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【全文無料公開】経営者なら 散歩のついでにお金を借りよう

はじめに

正しい借金は「軽いもの」?

断言します。
もし、あなたが経営者であれば、借り入れをすべきです。

世の中、「無借金経営」が礼賛されています。偉大な経営者も自伝で「借金をしなかった」ことを美談として語ります。

しかし、現実は違います。
無借金経営を目指すのは、会社経営者としては大きな間違いなのです。

改めまして、さきがけ税理士法人 代表税理士の黒川明と申します。税理士として開業して十四年。これまで一〇〇〇社を超える企業と顧問契約をさせて頂き、税金や資金繰りなど経営に関する様々な相談を受けてきました。その中で最も多く相談は、やはり資金繰りに関するもので、多くの中小企業がお金に困っています。

そして、お金に困っている経営者の多くは、「借り入れ」を嫌います。

「借金は重い」、「返せなくなるのが怖い」、「取り立てに耐えられない」…様々な理由がありますが、これらはすべて間違った認識です。

「借り入れ」は軽いものです。

そして、完済する必要もありません。

借り入れを上手く活用すれば、あなたの会社がお金に困ることはもうありません。常に会社の預金残高は潤沢。月末の支払いや突発的な支出に慌てることもなくなります。

もう一度言います。

もし、あなたが経営者であれば、借り入れをすべきです。

それもいますぐに。

もし、あなたがお金に困らない経営をしたい。資金繰りに悩みたくない。常に会社の口座に潤沢な資金をプールしておきたい。そう考えているのであれば、本書ですべて実現できます。お金に困らない経営を望んでいるのであれば、必読です。

さきがけ税理士法人 代表税理士 黒川明

第1章 なぜ、「無借金経営」を目指して自ら苦しむのか?

無借金経営が礼賛される理由

確かに、「借金」という言葉のイメージは決して良くありません。借金と言えば返済。返済と言えば追われる。追われると言えば取り立て。取り立ての先は破産…のようなイメージを持っている人は多いでしょう。

詳しくは後述しますが、これは個人の借金においては確かにそうかもしれません。しかし、会社経営において、借金は悪でも何でもなく、むしろ正義の味方のような存在なのです。本書を最後まで読めば、その理由を理解し、あなたもいますぐ借り入れに行くでしょう。そのくらい「正しい知識」があれば、借り入れは素晴らしいものなのです。

一方で、やはり「無借金経営」を礼賛する経営者、コンサルタントも多く存在します。「無借金経営」、これも確かに良い響きです。他人のちからを借りず、自分のちからだけで成功した。有名な企業の経営者の自伝には「借金だけはしなくて良かった」のような記載もあるほど。これは「借りないこと」が、経営者の力量を誇示するものであり、そのためこうした無借金経営を掲げることがプライドを満たすのだと思います。

しかしながら、それでも無借金経営は幻想です。もしあなたが、

・いつでも売上を伸ばすことができる
・常に極めて高い利益率で利益を残すことができる
・毎年数千万円以上、経常利益が出る
・しかも、この状況をどんな社会情勢であっても、長期間継続できる

このような会社を経営し、そのような実力があれば、無借金経営は可能でしょう。しかし、現実にはそうではないはずです。毎月の支払いに追われる綱渡りの経営までいかなくとも、突発的な支出があったときに、余裕があると言えるでしょうか。おそらく、多くの場合はそのような潤沢な状況ではないはずです。

つまり、無借金経営は超一流の経営者のみが実現できる幻想なのです。確かに、無借金経営と言えば格好がつきます。でも、無借金経営を目指すあまり、常に会社にお金がない。不安のままの経営を続け、突発的に起こるアクシデントで会社が潰れたら元も子もありません。

ですから、そうならないために常にお金を会社に置いておく。そのための最適な手段が借り入れなのです。次項では、事例をもとに解説していきます。

初めての借り入れで、人生が変わった経営者の話

ある会社は、売上はそれなりにあるものの、経費が多く常に赤字に近い状態でした。そのため、会社の現預金は常にギリギリで、何か突発的なアクシデントがあれば、何かしらの支払いを都度待ってもらう。そんな状況でした。もちろん借り入れの経験はありません。

私はこの経営者に借り入れを勧めました。この経営者も多分に漏れず、借金についてはネガティブな姿勢で、できるだけ借金はしたくない。できれば無借金経営を貫きたい。そんなスタンスでした。

この経営者に対して、私は次のように説明をします。

・借金といっても、ドラマや映画のような取り立ては一切ない
・金利(利息)は、せいぜい2-3%なので、ほとんど誤差
・借りたお金は、使い込まなければそのまま返済に回せるので、心配はない
・何より、会社の現預金の推移を高い水準で行えると気持ちが楽になる

