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【5日目②】久しぶりの村に到着!人を信じる難しさ

体もボロボロ、飲み水も残りわずかとなった時、丘を越えると少し先には大きな川が広がっていた!


一気に丘を降りて、川でジョナとクロにたっぷり水を飲ませる。
自分も頭から川に突っ込んで、口をゆすいでからペットボトルに水を補給!

川の水は危なくてそのままは飲めないけれど万が一の為に汲んでおくことにした!

地図で確認すると、この川沿いに行けばすぐにホブド村につくようだ!!
ホブド村なら店もあるって工事現場の人たちも話してたし、もしかしたら冷たいビールが飲めるかもしれない!

なんとか残り少ない気力と体力を振り絞って歩き始めた。
喉の渇きに耐えられなくて何度か川の水を手を出そうとしちゃったけれど、必死に我慢して17:30にホブド村へ到着!

家が40軒程度立っている小さな村だけど、久しぶりの村で嬉しくなる。
通りすがりの人に売店の場所を聞いて、そっちの方角に向かう。

売店の前に馬を括り付けて店に入ってすぐ、店のおばちゃんに「冷たいビールある!?」って聞いた。

おそらくすごい形相だったんだろうな。
「置いてるけどけど、あんた大丈夫か?」

親切そうなおばちゃんは、ゆっくりと冷蔵庫からビールを取り出すと心配そうな顔でこっちに渡してくれた。

500mlの缶ビールを出してもらうや否や、一気に胃に注ぎ込む!
カラカラだった喉にややぬるめのビールが染み渡っていくのがわかった。

飲み終わったところで、それを呆然と見ていたおばちゃんが、ふと気付いたように聞いてきた。

「どこから来たの?」
「バヤンウルギー」
「一人で!?」
「一人だよ」

周りに来ていたお客さんたちもみんな驚いていた。

馬で移動しているモンゴル人って珍しくないし、この距離で驚かれるのは正直、意外で自分もビックリした。

話を聞いてみると、オオカミやら強盗がいるからモンゴル人でも何人かで移動するのが普通らしい。

「強盗に遭わなかったのか?」とか色々と聞かれたけど日の入りまでには寝床を探さなきゃいけなし、ジョナとクロにも水をあげなきゃいけないから食料品と飲み物だけ買って早々に川へ向かった。

外国人が珍しいのか村から子供たちが一人、また一人とついてくる。

川の周りに到着してジョナとクロに水を飲ませていると、蚊が大量に集まってきてジョナとクロを一晩もここに置いておくのは難しそうだ。

ジョナとクロに草を食べさせてのんびりしていると、子供たちが「日本人?」「どこまで行くの?」「ナルト好きなの?」と質問攻めにしてくる。


写真を撮ってとせがんでくる子供たちと


適当に答えながら、さっき買ったばかりの1.5Lのスプライトを飲んでいると気付いたら1.5Lすべてを飲み干してしまっていた。

明日以降の飲み物も足りなくなってしまいそうだし、急いでさっきの売店に戻ると既にシャッターが閉まっていた。

「あっちにもあるよ!」
子供たち袖を引っ張っている。

そのまま子供たちに連れられて、この村にもう一つある売店に行ってみると幸運な事にまだお店は開いているようだ。

飲み水不足は命に関わるし、ビタミン不足を補う為にもミニッツメイドのオレンジジュースを多めに買い足した。

お礼を言って店を出ようとした時、店のおばちゃんが「あんた、泊まるところあるのか?ないならうちに泊まっていきな!」と声をかけてくれた。

「ありがとう!でもこの辺は蚊が多くて馬を置いてはおけないよ」
「うちなら庭もあるし、馬もそこで飼ってたから大丈夫だ!5万Tgでどう?」
「うーん。。。。テントはあるので大丈夫です!」
「そしたら庭にテント張りな!干し草もあげるから2万Tgでどう??」

なんとなく信用のできない顔をしているし、最初の5万Tgが少し高かったから場所を見てから決めることにした。

お店のおばちゃん


店から歩いて5分くらいのところで、川には近い位置なのに全然蚊はいなかった。
庭で干し草が貰えるならジョナとクロを2時間おきに移動させずに済むし、久しぶりに纏まった睡眠が取れそうだ!

