Config 2024 Recap:「Craft」を感じる3つのセッション+α
6/26-27、Figmaが年に一度サンフランシスコにて開催している「Config」というイベントに現地参加してきました!
このnoteでは、私が個人的に気になったセッションを「Craft」をテーマに紹介していきます。
※ セッションはFigmaの公式YouTubeで公開されています。日本語はなさそうですが、YouTubeの動画から書き起こししてくれるサービスなどもあると思うので、気になるセッションがあればぜひ観てみてください!
「Craft」とは何なのか?
Configはセッションのテーマごとにいくつかのカテゴリがあり、「AI & Innovation」「Building Products」「Dev & Code」「Product Management」… など、プロダクトに関する広いカテゴリが用意されています。
その中の1つが「Design Craft」でした。
「Craft」とは何を指すのでしょうか?
「巧みな技術」や「細部へのこだわり」など文脈に応じてさまざまな意味を持っていると思います。
ただ見た目が良くすることだけではなく、プロダクトやサービスを形作る過程において見せる細やかな配慮と、経験に基づいた高度な技術。ユーザーの目に触れるものが高い精度で磨き上げられ、素晴らしいプロダクトやサービスを生み出すための技法やアプローチを、Configのセッションから感じることができました。
そんな、つくることや楽しさを感じたおすすめのセッションを紹介します。
Leaving fingerprints: product, design, and stories at The Browser Company (Karla, Nash)
ブラウザ「Arc」を提供する「The Browser Company」のセッション。スピーカーは、プロダクトデザイナー兼ブランドリードのKarlaさんと、ストーリーテリングチームのリーダーであるNashさんの2人でした。
「ブラウザ」という多くの人が重要視してこなかった分野で、どのように新しいものを生み出すか?シンプルさが求められる世界で、常識を打ち破り、新しい形を作り上げるとはどういうことか。The Browser Companyは、そんな挑戦を続けており、そのクラフトは非常に美しく、心に残るものでした。
パーソナルな体験の重視
このセッションでは、パーソナルな体験を重視することがいかに重要かが強調されました。
例えば、ユーザーが登録した際に自動生成されるメンバーシップカードは、Arcユーザーにとって非常に印象的な最初のタッチポイントです。
このカードデザインは、Karlaの父がデータセンターでパンチカードを使ってプログラムを入力していた時代の記憶からインスピレーションを受けていて、そのデザインがArcのメンバーシップカードにも反映されているのです。カードの左下にある日付スタンプ、ボールドなフォントなどにその片鱗が見られます。
テクノロジーの外からのインスピレーション
2023年秋、AIに対する疲れがピークに達している時期に、ArcのAI機能「Arc Max」が導入されました。この時期に新しいAI機能をどのようにブランド化についても紹介されました。
「AI機能を表すアイコン」として一般的に思い浮かべるのは、「✨」の絵文字ではないでしょうか。Figma AIを始め、多くのAIツールがこのメタファーを使用しています。
しかし、Browser Companyは「Arc Max」を表すシンボルに「花」を選びました。Karlaの大好きであるという庭の花からインスピレーションを得て「花が咲き、季節ごとに移ろいがあるように、AIも進化していく」というコンセプトがそこには反映されています。
The Browser Companyはパーソナルな体験やテクノロジー以外のインスピレーションなどを通して、ユーザーとの深い絆を築き、ブランドに対する信頼と愛着を育んでいるのではないでしょうか。
Serious play (Andy Allen, Software Designer, !Boring)
個人的に大好きなプロダクトをつくるAndyさんのセッション。Andyさんは「!Boring Software」で「Boring Apps」をつくっているソフトウェアデザイナーです。
退屈なソフトウェアへ、一石を投じる
ぜひこのセッションを見る前に、(Not Boring) Apps アプリシリーズを使ってみていただきたいです。
例えば「天気」「計算機」「習慣トラッカー」「タイマー」。デフォルトで誰のスマホにも入っていて、普段気に留めることが少ないユーティリティアプリを、Andyさんは作り続けています。
Andyさんはセッションの冒頭で、アメリカのアーティスト、John Baldessariの話を紹介しました。そのアーティストは39歳の時にそれまでの全作品を焼却し、「I will not make any more boring art(二度と退屈なアートは作らない)」と誓いました。そして瞬間が、彼を20世紀を代表する芸術家へと導いたというエピソードです。
そんなアーティストに刺激を受けたAndy自身も、テック業界での快適な生活を捨て、新たな挑戦を始めました。
ゲームデザインのインスピレーションから、「最高に気持ち良いチェックボックス」
Andyのソフトウェア開発の原点は、「ゲーム」にあると言います。
ゲームはグラフィックやストーリーテリング、サウンドデザインの分野で進化を遂げてきました。
