O mio babbino caro(私のお父さま)⑥
入試を受けるため、父と上京した。
初めての東京。
東京までまだ新幹線の無かった頃。
上野まで特急で片道、ゆうに6時間半かかった。
行きの電車の中で父はずっと戦争の頃の話をしていた。
なぜ満洲に行ったか。
満洲ではどんな生活だったか。
引き上げてきてからどんなことをしていたのか。
今だったらとっても興味深く聞いたのに、あの時はただただうるさかった。
頼むから静かに景色を見せてくれ!
そう思っていた。
邪険にしても父は喋り続けた。
父の話、ちゃんと聞かずに、
もったいないことしたなぁ。
父は出張で頻繁に上京していたので、それはそれは得意げに東京案内をしてくれた。
田舎者の私は、次々に来る電車に感動した。
特急に乗るのに特急券なんて要らないし(京王線)。
合格するなんて夢にも思っていないので、気楽で楽しい受験だった。
お勉強は英語と国語の2教科のみ。
苦手分野なのでだいぶしんどいけど、
あとは好きな音楽のことだけ。
ピアノ実技、歌、聴音、音楽理論。
音楽で試験なんて、楽しいではないか!
入試の最終日の面接の時、
面接官の先生方から、
「何故、学部を受けなかったのか?」と質問を受けた。
「勉強の入試が難しいと聞いたからです」
と答えたら一同に笑われた。
「短大の方が難しいんですよ。実技、良かったですよ。勿体無いな。来年、編入してきてくださいね」
私は混乱した。
そして、自分が受ける大学のことをちゃんと調べもせずに受験したこと、
とても後悔した。
ピアノの先生、そんなこと言ってなかった。
編入って何?
学部を受けられるレベルだったってことか?
私は急に欲が出てきてしまった。
もっとうまくなりたい!
合格し、嬉しかったけど、次第に色んなことがわかってきて…
自分の馬鹿さを後悔した。
いや、でもここからだ!
気持ちを切り替えて、
私の音大生活は始まった。