記憶の行方#指先のリズム
父は、ベッドに横たわっていた。頬はこけ、顔の色は土に変わろうとしているようだった。
「お父さん、案外、私は幸せです。好きな人のこどもが産めたし、結構、いい男に育ったのよ。」
背後には、私の身長をこした子が立って、18年ぶりに再会した子を眺めて、何かを思い出したように、父は、天井を眺めた。
私は、椅子に座り、目を開けて天井を向いている父の手を両手で包んだ。
「もう、耳が聞こえないのよ」
長く見守って来た、姉が言った。
(私の声はもう聞こえないのだろうか。)
父の手のひらをまじまじとみた。ごつごつとした手の甲、ふしくれだった指、何を掴んで、手放して来たのだろう。手のひらには、百握りのラインが一直線に両手に入っていた。手のひらに、とんとんとん、と、指先で
「(わたしは、しあわせです。ありがとうございます。)」
何度も、指先でリズムを刻んだ。
♪mabataki-vaundy
を聴いて浮かんだシーンを描いてみました。