そうだ、浜松に行こう③過去と未来をつなぐ街(最終回)
浜名湖でゆっくり心を癒し、浜松市内に戻る。
夕食を取るにはまだ少し時間が早く、私たちは市内にある浜松市楽器博物館に足を運ぶことにした。
浜松駅の駅前にある市営の博物館なのだけれど、とても綺麗でこだわりを感じる博物館だ。
入館料は800円。
少し高いかもしれないけれど、世界中の楽器を眺めることができ、触れるエレクトーンや電子ドラム、休憩ができるソファーもある。
そこそこの価格感にしておけば、冷やかしのように入ってくる人も減るだろうし、入館料は楽器やその文化を守るために使われるのだろうから、個人的には800円はお得な気がした。
博物館の中には、本当にたくさんの楽器が展示されていた。
展示は地域別で、ヨーロッパ・アジア・アフリカ……と世界旅行をしていく感覚で見られる。
ほかの博物館でもあるように、展示品の前にはヘッドフォンが置いてあって、楽器の音を試聴したりすることもできる。
当たり前だけれど、触れるものはあまりなく……楽器ってどうしたって触りたくなるから、それだけが少し残念だった。(仕方ないのはわかっている)
私が博物館を訪れた時は、特別展のようなものも並行して行われていた。
鍵盤楽器の歴史に触れる特別展だったと思う。
古いピアノとチェンバロがたくさん展示されていた。
この特別展では、一日に何回か、学芸員の方がふたつの楽器の歴史と音色についての説明をしていて、その際にはいくつかの楽器の試奏もしているのだと案内を頂いた。
私はあまりピアノの曲が好きな方ではないのだけれど、ピアノも年代によっては全く音色が違い、今よりも少し民俗的な楽器の音がするのだと、ここで初めて知った。
昔から好きだったチェンバロの音色は、相変わらずとても繊細で、でも生で聞くと思ったよりずっと力強かった。チェンバロの低音って、あんなに空間に響いて、綺麗なんだな。
色々な楽器を眺めて改めて、音楽っていいな。と思った。
四半世紀前に私が触れていたエレクトーンも、もう博物館の仲間入りをしていて【わたしたち、古い楽器ですよ】の顔をしていた。お前、もうそんなとこに並ぶようになったのか。ちょっとだけ、笑ってしまった。
3歳児教室かなにかでヤマハでエレクトーンを始めて、初めて発表会に出たときに弾いたのは、連弾の軽騎兵だった。
私が一番年下で、家で練習するためにグラビノーバを買ってもらった。
家のCDでずっと聞いていた軽騎兵と、その前後に入っていた展覧会の絵。いろんな曲を一枚のCDで覚えて、毎日毎日飽きずに聞いていた。
忙しさに追われてずーっと忘れていたそんな昔の記憶が、楽器を眺めながら昨日のことのように思い出されて、なんだかとても懐かしく切なくなった。
今の私より若かった母がいて、幼かった私がいて、でもそれはもう二度と戻ってこない時間なんだ。
浜松の旅行は、楽器を通して自分の過去を見つめなおしたり、ゆったりした自然の中で未来を考えたり、そういう普段の旅行とはまた違う、とても豊かな旅行になった。
誰もが行きたい人気の観光地ではないかもしれないけれど、自分の心にピッタリ寄り添う街というのがあるものなんだなあ……という気づきとともに、またいつか、浜松に戻ってこようと思う。
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