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私を束ねないで

今日は勤労感謝の日。日ごろ私たちが気づいていない、縁の下の力持ちになって働く人たち、お世話になっている人に感謝をする日です。この「働」という国字、「人が動く」と書いて「はたらく」と読ませるなんて、日本人とはなんて、昔から勤勉で真面目な国民なんだろうと思います。

ということで今日は祝日、頭も休ませ一編の詩を。何にも縛られず、どこまでも自由な心でいたいと願うような言葉は、誰かに投げかけているようでいて、自分に呼びかけているようにも見える詩です。ときには解き放たれて、過ごしてみたいものですね。よい一日を。

『わたしを束ねないで』新川和江

わたしを束ねないで
あらせいとうの花のように
白い葱のように
束ねないでください わたしは稲穂
秋 大地が胸を焦がす
見渡すかぎりの金色の稲穂

わたしを止めないで
標本箱の昆虫のように
高原からきた絵葉書のように
止めないでください わたしは羽撃き
こやみなく空のひろさをかいさぐっている
目には見えないつばさの音

わたしを注がないで
日常性に薄められた牛乳のように
ぬるい酒のように
注がないでください わたしは海
夜 とほうもなく満ちてくる
苦い潮 ふちのない水

わたしを名付けないで
娘という名 妻という名
重々しい母という名でしつらえた座に
坐りきりにさせないでください わたしは風
りんごの木と
泉のありかを知っている風

わたしを区切らないで
,コンマや.ピリオドいくつかの段落
そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには
こまめにけりをつけないでください 
わたしは終わりのない文章
川と同じに 
はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩

詩集『比喩でなく』

アラセイトウ(ストック)花言葉「求愛」

あらせいとう(ストック)

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