このアプローチをソフトウェア開発に取り入れることによって、ユーザーに直感的な体験を提供することはもちろん、どれも同じようで「つまらなく」なってしまったユーティリティアプリから全く新しい楽しさを生み出しました。
私も大好きで毎日使っている、「 (Not Boring) Habit」。
Andyは、習慣トラッカーでタスクを完了したときのの「満足感」を最大化するために、ゲームデザインに取り入れられる手法を用いました。
グラフィックやアニメーション、サウンド、ハプティクス…たった一つのチェックボックスというUIから、いくつもの要素の集合体が彼のクラフトにより、「最高に気持ち良い」体験を得ることができます。
このセッション、そしてAndyさんの作るアプリを日々使うことで、ソフトウェアは単なる問題解決のツールではなく、日常生活を豊かにする存在でもあると強く感じました。
その豊かさや楽しさを、ソフトウェアを通して実現するAndyさんのクラフトは、「使いやすいアプリ」以上の価値を生み出しています。
以前、(Not Boring) Appsについてnoteを書いていたので気になる方はぜひご覧ください。(3年前にAndyさんのアプリを使ってからずっとファンなので、Configの現地で一目でも見れてとても嬉しかったです…)
In defense of an old pixel (Marcin Wichary, Director of Design, Figma)
上述したBrowser Companyと!Boringはどちらも大ファンなので「絶対見る!」と決めていたのですが、実際に会場でいちばん「楽しかった」のが、Figmaのデザインディレクター、Marcin Wicharyによる、「ピクセルフォント」についてのセッションです。
「制限された」ピクセルフォントが持つ、多様な表現力
セッションは、iPodで使用されていた「Chicago」フォントから始まりました。
「Chicago」を構成するアルファベット・数字などの要素は、1800ピクセルのみで構成されているといいます。この1800ピクセルという数は、なんとiOSのWi-Fiアイコンと同じピクセル数です。
ピクセルフォントは少ないピクセルで構成されるため、表現の幅が限られているように思えます。
しかし実際、Nokiaのフォント、Windows XPのTahomaフォント、ナムコのゲームフォント、文脈がなくてもそれらのフォントを見ただけで何に使われているかを認識できたのは驚きでした。
8x8という限られた領域でも、ステンシルフォントやヒストリカルフォントなどのバリエーション、さらにシャドウ、アウトライン、イタリック、異なるウェイト…のような多彩な表現を実現するフォントがありました。そこにはベクターフォントには出せない魅力があると言います。
会場全体で体験する、8x8が持つ表現
セッションの中盤では、参加者全員でピクセルフォントをデザインするコーナーがありました。会場にいる私たちはQRコードを読み取り、表示された8x8ピクセルのキャンバスに文字を書きます。
すると、私たちが今まさにデザインした「A」が会場のスクリーンにそれらが映し出されたのです。圧巻の体験でした。
今まであまり注目したことがなかったピクセルフォントに興味が湧いたのはもちろんですが、8x8という制限された領域で表現できる幅の広さ、そしてなんと言っても創作の楽しさを心から感じるセッションでした。
その他のおすすめセッション
プロダクトマネジメントにおけるクラフトを取り戻す by Peter Yang, Product Lead, Roblox
上の3つでは主にデザイナーのセッションを紹介しましたが、もちろん「Craft」とはデザイナーに限ったものではありません。Robloxでプロダクトリードを務めるPeter Yangさんのセッションは、プロダクトマネジメントのクラフトについてでした。
多くのPMが「顧客が愛するプロダクトを作るため」にこの職に就いたが、数値目標や人員増加ばかりに向き合うことになっている…
そんな問題提起から始まったセッションでは、プロダクトの向き合い方や、いかにクラフトに向き合うために時間を確保するか、本当に大事なことのためにAIを使う、など具体的なアクションも紹介されていました。
Z世代と共に、そしてZ世代のために作る方法 by Jiaona Zhang, CPO, Linktree
「頑固」「シニカル」「怠惰」。メディアにはZ世代に対するイメージを表す言葉が溢れています。
しかしJiaona Zhangさんは、これらの偏見を鵜呑みにしてプロダクトをつくるのではなく、実際にZ世代と共に働き、彼らの声を聞きながらプロダクトを開発することが重要だと言います。
このセッションでは、「Z世代のためにつくる」のではなく、「Z世代と一緒につくる」ため、例えば実際にZ世代と一緒に働いてみて素晴らしいアイデアが生まれた、など、アプローチが非常に興味深かったです。
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本当はもっと紹介したいので、少しずつ足していきます…!
プロダクトに関わるすべての人が、クラフトにこだわるために
Figma CEOのDylanさんによるキーノートの終盤にこんな言葉がありました。
Figmaが目指す創作のビジョンなど、とても素晴らしいキーノートから始まり、現地参加してみることで普段出会わない様々なデザイナーと話し、改めてデザインについて考えることができました。
自分自身も、創作に関わるプロダクトをつくる一人として、「クラフト」へのこだわりを強く持ち続けたいと思う2日間でした。