もっとも響いたのは、最後のアドバイスです。この会社の残高は常に五〇〇万円前後でした。月商が五〇〇万円前後だったので、一ヶ月分の売上が何かしらの理由で飛んでしまえば、すぐに資金繰りは悪化します。しかし、もしこの状況で二〇〇〇万円の借り入れができたらどうなるでしょうか。会社の預金残高は二五〇〇万円となり、アクシデントにも耐えられる状況です。万が一アクシデントが起きても、現金があるため時間をかけてリカバリーができます。

「いつも現金を気にしていた。確かに現預金を高い水準で維持できれば、安心して経営ができる」。借り入れたお金も、使い込まなければ返済に困ることはありません。つまり、借り入れは現預金の「かさ」を増してくれるようなものなのです。

最終的に資金に余裕ができたこの会社は、飛躍的に業績を伸ばしました。様々な要因がありますが、経営者に精神的な余裕ができたことが大きいでしょう。

繰り返しになりますが、他人のお金でも自分のお金でも、お金のある会社は潰れません。そして、そのお金のある状態に持っていくために、無借金経営では時間がかかりすぎるのです。そこで、借り入れが重要になるのですが、まだ「借り入れ」、「借金」には恐怖があると思います。次項でその誤解を解いていきましょう。

なぜ、借り入れを恐れてしまうのか?

借り入れを恐れてしまう要因は、下記のとおりです。

・ドラマや映画の「借金」のイメージが悪すぎる
いわゆる闇金などと呼ばれるアングラな世界では、確かにお金を借りるのは怖いことです。「闇金」の名前のとおり、金利も暴利ですし、「トイチ」「トサン」などの隠語にあるとおり、莫大に借金が膨れ上がります。しかし、金融機関から借りるお金に取り立ても異常な金利もありません。返せなくなっても返済計画の見直しなど、相談に乗ってもらえることも多数です。

・個人の借金と法人の借金を混同している
個人の自己破産や債務整理なども一時流行しましたが、このイメージも強いと言えます。しかし、これは個人の借金で、かついわゆる消費者金融は金利も高いもの。そして、個人なので給与の中から返済するしかなく、お金が足りなくなる。会社は別です。会社で借りれば、会社の業績を伸ばすこともできるわけで、やはり個人と法人の借金は違うのです。

・金利が高い
例えば、民間の金融機関からお金を借りても金利は2-3%くらいのものです。一〇〇〇万円を借りたら、支払う金利は二〇万円か三〇万円程度。一〇〇〇万円を預金口座に置いておける手数料として考えれば、これは激安です。

・返済に困窮する
さらに、返済できないという不安もあるかもしれませんが、借り入れたお金をすべて使ってしまったら、確かに返済できなくなります。重要なのは、「会社に現金があること」です。ですから、不用意に使わなければ、返済に困ることはまずありえません。加えて、毎月の返済額もそれほど大きな負担ではありません。例えば、一〇〇〇万円を一〇年返済で借りた場合、月々の返済額は一〇万円を切ります。繰り返しになりますが、使い込まなければ返済に困ることはないのです。

一言で言えば、借金は怖いものでもなんでもなく、「あなたの会社にお金を一時的にプールするシステム」ということになります。何度も繰り返して恐縮ですが、お金があって潰れる会社はありません。わかりやすく言えば、さくっとお金を借りて、盤石な財務体制をリスクなくつくる。それが「借り入れ」なのです。

「小さなダム経営」が、あなたの経営を楽にする

松下幸之助氏が提唱した経営の考え方に、「ダム(式)経営」というものがあります。これはざっくり言えば、資金も人的資産も潤沢に持ち、余裕のある経営をしていこうというものです。

前掲の経営者は、起業家としては優秀な人物です。商品企画をつくるのも優れている。商品をセールスするのも上手い。しかし、「資金を安定できるレベルまで用意する」という経営者的な発想がなかったため、常に現金がないことに苦しんでいたわけです。

別の言い方をしましょう。もし、あなたの会社に、三年分の売上同等の現金がいま増えたらどうでしょう。三年は何もしなくても盤石です。もちろん、何もしないということは現実にはないでしょうから、その盤石な資金の土台の上で経営をする。これほど精神的に楽なことはありません。「最悪」と言われるようなアクシデントがあったとしても、三年分の売上あって潰れる会社はないと言えます。

こうした「小さな資金のダム」をつくること。これが会社を潰さず永続させる秘訣です。無借金経営でこの状況を生み出そうとすると、自社に相当自力がない限りは不可能。そこで、他人(金融機関)のちからを借りるということになります。

