菊と日本人
白菊と黄菊と咲いて日本かな
夏目漱石
旧暦の九月は「菊月」とも呼びます。菊を愛でる重陽の節句に由来しますが、このように菊は季節をあらわす花であり、日本の秋を語る上でも、菊の花を欠かすことはありません。
しかし、ひと口に菊と言っても、その品種は多く、同じ種属でありながら、まるで違う植物にみえる花もあります。
いけ花をなさる方ならご存じと思いますが、菊は花だけなく葉も鑑賞しますから、おなじ種属とはいえ葉の形状が異なる花は、与えられた別称で呼んであげるのも、花への心くばりかな。なんて思います。
さて、菊の歴史はたいへん古く、野菊であれば昔から日本各地に咲きましたが、一方で園芸花としての菊は、奈良時代に中国から伝来しました。
しかし、その時代に咲いていた花でありながら『万葉集』の中には菊を詠った歌が一首もありません。
4500首もあるのに一首もないとは何故か。それは当時「和歌は和語でうたう」というルールがあり、ゆえに漢名で呼ばれる渡来植物、つまり菊を詠んだ歌は『万葉集』に選ばれなかった。という事のようです。
けれど、元号「令和」の典拠になった「梅」や「桃」は、おなじ中国伝来の植物でありながら、多くの歌に詠まれています。
この扱われかたの違いは、菊がもともと薬用や厄除けとして伝来した植物なので、鑑賞する概念がなかったから。とも思うのですが、
とはいえ道々や野山に咲く野菊をみて、歌に詠まずにいられたかしら。とも思うのです。きっと詠んだ歌はあっただろうと。
ですから、のちの歌集に菊も詠われているのを見つけると、時代が変わってよかったな、なんて嬉しく眺めます。
咲きそめし宿しかはれば
菊の花色さへにこそ移ろひにけれ
古今和歌集 秋下より
(花が咲き初めた頃の家が古く変われば、菊の花もそれに伴なって衰えてくるものだが、しかし美しくなったことでもあるよ)
そうそう。枯れて焦がれた晩菊もまた美しいんですよね。この秋にも出会えることを楽しみに。今日もいちりんあなたにどうぞ。
菊 花言葉「信頼」
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フラワーギフト専門店 「Hanaimo」 店主
普段はお祝いやお悔やみに贈る花、ビジネスシーンで贈る花の全国発送をしている、花屋の店主です。
「あなたの想いを花でかたちに」するのが仕事です。since2002
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