既に19:00を過ぎていたし、日も傾きつつあるしそこに泊めてもらうことにした。
ジョナとクロから荷物や鞍を外して、招かれるまま家に上がった。

相当なお金持ちの家のようで絨毯や家具も今まで見た家とは全然違うものだ。
棚にずらっと並んでいるトロフィーには馬の彫刻が入っている。
なんとなく完全に信用できなくて、こうしている間に馬が盗まれないか窓からたまに確認しつつ話し始めた。

「すごいね。このトロフィーってナーダム(毎年7月に行われるモンゴルの祭り)のレースで貰ったの?」
「そうそう!うちの主人は馬を育てるのが仕事だからね!60頭は持っているよ」
「今はどこに??」
「今はナーダムに備えて、たくさん草を食べさせる為に遠くまで行ってるよ」

おばちゃんは思ったよりもいい人そうで、この先の湖までずっと上り坂で結構な距離があって村も川も草もないって事を教えてくれたり、馬の扱い方や世話の仕方を色々教えてくれた。

途中から20歳くらいの娘さんも帰ってきて、一緒にご飯とお菓子も食べて、すっかり話し込んでしまった。

時計を見て既に2時間近く話してたことに気付き、慌てて庭に出てみるとジョナとクロの周りには蚊の大群が!

片っ端から潰していこうとするけど、次々集まってきてキリがない!
いい人だと思っていたおばさんはお金を貰いたいが為に嘘をついたのか!

完全に怒りの矛先はおばさんに向かった。

「蚊がいないって言ったじゃんか!!!」
「このくらいなら大丈夫よ」
「大丈夫なわけない!大事な馬に何かあったらどうしてくれるんだ!全然、蚊がいないって言ったから来たんだ!」
「いつもこんなにいる訳じゃないし、日没直後だけだからすぐにいなくなるよ」
「信じられない!」
「お店に馬用の虫刺され薬があるし大丈夫。お金はいらないから、あなたはうちの部屋で寝なさい」
「こんな中で一晩も置いておけない!!」

馬用のバックをとりあえず背中に乗せて、少しでも刺されるのを防ごうとしてみるけど全然だめだ。

気付くと自分も結構刺されていて、適当に顔を叩くと2~3匹の蚊は潰れる程。

とにかくジョナとクロに纏わりついている蚊を手で払いながら、これからどうすればいいのか必死に考えてみる。

庭の外に出ると更に蚊は増えるだろうし、日も沈んで月も出てなくて完全に真っ暗な中、山側に向かっても良い草の生えている場所は見つけられないだろう。

今朝から灼熱の荒野を40kmも歩きっぱなしだったせいで、自分自身の体力もほとんど残っていない。

今から荷物を積みなおしても1時間以上はかかる。
明日はなんとしても1日で湖まで行かないとジョナとクロの飲み水が確保できないし、この町でジョナとクロを休ませるにしても虫や草の環境が悪すぎる。

少しでも今日は休ませて、明日移動しなくては。
消去法で考えると、ここで俺が一晩中、ジョナとクロに張り付いて蚊を追い払うという選択しか残らなかった。

おばちゃんと娘は申し訳なさそうな顔でたくさんの干し草をジョナとクロにくれて、テントを組み立てるのを手伝ってくれ、家に入っていった。

2時間くらい経って、自分の手も顔も蚊に刺されてボコボコになった頃、おばちゃんの言ってた通り、蚊が一気にいなくなった。

あの時、おばちゃんは嘘をついてなかったんだ。
なのに本当にひどいことを言ってしまった。

自分自身、普段は滅多なことじゃ怒らない性格なんだけれど、疲れのせいで感情的になってしまってたのかもしれない。

平然とジョナとクロが美味しそうに干し草を食べているのを眺めながら反省していると、ちょうど庭におばちゃんが出てきた。

「馬、大丈夫??」
「蚊がいなくなって、2頭とも干し草を食べてる。さっきは疑って酷いことを言ってしまって本当にごめんなさい」
「こちらこそあんなに蚊が出るなんて思ってなくてごめんなさい。本当にあなたは素直でいい子だね」

そう言っておばちゃんが軽くハグをしてくれた。
こんないい人に酷いことを言ってしまった罪悪感と許してもらえた嬉しさで複雑な気持ちだ。

テントの窓から見える満点の星空を眺めながら、今日の出来事を考えなおしていた。

強盗に遭ったり、村のみんなやおばちゃんに親切にしてもらったり。
人を疑う愚かさと、信じきる難しさについて、改めてじっくり考えながら眠りについた。

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