時間が経ち、返済が進めばこの資金のダムは減少していきます。そうなれば、まだ借り入れを行い、ダムに資金の水を注げば良い。これで倒産リスクは限りなく小さくなります。借りて返して、また借りて返してを繰り返す。こうしてあなたの会社には潤沢な資金が常に存在することになり、精神的安寧も生まれますし、経営的な不安も大きく解消できます。

ですから、やはり中小企業は借り入れを積極的にすべきです。そして、後述しますが借り入れはできるだけ早く始めた方が有利です。よく「お金が必要になったときに借りる」という経営者がいます。あるいは、「業績が厳しくなったときに借りる」という経営者いますが、それは大きな間違いです。

一日でも早く借り入れをすること。この一歩をいつ踏み出せるかによって、あなたの会社が生涯借り入れることができる金額が変わってきます。なぜ、これだけ早く強く勧めるのかは次章で解説していきますが、本章の最後では、マインドセット的な話を最後にしておこうと思います。

「散歩のついで」くらいの感覚で、いますぐはじめよう

本項では、「借り入れ」の考え方についてお伝えします。もし、すぐに借り入れのノウハウに進みたいということであれば、次章にお進みください。この項では、より借り入れを「軽く」するための考え方について、解説しておきます。

「借金」というと、ひどく重いものだと感じると思います。しかしそれはやはりドラマや映画の極端な演出であり、借金とは「ひどくてつらいもの」という認識が私たちに植え付けられてしまっているからに他なりません。

しかし、借り入れそのものは違法でも何でもありません。もちろん、いわゆる闇金と呼ばれるような暴利や暴力行為を伴う取り立ては違法ですが、お金を借りること自体は、何ら問題のない商行為なのです。

何度もお伝えしていますが、あなたの会社の預金口座に何年分も食べていける現金があったら、精神的にも経営的にも随分楽になると思います。その状況を、「借りる」という手段をつかって実現しよう。ただそれだけのことなのです。

金融機関は、貸すことが商売です。ですから、優良企業には積極的に貸したいと考えています。ですから、「借りる」ということに関しては、もっとライトに考えて良いのです。例えば、会社の資金を家族や親族、友人から借りるとなれば、そのお金は確かに重いものかもしれません。人間関係を壊しかねないことです。

しかし、金融機関から借りることは、あくまでビジネスです。金融機関の担当者とは一定の人間関係をつくる必要はありますが、担当者も自分のお金を貸すわけではありません。審査の上、融資を決めた企業に決まった金額を送金するだけ。あとは前述のとおり、プールしたお金の中から、粛々と引き落としで返済していけば良いだけです。深く、重く考える必要は一切ないのです。

もちろん、お金を借りた以上、返済が滞るなどの行為は不義理であって契約違反です。しかし、「借りて使う」ことが目的でなく、「借りて潤沢な資金状況をつくり出す」ことが目的であれば、返済に怯える必要は一切ないわけです。

いかがでしょう。少しは「借金」が軽くなったでしょうか。次章ではより詳しく、借り入れの重要性とテクニックについて解説していきます。

第2章 プロ税理士が教える、合法的に他人のお金で成功し続ける技術

なぜ、いますぐ借り始めた方が良いのか?

前章の最後で、「いますぐ始めましょう」とお伝えしました。これは特に強く勧めたいことではあるのですが、なぜ「いますぐ」が大事なのか解説しておきます。

逆説的に言えば、「借りたいときには、すぐに借りられない」ということなのですが、まずは金融機関からお金を借りる場合、日本政策金融公庫を除けば付き合いのない金融機関からはすぐに借りることはほぼ不可能なのです。「いますぐ借りたい」と金融機関の融資課を訪ねても、「まずはお付き合いがないと」と、おそらく門前払いになります。

金融機関の立場になって考えてみれば明白ですが、いきなり付き合いもない、関係性のない会社から「貸してくれ」と言われても困りますよね?つまり、借り入れをするためには、関係性をつくらなければならないわけです。なお、日本政策金融公庫は政府系の金融機関になりますので、基本的には付き合いがなくても申請は可能です。

では、「付き合い」とは何か?まずは口座を開設することです。近年は法人口座をつくる場合の審査も厳しく、会社に何も問題がなくとも口座開設を見送られることがあります。そして、口座をつくってもすぐに借りられるわけではありません。口座をつくり、口座を使う。そして、小さく積立などをして、やはりその金融機関を使う。こうした積み重ねがあって、融資課とつながり、営業担当が付く。こうなって初めて借り入れのスタートラインに立てるわけです。もちろん、すぐに借りられる場合もありますが、多くの場合この関係性づくりに時間が必要なのです。

