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STEP4 選ばなかった風景
本当はSTEP3とSTEP4はの間にもう1回分講義がありましたが、最終課題に向けて、自分の持つ主題を引き出すということで、まとまった文章は書きませんでした。
また自分のついての気づきを引き出してもらうような講義だったので、noteには書かないことにします。
次は、最終課題の発表なので、これが最後の講義でした。
一応、最終課題の初稿を前日の夜に書き上げて臨んだのですが、講義は意外なものでした。
太宰治の黄金風景を模倣するワークシートを元に創作文章を書くというものです。ワークシートには著作権もあるのでお見せしないことにしますが、内容はこんな感じです。他にもこの黄金風景の優れた部分が理解でき、受講生がよい文章が書けるような工夫がたくさんあって、書き上げた後にとても達成感がありました。
・タイトルは「〇〇風景(〇は何文字でもよい)」
・黄金風景を、1.過去 2.近況 3.負けた瞬間 4.負けてみた風景 5.結びの5つに分けてあり、3.負けた瞬間・4.負けてみた風景を中心に書く(1.過去と2.近況はワークシートにあるポイントに沿ってあっさりと。)
・3.には「負けた、負けた(勝った、勝ったに変えてもOK)」というフレーズを必ず入れる
・5.結びには「負けた。これは、……だ。 」をつかう
「選ばなかった風景」
私は、家族や友人を愛し、喜ばせ、安心させたいと思っていた。
私は、30歳を迎える彼女に結婚をすすめ、何度か合コンを開き、夫の友人のよさを説いた。
彼女はこだわりの強い人間だった。
私たちは大学で出会ってからずっと仲が良い。大学ではちがうグループだったけれど、同じ会社のインターンシップをし、帰りに会うとミスドでカフェラテをおかわりしながらお喋りをした。社会人になって、彼女はインターンシップをした会社に、私はまったく別の業種の会社に就職したけれど、月に1、2度は会って食事をしたり、流行の場所に遊びに行った。
ここ近年、私は結婚、出産を経て復職、働きながら二人の子供を育てている。一方、彼女はというと、最初に務めた会社を体調を崩して退職。しばらくは派遣社員として働いていたが、30歳をすぎてからまた元の業界の別の会社に正社員として採用された。
あんなにボロボロになったのに、どうしてまた。あんなふうになった彼女はもう見たくない。彼女は、夢見がちで忘れっぽく、懲りない性格なので、インターンでも恋愛でも同じ失敗を何度も繰り返していた。私は、以前の職場で大変な思いをしたことを思い出すように忠告した。彼女は、「私には他にできることがないから」と力なく言ったが、そんなことはない。彼女には、ふつう会社でふつうに働く力がある。私くらいには。
私が二人目の女の子を産んだ後、彼女に会った。派遣社員をしていた頃、彼女は私のことをうらやましいと言っていた。29歳で結婚し、子供が生まれ、都内の実家近くにマンションを買った私のことを。新天地で働く彼女の口からは、会社のこと、上司のこと、部下のことと悩みが尽きない。でも彼女はもう、私のことをうらやましいとは言わなくなっていた。
負けた、負けた。
負けた私が目にしたのは、満ち足りた表情で我が子と遊ぶ彼女の姿だった。あんな風に子供と遊べるのだから、自分の子供ができたら、どんなにかわいがるだろうと思う。でも、彼女は子供をほしがる様子もなければ、ひとりでさみしがる様子もない。結婚の話をしても、ふにゃふにゃ言うだけだ。
負けた。私は彼女が選ばなかった風景の中にいるのだ。彼女は自分の人生を選んだのだ。
負けるというのは、自分が選ばなかった風景をまぶしく思うことなのだ。
彼女もきっと、私を通して選ばれなかった風景を見ている。
もう少し子供が大きくなったら、彼女の作品を見に行こうと思う。
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