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化粧品を捨てた――「脱コル」の一歩

リキッドファンデーション、
BBクリーム、
CCクリーム、
パウダーファンデーション、
アイシャドウ、
ペンシルアイライナー、
リップグロス、
口紅。

おそらく「普通」の30歳の女性に比べたら圧倒的に少ない量なのだけど、「脱コル」を考えたすえに今日、これらの化粧品を捨てた。
手元に残ったのは、リップクリームとアイブロウペンシルのみ(※1)。
すこし寂しくて、でも少し心強さが残った。

「脱コル」とは、「脱コルセット」を略した言葉だ。
化粧や長髪、”女性らしい”服装など、女性だけに押し付けられたものを「コルセット」と捉え、抜け出そうという韓国フェミニズム発祥の取り組みだ。
ラディカル・フェミニストを自認する私はこの取り組みに賛同し、少しずつコルセットを脱ごうと思っている。
数少ない化粧品を捨てたのは、その一歩だった。

もともと化粧をほとんどしなかったから、正直特に思うことなく捨てられるだろうと思っていたけど、実際のところ抵抗を感じた。

一番抵抗があったのは、口紅を捨てることだった。
しているかどうか分からないほどのナチュラルメイクしかしてこなかった私が口紅を買ったのは、恋人との初めてのデートのためだった。
SNSで「エロリップ」として流行っていたのを買い、「かわいいって言ってくれるかな」なんてドキドキしながら、それをつけて恋人とデートした思い出。
あのとき「好きな人のために美容を気にする自分」というものを初めて経験し、そんないわゆる”女の子っぽい”自分をほほえましく思ったものだった。
その象徴のように手元に残っていた口紅を捨てるのは、自分の幸せな思い出を否定するかのように思われた。
だから捨てる前に最後にと思って、真っ赤な口紅を唇にひいて、鏡に向かって笑顔を作ってみた。
大丈夫、思い出は消えない。

化粧品を捨てたら、身軽になった気がした。
クレンジングジェル(これも必要なくなるんだなぁ)で口紅を落としてもう一度鏡に笑いかけた。
やっぱり、私はそのままの私が好きだ。

 * * *

脱コルのように、それまで日本という男尊女卑社会で洗脳され、内面化された価値観を脱ごうとすることは、想像以上の苦労が伴う。
その代表的なものが、「過去の自分を否定しなければならなくなること」だと思う。
自分が選んできたこと、自分がやりたいと思ってやってきたこと。
それが実は構造的に誘導された結果なのだとしたら?
そう考えると、何もかも信じられなくなって怖くなってしまう。
私もそうだった。
そのたびに私は、眠れなくなるくらいまで考えて、取捨選択をしようとした。

誰かに首輪をはめられ、鎖でつながれて生きるのはごめんだ。
フェミニズムは、私にとって自分の主体性を取り戻すための闘いだ。

So goodbye happiness
何も知らずにはしゃいでた
あの頃へはもう戻れないね
それでもいいの
                   宇多田ヒカル "Goodbye Happiness"

向き合うこと、そして自分の中から膿を出すことには痛みも伴う。
それでも自分であるために、そこから逃げたくないと思う。


※1…長く抜毛症を患い、時には眉毛をひたすら抜いてしまうこともある私には、まだアイブロウペンシルを手放すことができなかった。

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