厚切りトーストに、かぶりつく
目の前に、湯気の見えそうな熱々の厚切りトーストがある。
運ばれてきた時は思わず「おおっ」と声が出た堂々ぶり。
厚みは4センチくらい
片面はこんがりと焼き目がついていて
反対側はほんのりきつね色。
三角に切られて並べられたその断面は
極上の羽毛布団みたいに真っ白。
これは飛び込みたくなる!
横には黄金色の包装紙に包まれた正方形のバターが2つとイチゴのイラストがついた小さなパッケージのジャムが添えられている。
バター2つはちょっとカロリーが、なんて思って手をつける前にお返ししたけど
ひとりで、このふかふかのマットレスみたいなトーストを平らげるんだから
バターは一つでも二つでも大して変わらないかも。
✳︎
今朝は早くから健康診断だった。
「10時間前から絶食してください」
という文言に「え、お腹空いちゃう」なんて思ったけど
計算してみたらいつも通りに食事した時間で充分「10時間の絶食」だった。
しかも私は朝食抜きでも大丈夫なタイプ。
つまり「寝起きのコーヒーが飲めない以外いつも通り」の朝だった。
そして実際のところ、今はコーヒー断ちしてるので輪をかけていつも通りだったのだ。
✳︎
今年もまた血圧は低く
(朝食食べてないんだからみんな低いんじゃないか、と毎年思うのだけどどうやらそうではないらしい。)
背は今年もまた少し伸びていて
「遅れてきた成長期!また背が伸びました!」
なんてTwitterとストーリーにアップ。
あっちこっち測ったり、撮られたりして
今年も元気でありますように…と今更ちょっと神頼みして健康診断は終了。
例年通りならその場でお茶とお菓子をいただくのだけど、感染症対策で今年は…とお水とお土産のお菓子をくれた。
なんだかお気遣いすみません。でもちょっと嬉しい。
誰かがくれたクッキー2枚、とかって自分で買うクッキー1箱より美味しく感じる。これ不思議。
✳︎
「食べちゃダメ!」と言われるとお腹が空くのが人間の性で
終わったら何を食べようかずっと考えてたくせに
結局選んだのはいつものサラダだった。
健康診断も終わったのに今更何をビビってるのか…とは思いつつ
やっぱり仕事上、体型維持は大事!なんて大義名分を掲げてみる。
本音は色んなものを「落としたくない」からなんだ。
誰かが一生懸命考えて作った、1日の栄養の何分の一が取れるらしいサラダは美味しいけど、もう美味しくなくなってしまった。
ほぼ毎日食べてるんだもの、そりゃそうだ。
本当は今すぐにでも、というかいつどんな時でも
タピオカミルクティーを飲みたい、パスタ食べたい、何ならいつでも焼肉が食べたい!
人間だもの。みんなもそうでしょ?
午後の用事に向かいつつ、頭の中では夕方に絶対しようと決めていたお茶の時間のことを考えていた。
そうだ、今日はケーキを食べよう!
今日くらいケーキを食べてもいいじゃない。
そう思ったら、もう頭の中はケーキでいっぱいだった。
✳︎
待ちに待った夕方のお茶の時間。
行こうと決めていた喫茶店がまさかのケーキ完売。
パスタかホットドックなら…と言われたものの
頭の中は「甘いものモード」だったので
申し訳ないけど別のお店に入った。
実は私は甘いものが得意なわけではない。
ケーキの一切れすら食べ切れない時がある。
なのに時々無性にケーキ食べたい!となる時がある。生クリームたっぷりのパンケーキも。
普段なら絶対食べられないのに、これもまた不思議。
喫茶店で甘いものといえばケーキかスコーン、パンケーキがあったらラッキー!
メニューの中の甘い誘惑に惑わされながらケーキのページを探す。
今日の私はケーキな気分。それもチョコレートのやつ!
そんな時にふと目に止まった「オリジナルトースト」の文字。
トーストって事は多分、ほんとに、
ただ、ただ焼いたトーストだろう。
サクサクの焼き目にバターを塗って食べるやつ。
知ってる、あれ最高に美味しいんだ。
「このオリジナルってなんですか?」
オーダーを聴いてくれた男性に尋ねたら
「厚切りトースト、ですね。バターとジャムがついてます。」と教えてくれた。
✳︎
白い大きめのお皿に鎮座してしずしずと運ばれてきたトーストは分厚さも相まってちょっと王様のようだった。
どうですか?私って見事な厚切りでしょう?
そう声が聞こえてきそうな厚み。
最初は何もつけないでザクっとかぶりつく。
ふーっと鼻からため息みたいな息をつくと
フカフカの「中身」に閉じ込められていた小麦の香りが口から鼻に抜けていく。
それが消えるのが惜しくてまた一口ザクッとかぶりつく。その繰り返し。
夢中で頬張るってこういう事だ。
そういえば、なにも予定のないお休みの日
ブランチにトーストを二枚焼いて
いただき物のとっておきのジャムを塗って食べた時
あぁ幸せだ
と思った。
美味しいってなんて幸せなんだろう。
あのなんて事ない休日を思い出しながら、今度はバターを塗ってまた幸せを手掴みで頬張る。
美味しいに決まってるんだ。このひと口は。
気づかなかったけど、わたしお腹空いてたんだな。
あぁ、わたし今、生きてるなぁって感じる。
✳︎
時々、食べたい時に食べたいものを食べて
おいしい、幸せだ!と思って生きていくのと
食べたいわけじゃない、と自分に思い込ませて我慢して生きていくのとどっちが幸せだろうと考える。
そりゃもちろん、毎日おやつにケーキを食べて
夕食に焼肉を食べてたら体に悪いだろうけど
美味しいかわからなくなったサラダを毎日食べて
「なにかを落とさない」ように生きていくのと
どっちが幸せなんだろう。
✳︎
私にとっては美味しいものを食べるのと同じくらい仕事ができることが幸せだから
仕事と、おいしいものを好きなように食べて生きて行く人生を一緒に進めて行くのはちょっと難しい。残念だけど。
でもひとつ言えるのは、今日食べた「厚切りトースト」は夢のように美味しかった。
一息に平らげた束の間の時間、あぁ幸せだ!と思った。
食べることは、生きる事だ。
どこかで聞いた事ある言葉。
もう立ちあがれないと思うくらい悲しかった時、それでも食事する自分になんだかちょっと可笑しくて笑ったことがある。
主人公が泣きながらおにぎりをたべるあのアニメとセットでいつも思い出す。
私は明日も多分サラダを食べる。
それが健康のためなのか、私のためなのかよくわからないけど
もしかしたらまたあの夢のように美味しいトーストに出会うためかもしれない。
✳︎
ふと隣のテーブルをみたら、さっきまで会議をしていたグループの人たちがみんなトーストをオーダーしていた。
そうでしょう、美味しそうでしょう?
ここのトースト、厚切りでボリュームたっぷりで、夢のように美味しいんです。
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