マネジメント、という呪い。
私の日常は、車移動の時間がとても多い。片道1時間半くらいなら平気で運転する。そんな私の最近の車移動のお供は「podcast」だ。
今時の子たちはきっとyoutubeなんだろうけれど、文字を読むのが好きな私にとって、人がしゃべり続ける画像を見るのが何とも言えない苦痛なのだ。その点、podcastはちょうどいい。運転中は目で追えない文字を、耳から拾っているような感覚で聞き流すことができるのが気に入っている。
前置きが長くなってしまったのだけれど、私がここ数週間ほど良く聞いているのが「坂東孝浩のポイッと♪手放す経営ラボ」という番組。
ブレスカンパニーという会社の代表の坂東さんが、「これからの会社経営」「これからの組織作り」をテーマにして、ゲストを招いたり、参考になる書籍の紹介をしたり、実際に自社で進める組織作りや他社事例を紹介したりする番組だ。
これが、めちゃくちゃ面白い。
坂東さん曰く、会社が従業員を「管理する」「マネジメントする」「ルールを決めて守らせる」「目標を立て、KPIを立て、進捗を回す」といったやり方はもう限界で、「社員の自律性に任せ」「自らやりたいと思う仕事を任せ」「余計な口出しはせず見守り」「上下の関係で何かを教えたりせず、社員たちと共に考えて組織作りをしていく」というスタイルの方が業績が伸びたり生産性が向上したりするのだ、という話が語られるのだ。
これを坂東さん的には「手放す経営」と呼んでおり、社会的には「ティール組織」として語られたり、その手法の一つに「ホラクラシー」というアメリカ発の組織運営スタイルがあったりするらしい。
何故私がこれらの話を食い入るように聞いているかというと、社外人事的に様々な会社と関わる上での勉強になったり、経営者の方との話のネタになるといったことだけでなく、私が前職時代にマネジメントの立場で非常に苦しみもがき、でも答えが見つけられなかった「マネジメントする」ということの違和感に対する答えがここにあると思うからなのだ。と、今日ふと車を運転しながら腑に落ちた。
私は前職、結構ゴリゴリの営業会社におり求人広告の営業とチームや拠点の業績管理をミッションとしていた。営業すること自体は楽しかったし、自分の手がけた求人広告で採用成功した話等は超大好物で、自分の業績達成よりも採用成功やそのために顧客と試行錯誤するプロセスを楽しんでいるタイプだった。しかし、入社4年目頃からチーフという役職でチームの業績管理が自分のミッションとなってから、苦しみは始まった。毎週/毎月/クオーター毎の目標があり、それをどうすれば達成できるのか?チームやグループの目標を達成させるためにメンバーをどう行動管理して、どうやる気にさせ、どう売上を作らせるのか?といったことが自分のメインミッションとなった頃から、私は仕事が心から楽しいと思えなくなっていた。でも、楽しいと思っていない、という事実とは向き合いきれず、無理に「仕事は楽しい」「メンバーの成長は嬉しい」等と言っていたように思う。そうふるまうことを、周囲や上司から、会社から期待されている、と思い込んでいた。
メンバーやチームが未達に終わる(もしくは終わりそうになると)、上司のマネージャーから「電話を何件掛けさせて、うち何件がアポに繋がったのか?」と詰められた。仕方なく追い詰められた私は、自分もメンバーに対して、マネージャーと同じようなことを問い詰めていた。そして、電話をかけきれないメンバーには「なぜかけられなかったのか」と行動量が落ちた要因を問い、アポイントが取れないメンバーには「なぜアポイントに繋がらなかったのか」とトークの中身を問う、そんなマネジメントをし続けた。
心は疲弊していたし、朝から晩まで仕事をしていたので、体もギリギリの状態だったと思う。それを、金曜日のお疲れビールと共に酔っ払いごまかし、忘れたようなふりをして、また月曜から新しい目標を追いかける、という日々を何年も繰り返した。
その先で、マネージャーになることを要望され、自らも「なりたい」と答えていたけれど、でも同じ位の気持ちで「なりたくない」とも思っていて、あることをきっかけとして、他のグループ会社へ企画職として転籍することで、環境をリセットした。
あの時、私が辛かったのはきっと「管理する」ことの前提に、「人を信じていない」という気持ちがあったからだと思う。人が、さぼらず、勝手なことをやらず、迷走しないためにKPIを置き、目標を置き、その達成に向けてマイクロマネジメントできる人=優秀なマネージャーである、そんな構図があったように思う。(もちろん、私の視界から見える世界の話。他の人から見たらそうではないかもしれない)でも、私はそんな優秀なマネージャーにはなれないし、なりたくなかったんだろうな。と、今ようやく腑に落ちる。
私はたぶん楽天家の父の影響で、生まれながらに楽観的だし、人を信じているし、性善説で物事を見て、人と関係を築いてきた。それなのに、マネジメント側に立った瞬間に、メンバーを疑い、「出来ない」前提で「教え」、行動を管理することを要望された。それは出来なかった。やりたくなかった。
そうではないやり方で、業績を出していたチーフやマネージャーもきっといたのだろうと思うし、やろうと思えばできたのだろうとも思う。だから、環境や会社が悪いのではないし、その境地に立てなかった自分が甘かったし、視野が狭かったと思う。
あの頃、苦しんでいた自分に、この坂東さんのpodcastを聞かせてやりたいと思う。そしてこんな組織作りのあり方があるのだということを、当時の上司や同僚、メンバー達と議論してみたかったな。元々は優秀な人たちの集まりだし、責任感の強い人たちが多かったから、きっとこういうやり方ができたら、もっと違う成果を残せたかも。もしもあの環境に、今戻るなら、きっと違うやり方でチームが作れるようにも思うし、それはそれで面白そうだとも思う。たぶん、手放す経営的な、ティール組織的な形で、営業組織を組み立てなおしたら、今よりも売り上げも生産性もきっと上がるだろうと信じられる。
人を信じ、人の可能性を引き出し、任せて、そして一緒によりよい状態を作る。その方が絶対幸せに働けるし、成果も出るのだろう。過去を悔やみたいのではなくて、未来への決意と共にこの気持ちを書き残そうと思う。