#99 発信を対話型でいくか非対話型でいくか
自分の音楽に共感してくれる人やファンを増やすことを考える上で、「聴き手を理解して聴き手の需要を考慮する」という点が欠かせない、ということを以前からお話ししています。
この「聴き手と関わる」という点を実施する上では、「対話が得意」か、あるいは「対話が不得意」か、というところを自己分析として見極めることが大事だと思っています。
つまりは自分が「対話型」なのか、あるいは対話型ではない「非対話型」(一方通行型)なのか、どちらのスタイルが自分に合っているかというところを自分なりに把握する、ということです。
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このうち、自分が「対話型」で、聴きのみなさんと対応することが得意でそこにやりがいを感じられる、むしろ直接話したい、聴きのみなさんの熱意を肌で感じたい、リアルに対面で感じたい、というように考えている場合には、直接そのまま聴きのみなさんと関わることが考えられます。
具体的には、ライブをやってそこにお客さんとして聴きのみなさんを招いて、ライブが終わったら直接話す場を設けて実際に話すとか、SNSだったらみなさんからもらったコメントにしっかりと受け答えをして交流するとか、ライブ配信でもらったコメントにきちんと反応して、そこに自分なりの考えを自分の肉声できちんと返すとか、そういったことが考えられます。
まさにこの対話型の人は、直接聴き手と対話することによって、冒頭で言った「聴き手と関わる」「聴き手の需要を考慮する」という点を実現できます。
対話型の場合は、それに合ったインターネット媒体を活用することができて、具体的には今言ったライブ配信とか、リアルのライブとか、音楽以外の面でいえば聴きのみなさんと直接交流できるような企画を実施するとか、そういったことが考えられます。
また、音楽活動のコンセプトやブランディングになども対話によって伝えられるので、より自分の境遇とかパーソナルな部分を強調することもできそうです。それを聴き手に直接語りかけるようなスタンスで伝えることができます。
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一方で、自分のことを対話が苦手な「非対話型」だと認識できた場合は、直接対話する局面をなるべく減らして、ミュージシャンとしての自分からのメッセージとかコンテンツを通じてコミュニケーションを取るようなやり方が検討できます。
SNSであればミュージシャンとして発信をするものの、そこに何らかのコメントをもらったとしてもリプライすることを極力減らして最低限の反応で済ませるとか、ライブ配信などはリアルにチャットが見えるのでチャット欄を完全にオフするとか、リアルでライブをやってもお客さんと直接交流することを控えて、その代わりに舞台上からのMCとしてメッセージをきちんと伝えるようにするとか、そういうやり方ができます。
この非対話型の場合には文字通り対話が入ってこないので、一方通行的なメディアの方が発信の媒体としてより合っているといえます。
具体的には、ミュージックビデオのようなものを作ってYouTubeで一方的にアップロードをするとか、SNSだったら「Xでフォロワーの共感を得るようなポストをする」というより、「インスタを使ってビジュアル重視で発信者として一方的に発信するようなスタイルにしてみる」とか、そういったことも検討できそうです。
同じように、発信する内容についても対話をそこまで重視しないので、よりアートな雰囲気を持つものを発信するとか、「コミュニケーションを取りながらその良さを伝える」というより、発信者として信じられるものを自分の信念に沿って発信するとか、そういうやり方ができます。
そして、この場合、対面とかメッセージに対する直接的なコメントとかそういったアクションを起こしづらくなるので、おのずとミュージシャンとしてのブランドとかメッセージの一貫性とかコンセプトとか、そういったものが重要視されます。
そのあたりの作り込みが甘いと、聴きのみなさんと直接対話もしないし、発信する内容にもブレがあって、コンセプトもブランドもよく分からなくて全体的に中途半端で、聴きのみなさんからするとよく分からない、距離の遠いミュージシャンになってしまいます。
だから、非対話型寄りで活動を進める場合には特にそのあたりについてきちんと作り込みをしておくことが求められます。
また、ソロではなくてグループで活動している場合には、対話が得意なメンバーに聴き手との対応を担当してもらうこともできるし、極論をいえば非対話型で行きたい人は、ミュージシャンとして自分がお客さんの前に立つことをせず、作曲家とかアレンジャーとかプロデューサーとかプレイヤーとか、裏方に徹することも考えられます。
完全に姿を見せないような役回りになれば、その非対話型のスタンスもそこまで不自然なものではなくなります。
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そして切ないのが、この「対話型」と「非対話型」のそれぞれが、反対のスタイルで活動に取り組んでしまうケースです。
対話が得意ではない人が対話型のやり方で活動を進めようとすると、すごく苦労を感じることになります。
コミュニケーションを取るのが苦手なのに、ライブ配信でチャットに反応しなきゃいけないとか、SNSでフォロワーのみなさんときちんと関わりを持たなければいけないとか、何らかの交流会的なものでリアルに聴き手のみなさんと交流しなければいけないとか、そうなってくると活動が息苦しいものになっていきます。
またその反対に、本当はもっと聴きのみなさんと直接向き合って対話していきたいのに、少し寡黙なアーティストぶって非対話型のスタンスを選んでしまうと、いまいち聴き手の需要が見えてこなくて、自分の本来のキャラクターがしっかりと聴き手に伝わっていなくて、本来の自分とみんなが持っているイメージの間に溝が生まれてそこに息苦しさを感じるとか、直接関わって目を見て話せばいろいろなことが分かるのにそれができないことにもどかしさを感じてしまうとか、そういったことになってしまいやすいです。
だからこそ、自分が対話型なのか非対話型なのかというところを見極めて、そんな自分に合った活動の進め方や、それぞれの属性に合わせたアーティスト性や活動のスタンスのようなものを考えて音楽活動に取り組んでいくことが、より満足度高く音楽活動を進めていく上で大事だといえます。
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この「対話型」「非対話型」はどちらにも良さがあり、どちらのスタイルでも自分の個性や価値観やメッセージをきちんと音楽に込めて聴き手に伝えることはできて、それによって聴き手とのつながりを作ることができます。
むしろ、自分に合っていないスタイルを選んでしまうことで音楽活動が息苦しいものになってしまうことの方が問題なので、自分がどちらに当てはまるか、対話型と非対話型のどちらのスタイルが自分に合っているか、というところを見極めて、適切にみなさんといい関係を築いていただければと思います。