そして、最も大事なのが「返済実績」です。金融機関からお金を借りてきちんと返す。この返済実績が増えてくると、金融機関からの評価が高まります。「この会社は、借りたお金をちゃんと返せる会社だ」というわけです。この返済実績が積み重なれば積み重なるほど、評価は高まり、借りやすくなります。返済は月に一回。一年でも十二回。つまり、この返済実績という評価を高めていくためには、年月が必要なのです。そのため、できるだけ早く借りて、早く返していく。この返済実績をいまからつくっていくことが、将来の融資額を高めてくれる、というわけです。

十年後にどうしてもお金が必要なとき、返済実績があれば簡単に融資を受けられるでしょう。でも、そのときに金融機関との付き合いもなければ、途方に暮れることになります。ですから、早く始めることが重要なのです。

業績が良いときこそ、お金を増やすチャンス

「借金」というと、「お金がなくなったときに借りる」という苦肉の策のように聞こえます。しかしながら、金融機関からお金を借りることを考えれば、この考えは大きな間違い。なぜなら、金融機関は業績の悪い会社には、お金を貸さないからです。

金融機関やそれを取り巻く私たち税理士のような業界では、こんな言葉があります。

「晴れの日に傘を貸して雨の日に取り上げる」

「晴れの日」というのは、業績が良いときのこと。「傘」は「お金」。「雨の日」は業績が悪い時のことを指します。つまり、金融機関は、会社の業績が良いときにお金を貸し、業績が悪くなってくると、お金を貸さないということです。

この言葉の表面的なところを取り上げると、「銀行は冷たい」「なんて奴らだ」というような声もあるのですが、冷静に考えれば当たり前のことです。業績が悪い会社に貸し付けても、返済されない恐れがありますから、当然貸し付け先は優良企業ということになるのは自明の理です。

つまり、業績が悪くなってから借りるのは悪手。業績の良いときに借りられるだけ借りるというのが正解なのです。もちろん、金融機関との関係性があれば、経営ですから山もあれば谷もある。蜜にコミュニケーションを取り、業績の説明をしていけば「雨の日」でも借りることはできます。しかし、やはり業績が良い会社に金融機関は貸したいのです。

別の言い方をすれば、あなたの会社が黒字であれば、比較的融資は受けやすいと考えて良い良いでしょう。これに対して、赤字だとなかなか融資は厳しい戦いになります。よく、法人税を支払いたくないがゆえに、毎年赤字決算にしている会社があります。確かに赤字であれば法人税はゼロです(消費税や均等割はなくなりませんが)。

しかし、その赤字決算を続けていると、借り入れは一〇〇%不可能になっていきます。決算書はおおよその場合三期分が評価されます。ですから、過去に赤字を続けていると借りたい時に借りられないというわけです。

ですから、黒字決算を目指し、金融機関の評価が高い時に借りる。業績が悪くなってからでは、遅すぎるのです。

日本政策金融公庫と信用金庫から始めた方が良い理由

では、あなたが早速借り入れをしようと考えたとき、まずどこの金融機関から始めたら良いか。私たち税理士が推奨し、中小企業に適切で始めやすい金融機関は「日本政策金融公庫」と「信用金庫」「信用組合」です。順に解説していきましょう。

まずは日本政策金融公庫から借りるのがセオリーです。日本政策金融公庫(以下、「公庫」)は、いわゆる政府系金融機関というもので、政府が出資する金融機関になります。民間の金融機関から融資を受けにくい中小企業のために創設された機関ですから、借りやすさという点ではダントツです。

創業前、創業期でも借りることができ、金利も比較的低く設定しているので、最も借りやすい金融機関だと言えるでしょう。先般のコロナ禍でも、コロナ融資で莫大な融資を実現させた会社も多く存在します。最も借りやすい金融機関と覚えておきましょう。

次に検討するのは、「信用金庫」、「信用組合」です。このふたつの違いは、法律的な成り立ちが異なり、信用組合の方がやや制限が多いくらいで基本的には似たようなものと認識しておけば、経営者として借りる立場であれば十分です。そういう意味では、あなたの会社の近く信用金庫があれば、その信用金庫との付き合いを始めるのが良策です。

確かに、信用金庫はメガバンク、都市銀行などと呼ばれる大きな銀行に比べれば、取り扱い額も低く、大きな融資を見込むのは難しいかもしれません。しかし、重要なのは「金融機関との関係性」をつくって、「きちんと借りること」ことです。

