ロザムンド・ピルチャーの本 ②

ロザムンド・ピルチャーの作品が日本で初めて単行本として紹介されたのが1993年です。その頃、日本の書店ではイギリス、イタリア、フランス、ドイツ文学などの海外文学の作品がそれなりに本屋さんの棚で元気に動いていた時代です。

晶文社さんの短篇集の1冊目『ロザムンドおばさんの贈り物』がまさにその初邦訳本でした。彼女の作品を一番多く翻訳しているのは中村妙子さん。彼女こそが、ロザムンド・ピルチャーの作品を日本で出版することのきっかけを作った人でした。そのことは、晶文社で当時出版になったその本の「あとがき」で丁寧にふれられています(現在の新装版にも当時の「あとがき」を転載しています)。

一部抜粋します。                          ——ちょうど三年前の一九九〇年の夏、三週間ほど、イングランドのあちらこちらを回ったあげく、わたしはヒースロー空港で帰路の飛行機の出発を待つ間、何か楽しい本はないかしらと売店に入って行きました。C・S・ルイスが亡くなった家、彼のお墓、トールキンのお墓、アガサ・クリスティーのお墓と旅の終わりはちょっと墓地めぐりのようでしたから、少し気分転換をして帰りたかったのです。(中略)

―—飛行機のせまい座席に落ち着いてからさっそく開いたその本に、わたしはたちまち引きこまれました。(中略)そして、ああ、訳したい、この本を、この作家のものをと、つよく、つよく思いました。——(『ロザムンドおばさんの贈り物』「訳者あとがき」より抜粋)

本人がまず、すっかりファンになってしまった様子が伝わってくるようです。中村妙子さんがヒースロー空港の売店で購入したのが、”The Blue Bedroom and Other Stories"(後に短篇集の元となった2冊の短篇集のうちの1冊)。その後"Flowers in the Rain and Other Stories"とその本の中から日本の読者のために再編され直した短篇集として晶文社から3冊、PHP研究所からも1冊(『イギリス田園の小さな物語』の本となり出版されました。

その後、この短篇集の反響を見て他の出版社からも続々と中編、長編などが出版されることになりました。朔北社ではこの時、他社が二の足を踏んでいた長編2冊と中篇1冊を出版しました。日本では現在までに(復刊を除き)18タイトル、23冊の本が翻訳出版されています

※単行本になる以前には月刊雑誌『婦人之友』(婦人之友社)でいくつかの短篇が連載され反響が大きかったことから、後に短篇集への足掛かりとなった。