見出し画像

1997年ダーツの旅

ダーツの旅

千葉県内とはいえ、縁もゆかりもない土地に住むことになったので、まずはどんなところなのか知ろうということで、父発案でダーツの旅をすることにした。市内の地図に色鉛筆を投げ、色が付いたところが目的地だ。

私たちは張り切って車に乗り込んだ。
車内にglobe・SPEEDなどのヒット曲が流れる中、知らない景色を眺める。
到着した目的地は、どことなく寒々しく、新しい街を好きになるどころか、なんだか冴えない所だなあという印象のまま家に帰った。

金魚のお世話係

新しい学校では、暗黙のルールを見逃さぬよう周りの様子を伺い、神経を使った。
毎朝庭から脱走した気性の荒い犬が通学路を塞ぎ、登校するのが怖かった。
学校に行く日はいつもどんよりした気分だった。

ある日、クラスの何人かで金魚の世話をすることになった。
担任の先生から餌を買ってくるように頼まれた私たちは、放課後ホームセンターに集まった。金魚の餌を購入するというミッションをやりとげた後は、自然と会話がはずんだ。

翌日から毎日餌やりをはじめた。自分たちで買ってきた餌をパクパク食べる金魚に愛着が湧いた私たちは、みんなでノートに金魚の様子を記録しようと決めた。
金魚の記録はそのうち誰も書かなくなったが、金魚のお世話をきっかけにして、ようやくみんなとクラスメイトになれた気がした。

転校するということ

4月になると、クラスに3人ほど転校生がやってきた。これでようやく転校生という立場から解放されるとほっとした。この学校の暗黙のルールは、教えてあげようとさえ思った。

新しい小学校で居心地良く過ごすため、私はグングン変化し、その地域の子になっていった。
小さく傷つきながら試行錯誤したことは、私の中のある種の図々しさや、逞しさを育てたと思っている。

それは私にとって良いことだったのだろうか。
わからないが、しかたがなかったのだ。変わる必要があったのだから。

あんなに恐ろしかった鎖の外れた犬も、友達と一緒ならちっとも怖くなくなった。

どんよりした雲はいつしか去り、校庭には満開の桜が咲いていた。