信用金庫であれば、口座をつくって関係性が生まれれば、融資の担当がつきます。この担当窓口をつけてもらえることが重要で、担当がつけば借り入れの相談もしやすくなりますし、信用金庫側からの提案も出てきます。また、定期的に会社の状況を伝えることによって、より密な関係性になり、より会社としての信用度が増していき、やはりより借りやすくなるわけです。大きな金融機関だと、まず担当者はつきません。あなたの会社が大企業であれば、メガバンクでも良いのですが、まずは信用金庫の営業担当をつけ、ここでひとつめの強固な取引先にする。これが最初の一歩としては適切な判断なのです。

なお、先般のコロナ融資で金融機関が多くの企業に融資を行い、またその返済に苦しむ企業も多く出てきたことから、審査は現在厳しくなりつつあります。後述しますが、このような状況のときは、早めに融資について準備を始めるべきだと私は考えます。

借り入れ先は、どんどん増やしていこう

公庫から借りたあとには、信用金庫。実際のところは、同時に申し込んでも構いません。まずはこのふたつの金融機関から取り引きを始めましょう。前述のとおり、返済実績ができてくれば、金融機関からの信用が増していきます。長期間に渡って返済していくことは、やはり重要です。

このふたつの金融機関からの借り入れに成功し、返済が始まったら今度は別の金融機関を検討していきましょう。あなたの会社の口座に潤沢な資金を蓄えておくためには、最低でも三行。全体の融資額にもよりますが、三から五行くらいの金融機関からの借り入れが実現できれば、経営はより盤石になるでしょう。

「そんなに色んなところから借りて、評価は下がらないの?」

と聞かれることもありますが、確かに複数の金融機関から借りているのは「借金まみれ」に見えます。しかし、きちんと返済していれば話は別。金融機関からの評価は「複数の金融機関から借りて、きちんと返済している」という評価になります。別の言い方をすれば金融機関としては、「他の金融機関から借りて、ちゃんと返しているという前例がある」というようにも見えるわけです。ですから、複数の金融機関から借りることは正解なのです。

加えて、複数の金融機関から借りるということには別の意味もあります。例えば、あなたが公庫と信用金庫から借りて半年も経たないうちに決算を迎え、その決算が極めて良かったとしたら、新たに借りる絶好の機会です。しかし、公庫と信用金庫ではお金を借りたばかり。さすがに業績が良くても数ヶ月おきに貸すわけにもいきません。そこで、別の金融機関との取り引きがあれば、そのタイミングで借りることができる。

つまり、借り入れ先の分散ということです。このように、複数の金融機関との付き合いがあれば、ある程度定期的に借り入れを起こすことができるわけです。このような体制をつくることによって、よりあなたの会社の資金が潤沢になっていく。この常識を知らないと「たくさんの金融機関からの借金なんて怖い」と、資金調達のタイミングを失います。複数の金融機関と付き合うということは、重要かつ当たり前のことなのです。

前述のように、金融機関によっては、必ず付き合いを始められるわけではありません。複数の金融機関との関係をつくる中で、残念ながら断られることもあります。そういったことも含めて、やはり早めに動き出すというのがポイントでしょう。

借りたお金は、返さなくて良い

「借りたお金は、返さなくて良い」というと、借金の踏み倒しのように聞こえるかもしれませんが、借り入れをした場合にもちろん返済義務は生じます。ですから、毎月返済はしなければならないのですが、借り入れを続ける経営のテクニックとしては、「返済はするが、『完済』はしない」というのがポイントなのです。どういうことなのでしょうか。

まず、金融機関は貸すことが商売です。ですから、貸さないと商売が成り立たず、常に貸せる優良企業を探しています。これはお伝えしたとおりです。言い換えると完済され、もう借り入れは不要です、と言われるのも困るわけです。つまり、金融機関としては「借り続けてほしい」のです。

では、どのように考えるのか。これができない融資もありますが、基本的に融資には「借換」というものがあります。例えば、五〇〇万円を一〇年返済で借りたとします。一年の返済額は五〇万円。二年間返済すれば、一〇〇万円の返済。残額は四〇〇万円です。このように、借りてから一定期間返済した場合に、借換ができるようになります。例えば、さらに一〇〇〇万円の融資を受け、一度残りの四〇〇万円を完済します。残った六〇〇万円がいわゆる「真水」で残る資金となります。一度受けた融資を、新しい融資によって完済し、資金残高を増やしていくというものです。

この例でいえば、今度はこの1000万円を返済していくことになります。1000万円を返済し、度は一五〇〇万円を借りて借換を…ということを繰り返していけば、完済することはあなたが経営しているうちは起こりませんし、しなくて良いのです。

