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母の日と猫と、鳥取らしい雨と、

「母の日と猫と、鳥取らしい雨と、」

5月。曇天がアピールポイントのような鳥取で、
嘘みたいな晴れが続くと
なんだか世界が嘘をついているような気分になるのは
きっと自分だけなんだろう。
朝方のまだ冷えた空気を吸い込んで、ため息をはいて
こんなふうに余計なことを考えながら連休をこなした。

ゴールデンウィークの仕事の疲れがドカンとのし掛かるかのように、母の日は土砂降りの日曜になった。
きっと山陰の空も晴らすことに疲れたんだ。

帰り道、自販機にペットボトルを捨てて帰ろうとしたら、
いつもの場所にいつもの猫。

「君はいつも絵になるね」

と話しかけると、心なしか得意げな顔をした。

ふと耳を傾ける、声が聞こえる。
小さな小さな子猫が、一生懸命に母を呼ぶ声がする。
この裏の廃小屋から聞こえてくる。

心配が先行した私は思わず駆け寄ってしまう、だめだ、だめだ、人間があまり近づいてしまうと、
人の匂いが付いて育児放棄をする猫がいるって、こないだ聞いたばかりなのに。

真っ暗なその廃小屋には扉にチェーンがかかって、人間1人がまともに覗き込むことさえできない。

気がついたら私は、土まみれの濡れたアスファルトに膝をついて這いつくばるような格好をしていた。

何やってんだ。
手のひらは泥まみれ、ズボンも汚れて
側から見たらとんだわんぱく小僧だ。

そういえば、最近は周りから子供を授かった報告が立て続いていたな。
あの子もあの人も、こんなに同じタイミングにあるもんなのか、
みんな母になっていくわけだ。
驚いたもんだ。

かたやこっちは泥まみれのわんぱく小僧だ。

何やってんだ。
なーにやってんだ。

土砂降りの雨音に負けないくらいに、母を呼ぶ子猫の声が大きくなっていく。

その音と雨水にかき消されるように、
私は小さく小さく泣いた。

これはね、悲しいとか虚しいとかそんなことでは無くて

泥まみれの自分がおかしくって面白くなって、
泣いたわけだ。

雨が穏やかになったころ、
後ろから親猫が歩いてきて子猫に寄り添った。

なーんだ、君も親になってたんだ。
小さいうちは側にいてあげてね、お願いね。

私も、そのうちいつかは母になる。
その時、私は
何を伝えられるのだろうか。
何を教えられるのだろうか。

お母さんね、猫を追っかけて泥まみれになったんだよ。

そんなことでもいいんじゃないだろうか。

母の日と、猫と、鳥取らしい雨と、

捨てる為に持っていたペットボトルはすっかり捨てることを忘れて、一緒に家に帰った日曜日だった。

今日の思い出はこのペットボトルの中に閉じ込めて、明日捨てよう。

世の中のすべてのお母さんへ、
いつもありがとう。

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