そうだ、浜松へ行こう②浜名湖はほぼ海だった
浜松駅で魂の音を聴き、すっかり元気を取り戻した私は、浜松駅から約10分の弁天島へやって来た。
弁天島は、浜名湖と太平洋の間にある埋立地だ。
埋立地だよな?と思って調べてみたら、明応地震の前は比較的しっかりした土地があり、島という特性上、地籍による争いが何度も起きていたらしい。知らなかった。(Wikipedia)
海が近いから、浜名湖は、湖のほうを見ると遠くまで景色がすこんと抜けている。ほぼ海。
汽水湖だから、雰囲気も水質もほぼ海といっていい。
4両編成の短い電車から弁天島に降りると、弁天島の駅のホームはがらんと広く、ホームの先端からは浜名湖が見える。
降りる人の人数に対してとても駅が広いのだけれど、もしかしたら夏の観光シーズンの時は、この駅も人でいっぱいになるのかもしれない。
リゾートマンションが立ち並ぶ、少し寂れた駅前の道路を渡ると、浜名湖はもう目の前だ。
景色がぐわっと開けて、有名な弁天島の鳥居が見える。
天気は晴天。湖面が光って痛いほどに眩しい。
売店ではまだかき氷が売っているけれど、納得の気温だ。
かき氷と焼きそばの売店を冷やかしながら、私たちはしばらく湖畔を歩いた。
湖畔のあちこちには東屋のようなものがいくつか並んでいて、軒の下では本を読んだりお弁当を食べたりする人たちの姿が見えた。
おそらく、近所に住んでいる人にとっては庭のようなものなのだろうし、単車やロードバイクで来た人にとっては、浜名湖はゴール地点にするにふさわしいランドマークなのだと思う。
人が多すぎることはないけれど、活気があっていい感じだ。
「暑いね」
そう話しながら、日差しを避けるため、ひとまず軒下に腰を下ろした。
最初は遠慮して座っていたのだけれど、隣の東屋で、20代くらいのお兄さんが寝転がってお昼寝をしていたので、顔を見合わせ、思い切って東屋の床に寝転がってみた。東屋の床が砂でジャリジャリしているなんて、瑣末な問題だ。
寝転がれば、東屋の屋根のすきまから、雲ひとつない青空が見えた。
吹き抜けるのは乾いた潮風。車の音はほぼなく、聞こえるのは子どもたちの声。この上なく、3連休にふさわしいシチュエーションである。
「浜松、いいね」
駅前に引き続き、思わず口からそんな言葉が出た。
土地柄、南海トラフという心配はあれど、駅前は都会的で、10分でこの自然に触れられる。
いずれは首都圏を離れて、どこかのんびりできる場所で暮らしたい、という移住の心に改めて火がついたのかもしれない。
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いろんなカードを持ってはいたけれど、急に浜松という文字がその中で煌めいて見える。
「週末、ここにきて寝転がりながら本とか読んでさ。くだらないこと話すだけとか、たぶんすごくいいと思う」
「海でドローン飛ばしたり、写真撮ったり」
「ロードバイクで浜名湖一周したりできるかな」
「何キロあるんだろうね。わかんないけど」
どこかに行くたび、さほど観光地も回らず、私はそこの土地に根を下ろす想像をして遊ぶ。
そして、パートナーはそれに付き合ってくれる。
ここで暮らしたら楽しいか?
ここでの暮らしはどんなものになるだろうか?
2人とも首都圏育ちだからこその遊びで、2人とも暮らしを充実させることにコストをかけるからこそ成立する遊びだ。
もちろん今はお互い忙しく、まったく引っ越しができるような状況でもないし、そもそも夫婦ですらないのでともに移住をするなんてことは約束もできない。
でも、10年くらいのほんの少しの未来に、時間に追われて疲労困憊の日常から逃れて、湖畔の家で毎朝コーヒーを淹れるようなそんな生活があったとしたら……それはとても素敵なことだ。
浜名湖を眺めながら、ぼんやりそんなことを考えていた。