借換ができない融資の場合は、当然借換ができないので返済し続けることになります。借換ができない融資の場合は、同じ金融機関からまた別枠で借りれば良いのです。借り続けて、返し続ける。これを繰り返していき、会社にお金を増やしていく。このいわば「無限ループ」を繰り返していくことが重要なのです。

ちなみに、金融機関は完済そのものも嫌います。理由としては、行内では「どのくらい貸し付けているか」という指標があり、貸している=売上を伸ばしているというような意味合いとなり、貸し付けている金額が減少するのは困るからです。

そういう意味では、借り続けるというのは、あなたにとっても金融機関にとっても、いわば「Win=Win」の関係なのかもしれません。

第3章 会社にお金を潤沢に増やし続ける体制をつくろう

金融機関の評価を高める「決算書」のつくり方

最後に、借り入れしやすくなるためのポイントを解説しておきましょう。まずはなんといっても決算書です。

基本的に黒字決算であれば、問題ないと考えて良いでしょう。融資の審査には、二期分か三期分の決算書を求められる。直近三年分の決算が黒字であれば、あとは事業規模に合わせた融資額で決裁が下りると考えておいてください。

黒字決算であれば、そこまで注意する必要はないかと思いますが、金融機関の担当者から聞かれたときに、きちんと答えられる程度の決算書の知識はあった方が良いです。決算書をすべて読み解くことができるレベルの知識は要りませんが、金融機関との面談に顧問税理士やコンサルタントを同席させることは原則としてできません。金融機関によっては、税理士などの専門家の同席が許可される場合もありますが、やはり最低限の知識はあった方が良いといえるでしょう。

では、どんな点が「最低限」なのかといえば、融資担当者は不自然な点を確認してきます。異常に膨れ上がった外注費など、「これはどういう内訳ですか?」などに答えられることが大事です。ですから、決算書をつくった顧問税理士に「どのあたりについて、質問されると思いますか?」と聞いておくと良いでしょう。

あとは小さなことですが、売上に対してあなたの役員報酬がやたらと高いとか、全体の社員の給与額が低いのに高級車を購入しているとか、あまりに私利私欲過ぎる決算書も評価が下がりますので、注意が必要です。

一方で、赤字決算の場合。赤字決算でもどうしても借りたいということであれば、融資を得意とする税理士や専門コンサルタントのちからを借りるべきでしょう。赤字決算の場合は、添付資料が重要になります。資金繰り表や事業計画書など、いまは赤字でもこれからの事業計画で黒字化するということや、返済計画も間違いのないことを添付資料で伝えなければ、融資はまず通りません。そういう意味でも、やはり業績が良いときに借りておきたいものです。

繰り返しになりますが、赤字決算になる前に借りておく。どうしても赤字決算になってしまったら、プロのちからを借りる。そして、日頃から「借りやすい決算書」を意識していくとより借りやすい体制がつくれると言えるでしょう。

金融機関の評価を高める「関係性」のつくり方

長期的に借りていくためには、金融機関との関係性をつくることが重要です。まず口座をつくる。融資について相談し、担当をつけてもらう。その後、きちんと関係性をつくっていくことで、より借りやすくなるのです。具体的に見ていきましょう。

・決算は必ず報告する
まず、決算が終わり、決算書ができたときには、必ず決算書を送る(または手渡す)などして、決算が終わった報告をします。借り入れをするときには、もちろん決算書の提出を求められますが、事前に出しても良いのです。毎年定期的に報告をすることによって、より金融機関の評価が高くなります。

・半年に一度は試算表を提出する
金融機関の担当者にもよりますが、三ヶ月から半年に一度は、直近の試算表を提出し、近況の報告をしておきましょう。業績が良いときはもちろん提出し、仮に業績が良くなくてもこれからどのように挽回するか、きちんと伝える。この誠実性が金融機関との関係をつくっていきます。赤字の場合は、直近の資金繰り計画表なども合わせて伝えるとさらに好印象です。

・勧められる金融商品等を購入するのは良いことか?
金融機関の担当者がつくと、単にあなたの会社の融資に関する話題だけではなく、様々な商品の提案もあります。例えば、積立を始めないかという提案もあれば、保険に入ってほしいという相談もあるでしょう。ほかにもクレジットカードを新しくつくってほしい、などのお願いもあるかもしれません。

金融機関の担当者には、営業ノルマがあります。そのため、こうした商品の提案があるのですが、余裕があればこれらは購入することをお勧めしています。もちろん、実際の融資のときに、こうした商品の購入が直接影響することはありません。あくまで融資は融資。厳正な審査があります。しかし、そこは人と人との関係です。良いお客をないがしろにはできない背景ができてきます。

