘れないだろう。


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