伴野漆工藝製作所 伴野崇さん・友美さん/初出店者インタビュー
昨年度から、さくほリビングマーケットに初出店した方のインタビュー記事の連載が始まりました。何かにチャレンジしている人たちは、どんな思いをもって活動しているんだろう?背景にあるストーリーをお聞きしました。
——さくほリビングマーケット(8月6日開催)に出店してみてどうでしたか?
崇さん:接客は楽しかったですね。思わぬ出会いもありました。「(親の)同級生です」という方が声をかけてくれたり。地元のイベントならではですよね。普段の展覧会ではありえないこと。
今回は、「漆を知ってほしい」というのが目的だったので、生漆を精製する「天日黒目」という攪拌作業の実演をしました。ただ、あの炎天下、足を止めてじっくり見てもらうのはなかなか難しかったですね。まあ、ある程度は予想していたんです。夏場は、漆器よりも涼しげなガラス製品などの方が興味をもってもらえるということは(笑)。とはいえ、「どうすれば、もっと漆を知ってもらえるかな?」と夫婦でいろいろ作戦会議をしながら策を練る準備の時間もおもしろかったです。
友美さん:2歳の息子も一緒だったのですが、やはり子どもを見ながらの出店は限界があることもわかりました(笑)
——佐久穂町に漆工芸の工房があることを知らない方も、まだまだ多いですよね
友美さん:そうですね。漆を使った工芸を「漆芸(しつげい)」と言います。夫は器など造形作品の職人で、私は蒔絵や漆絵などの絵を描く職人。漆芸にもいろいろな技法があるのですが、そういうことも、あまり知られていないですよね。
崇さん:普段私たちは、百貨店のギャラリーなどで行う展覧会に出展したり、公募展に出品したりする作品を作っているので、何をしているのかイメージが沸かないという方も多いと思います。せっかく工房が町内にあるので、漆の魅力をもっと知ってほしいし、距離を縮められたらなと。
——本物の漆器は美術品のイメージもあり、やはり暮らしの中ではハードルが高いと感じる人も多いのかもしれません。
崇さん:興味は持ってもらえるけれど、じゃあすぐに「漆器を買って使ってみよう」となるものでもないとは思います。安価なものではないですしね。でも「なんで高いのかもよく分からないもの」というところから、謎を明かしていくようにちょっとずつ知ってもらって、ゆくゆくは自分で選んだ器を使ってもらえたらいいなと思っています。
友美さん:我が家では、ぼろぼろになるまで使い込んでいます(笑)
崇さん:それに、漆器は塗り直せるから長く使えるんですよ。
——そうなんですか!
崇さん:傷が付いたら塗り直せるし、朱色から黒色に色を塗り替えることもできます。使い込むと増してくる艶感もとてもいいですよ。
友美さん:息子の器には、漆で車の絵を描いてあげたり。模様を変えることもできます。
——全く知りませんでした!知れば知るほど、漆へのイメージが変わりますね。他に、漆の魅力ってなんでしょうか?
崇さん:漆は日本の縄文時代から使われている素材。それだけ古い文化が今も残っているのは「美しく、理にかなっているから」だとわたしは思っています。8000年続く、ゆったりとした悠久の文化。自然そのもので普遍的な美。ずっと使う人がいて、進化させてきた人がいるということです。
それから、塗料であり接着剤でもある。耐久性があり、仕上げ方によっては金属よりも艶が出る。そういった素材としてのおもしろみも魅力ですね。
職人として、伝統を守りながら新しいものを作っていく挑戦心を持ち続けたいです。
——これからやりたいことはありますか?
崇さん:最近、地域の方に向けた漆芸基礎技術講習会を始めました。木製のお椀、スプーン、箸を使って、やすりがけから漆塗りまで数回に分けて体験してもらいます。もっと漆を知って、距離を縮めてもらえるような活動を考えていきたいです。それから、漆についての話は尽きないので、漆の魅力をしゃべる場もあればいいですね(笑)
友美さん:わたしは、国産漆に関心があって。戦前には、佐久穂町でも漆を栽培していた人がいたそうです。駒ヶ根に、漆を木から搔き取る「搔子(かきこ)」をやっている方がいらっしゃるので、この地域でもなにか出来たらいいなと。佐久穂町で漆を栽培するというのが実現したらおもしろいなと思っています。