担当者との人間関係がより深く構築されれば、新しい融資の紹介やそうした商品の優先的な紹介。そういうものは十分考えられます。まとめると、数字的な情報公開をして、会社としての信頼をつくる。そして、人と人として人間関係をしっかりつくっていく。こうした二重の関係性を強固にしていくことで、より借りやすい関係をつくることができるのです。

顧問税理士との関係性を改善しよう

借り入れを有効活用して、会社に潤沢な資金を常に置いておくためには、顧問税理士との関係性も極めて重要です。

まず、本書のような知識がなく、借り入れに関して消極的な税理士を顧問にしている場合には、その税理士との顧問契約を見直すことも考えた方が良いと私は考えます。少し厳しい言い方になりますが、前述のとおりお金は会社経営にとって最も重要なものです。顧問税理士はもっともあなたの会社の近い存在で、かつ決算書など融資に必要な資料を持っている存在でもあります。ですから、この借り入れに関しての知識がないことは論外と言うべきであり、融資に関する提案がない場合には、顧問契約を見直しても良いと思います。少なくともあなたが支払っている顧問報酬以上の資金調達は実現すべきです。

その上で、顧問税理士との関係を築くことは重要です。金融機関に提出する試算表や決算書はもちろん税理士がつくります。決算書が遅れるということはまずありませんが、試算表は別です。あなたが提出したいタイミングに試算表が間に合わないのであれば、金融機関との良好な関係をつくっていくことはできません。ですから、こうした資料類をスピーディーにやりとりできる関係が重要になります。

また、顧問税理士であれば、借り入れのタイミングなどに関しても、本来は数字の把握をしている税理士から提案すべきです。例えば、前期の決算は黒字。しかし、今期途中で業績が思うように振るわず、赤字決算が予測されるというようなこともあるでしょう。そんなとき、融資に強い税理士なら、「来期の赤字決算が組まれてしまう前に、前期の黒字の決算書と直近の試算表を持って、いまのうちに借りましょう。」というような提案ができるはずです。赤字になってしまえば、借り入れは厳しくなるのはこれまでお伝えしたとおり。そういう意味では、やはり顧問税理士の存在は重要なのです。

現在の顧問税理士との関係性を良くするというレベルで、借り入れの最適化ができれば問題ありませんが、もしあなたの顧問税理士が借り入れに消極的だったり、あるいは借り入れの提案がないような場合には、税理士は変更した方が良いかもしれません。

厳しい言い方ですが、顧問税理士の能力によってあなたの会社の借入額が変わります。長期的に資金を潤沢に置いておきたいのであれば、税理士の選択は重要です。ぜひ、この点も検討してみてください。

社内外に「番頭」を置くことが重要

借り入れの基本は本書でお伝えしたとおり、本質をつかめば決して難しいことではありません。業績が良いときに借りる。返済して返済実績をつくる。複数の金融機関との取り引きを増やし、いつでも借りられる環境を整えておく。そして、基本的に借り入れたお金はそのまま使わない(厳密に言うと、全く使わないと金融機関から指摘されることがあるので、資金移動や何かしらの使途では使うことになります)。そして、完済せずに借換をしていく。これが分かれば、借り入れによる「小さなダム経営」は決して難しくないわけです。

ただし、より借り入れに関して円滑に進めていくためには、「番頭」のような存在がいると良いでしょう。これは社内でも社外でも構いません。あなたの会社のお金について考える存在。最近の言い方でいえば、CFOまたは社外CFOと言うとわかりやすいかもしれません。

「小さな会社だったら、社長がその役割を努めればよいのでは?」

確かに実際のところ、中小企業はその役割を経営者が担っている場合がほとんどです。ですから、経営者の借り入れ意識が高ければ問題ないように見えますが、実はここが小さな落とし穴なのです。

借り入れも順調、業績も順調。そういうときは、借り入れ意識が低くなっても大きな問題はありません。しかし、経営をする中で、例えば問題社員が生まれその諸問題に対応しなければならなくなったとき。あるいは、商品にクレームが入り、損害賠償に発展するようなアクシデントが起きたときなど、経営者には「お金」以外の問題も起こるわけです。

そんなとき、経営者の意識はお金や借り入れから離れます。何もネガティブな問題を抱えているときだけでなく、新しいサービスを始めるときや採用活動をしているときなどの比較的前向きなときでも、お金の意識は途切れがちです。このように経営者の意識は様々なところに飛びます。ですから、常に会社のお金のことを考える存在がいることで、より盤石な資金調達体制をつくることができるということになります。

