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たそがれ時 かわたれ時

立冬を過ぎ、午後にもなれば急かされるように日が落ちるようになりました。いい夕暮れだなと眺めてる間にも空は暗くなり、芝居の浅葱幕のごとく鳴りを潜め、そしてそこからが長い。ひとつすることを見つけても、まだ持て余すほどに、長い。

そんな季節、この夜、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。

夕暮れどきの薄暗くなる時間帯を「たそがれ時」といいますね。この「たそがれ」は「誰そ彼」に由来します。というのもこの時刻は、あわてて「誰だ彼は」と問いたくなるほど、あっという間に日が暮れるから。

このような時間帯をあらわす言葉として、「たそがれ」は源氏物語にも登場しています。

寄りてこそ それかとも見め たそかれに ほのぼの見つる 夕顔の花
 『源氏物語』「夕顔」より

一方で夜明けの薄明りのことは「かわたれ」といいます。こちらは、つるべ落としのような夕暮れとは反対に、ゆったりと昇る日の薄明りの中で「誰かしらあの人」「かわたれ(彼は誰)」と相手を確かめる様子が感じられる言葉です。

とはいえ、「たそがれ時」は聞くけれど、「かわたれ時」ってあまり言わないなと。そこで調べたら、こちらも万葉集にありました。

暁の かはたれ時に島陰を 漕ぎにし舟の たづき知らずも
(夜明けの薄明りの中で、島陰から漕ぎ出した船が、今どうしているか、知るすべもなくて心細い)

そしてこれらは、元々は同じ意味、同じように使われる言葉だったようです。しかしそこは日本人。わずかな違い、かすかな移ろいにも、言葉を使い分けてきた私たちの祖先は、「たそがれ時」を「夜の薄暗さ」に、「たそかれ時」を「朝の薄明るさ」として、言葉を使い分けたのですね。

煩瑣なようですが、こうして言葉を知るたびに、私たちの祖先が培った、豊かな言語生活には、頭が下がるばかり。そして大切に使ってゆきたいなと思います。

そうそう、ラベンダー色の「たそがれ」という名のバラを見つけました。今日もいちりんあなたにどうぞ。

紫のバラ 花言葉「尊敬」

たそがれ


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フラワーギフト専門店 「Hanaimo」 店主
普段はお祝いやお悔やみに贈る花、ビジネスシーンで贈る花の全国発送をしている、花屋の店主です。
「あなたの想いを花でかたちに」するのが仕事です。since2002
https://www.hanaimo.com/





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