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モンゴル前編 #15 ワイルドバス、終着地バヤンウルギーに到着

バスに乗って2回目の朝。

膝と腰の痛みで目を覚ますと、隣の席のお姉さんも、通路の荷物に座っているおじさんも、俺の肩に首を持たれて寝ていた。

みんなと仲良くなって楽しかったけど、2日半も板の上に体育座りをしているとさすがに体のあちこちが痛くて嫌になってくる。

早くベッドで寝たい。

早くシャワーを浴びたい。

この体育座り最長記録は、もう一生塗り替えることはないだろうな。

まぁ塗り替えたくもないけど!

『もしかするとこれからの馬旅よりバス移動が一番辛いんじゃないか?』と思うほどだった。

最初は歌って騒いでた乗客のみんなも、さすがにぐったりしている。
ラジオの歌と、エンジンの音だけが虚しく車内に響いていた。

お昼前くらいに差し掛かった時、バスが急に止まった。

「ここから川だからみんな降りてー」

運転手の掛け声で、みんな降りていく。

「ん??どういう事だ?」

バスを降りると、目の前に何本かの川が流れている。
すぐに運転手の言っていた意味を理解した。

このボロボロのバスで川を渡る気のようだ。

みんなは躊躇なく靴を水浸しにしながら、ひざ下くらいの深さの川を渡っていく。

自分は幸いにも乗馬用の長靴を持っていたからそれに履き替え、嫌な予感しかしないバスを横目に川を渡る。

と、その時、大きなエンジン音が!

どうやら泥にハマったようだ。

そりゃそうなるわな!と思いつつも、川の中に入ってバスを押している自分がいた。

みんなで『いっせーのーせ!』でタイミングを合わせて何度かバスを押すと、うまくぬかるみから出ることが出来た。

歓声をあげてハイタッチをしてみたものの、まだいくつもの川が立ちはだかっている。

川をジャンプで超えたり、諦めて中を進んだり。

すべて超えるころにはズボンも靴下もずぶ濡れになっていた。

その足で通路に敷き詰めてある荷物の上をみんなが歩くものだから、自分の荷物も例外なく泥だらけになっていた。

正直もうそんなことはどうでもいい。
早くバスを降りたい。

体育座りをしながら、もうそれしか頭には浮かばなかった。

日が沈み始めた20:30、最西端の町バヤンウルギーにやっと到着!

実に60時間のバス移動が終わった!

バスの運転手が「困った時にはすぐに俺に連絡しろ!」と電話番号をメモに書いて渡してくれた。

ルービックキューブの子供も、一緒にモンゴル相撲した青年も、隣のお姉さんも、俺に首を持たれかけて寝ていたおじさんも、

みんな「困ったらいつでも連絡して!」と電話番号やメールアドレスをメモに書いて渡してくれた。

途中、何度も『二度とこんなバスに乗りたくない!』と思ったけれど、今はこのバスに乗れて本当に良かったと思う。

みんなと握手やハグをし、45kgの荷物を持ってタクシーで近くのホテルに向かった。

既に辺りは薄暗くなってきている。

お腹は空いているけど疲れやら体の痛みの方が強くて、とりあえずチェックインして部屋に入った。

電池の切れていた携帯をコンセントに繋ぎ、電源を入れると、いきなり電話が掛かってきた。

慌てて出ると、この町で馬を調達して待っててくれているアスカさんだった。

「今どこにいる?バス停にいたけど見つからなくて!」

「近くのホテルにチェックインしちゃいました!」

「オッケー!すぐに行くから待ってて!」

数分後、明るい茶髪で青い目の40歳くらいの女性がやって来た。

今まで会ったモンゴル人とは明らかに髪も目の色も違う。

カザフスタン系の人とは聞いていたけど同じモンゴルでもこんなに違うんだな。

「ごめんねー!全然見つけられなくて!
 同じバスの人達に聞いたら日本人はタクシーに乗っていったって聞いて慌てちゃったよー!」

すごく柔らくて明るい雰囲気のこの人が馬を買ってくれたアスカさんのようだ。

「今日は遅いから、甥のミルカの家に行こう!」

言われるがまま車に乗って、公衆浴場でシャワーだけ浴びてからミルカの家に到着!

ゲルではない、木造の広い家だ。

両親と3人で出迎えてくれた。

ミルカは短髪の爽やかな青年で、年齢は20代前半くらい。

ごはんを用意していてくれたようで、パンと豆スープを頂いた。

久しぶりにゆっくりときちんとした料理を食べれて一気に幸せで満たされる。

日本の話や、日本の写真を見せるとすごく喜んでくれた。

「今日は遅いしバスで疲れてるだろうから、明日に色々と説明することにして、もう寝てね!」

アスカが案内してくれたベッドに倒れこんで、そのまま寝てしまった。

久しぶりのベッドは極上の気持ち良さだった。

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