この存在を社内でつくれるならその人材を「番頭」に。社内で適任者がいない、余裕がない場合には顧問税理士がその存在になるべきです。費用対効果を考えると、やはり税理士が適任でしょう。このように、あなたの会社の「お金の番頭」の存在までつくることができたら、あとはあなたは経営に専念するのみ、という理想的な状況を生み出すことができるわけです。

最終的に、税理士の活用が分かれ目になってくる

税理士については、途中かなり厳しい言い方をしました。しかし、やはり語気が荒くなってしまうくらい、この借り入れという点について、消極的な姿勢の税理士が多いのもまた事実なのです。

繰り返しになりますが、顧問税理士はあなたの会社の決算に一番近い存在です。試算表や決算書などの融資に必要な基本的な資料はすべて税理士が準備するものですし、その数字を試算表や決算書で実際に組み立てている税理士が、融資に関して提案をしないというのは、やはり論外だと私は思うのです。

数字に近い存在であれば、当然借り入れをすべきタイミングも予測することができます。そういう意味で、やはりこの融資に関しては顧問税理士の役割だと思うのです。

もし、あなたが顧問税理士を変更して、融資に積極的な税理士を探す場合には、次の基準を元にして税理士を探してみてください。

まずは、本書にあるような融資に関する正しい知識を持っていること。「先生、借り入れに関してどうお考えですか?」と聞き、積極的な回答がなければその時点で厳しいと言えます。加えて、相談事例、融資実績を聞いておきましょう。基本的に黒字決算であれば、借りられるのは説明したとおりなので、赤字決算の会社の融資をどれだけ成功させたかを聞くことで、その税理士の力量を測ることができます。

そして、何より税理士事務所自体がきちんと借り入れをして経営をしているか。これも見逃せない点でしょう。税理士事務所が借り入れに積極的であれば、当然複数の金融機関との付き合いがあります。付き合いがあれば情報も早いわけで、税理士からの情報提供も豊富でしょう。

人間関係ができてしまうと、税理士の変更はなかなか難しいと言われます。しかし、長期的な資金調達額を考えると、やはり顧問税理士は融資に強くそして積極的であるべきです。もし、何かしらの事情で顧問税理士との契約を解約できないのであれば、セカンドオピニオンとして別の税理士などに相談するのもひとつの選択です。

いずれにせよ、プロのちからをきちんと借りれば、あなたの会社の口座にお金を増やすことができます。ぜひあなたも、安心して経営のできる「小さなダム経営」を実現してください。

終わりに

これから訪れる、インフレの時代に備えて

数年前、「老後二〇〇〇万円問題」というのが話題になりました。これは金融庁が二〇一九年に発表した報告書で、「老後三〇年間で、二〇〇〇万円が不足する」という試算です。もちろんこれは経営者ではなく、一般のサラリーマン家庭を前提にしたもので、自分のちからで稼ぐことのできるあなたには関係ないことかもしれません。

しかし、この老後二〇〇〇万円問題は、単に老後の資金の話ではないと私は考えています。二〇二二年のいま、世界情勢の影響などで日本国内の物価は急激に上がっています。つまり、このまま物価が上がれば、将来は老後三〇年で足りなくなるのは、二〇〇〇万円どころではないかもしれないのです。

言い方を変えれば、これからはお金がいくらあっても足りない時代になる可能性があるということです。そのためにできることは、やはりお金をできるだけ用意しておくことだと私は考えます。円安の影響などを考えると、資産形成としては外貨預金などの方法なども考える必要がありますが、国内で会社経営をする以上は、何が起きても盤石な資金を用意しておくこと。いまできるのはこれ以外にないと私は考えています。

冒頭でお伝えしたとおり、私は税理士としてこれまで一〇〇〇社を超える顧問企業と契約をしてきました。もちろん、お金がない会社は資金繰りにいつも悩んでいるため、お金の意識は高いのですが、気になるのは業績がそれなりに良い会社が、資金調達についての関心がそれほど高くないということです。

もちろん、これまでの景気であれば、経営を堅調に維持していれば問題はなかったと言えます。しかし、いま起きている円安や物価の上昇は「異常事態」と言っても過言ではない状況だと私は思うのです。ですから、より今後は借り入れを始めたとした資金調達に対して、危機感を持って臨むことを私は強くお勧めします。

それでは、最後までお読み頂き、ありがとうございました。本書があなたの経営に寄与することができましたら幸いです。


さきがけ税理士法人 代表税理士 黒川明

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本書の読者限定で、あなたの会社の融資やその他税務に関するご相談を無料で承っております。もしかしたら、あなたの会社の年間資金調達額は、もっと増えるかもしれません。いま、あなたの会社に顧問税理士がいても問題ありませんので、お気軽にご相談ください(オンライン相談も可能です)。

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