小銭
ベットに横になるよう促すと、おじいさんのズボンのポケットの中からいくつかの硬貨が飛び出す。検査が終わって起きてもらうと、真っ白のベットの上に金銀の鋭く光る硬貨が散らばっている。
お金は財布に入れずにポケットに直に入れる。財布に入れるお金とすぐに出せる至急のお金で分けておくようだ。ポケットの中をジャラジャラと音を立てながら歩くおじいさんを、病院にいると時々見かける。検査が終わると、お金の忘れ物はないか確認する作業をするのが日課だ。
仕事からの帰り道、行きつけの八百屋さんに寄った。家の近くにはスーパーがあるけれど、まとめ買いをしないのであればこの八百屋さんはとても便利だ。威勢のいい声でお兄さんが「トマト3個180円~」「大根半分70円~」と呼び込みをしていると、ついそれに乗せられ買ってしまう。タイムセールをしているときはお得感満載だ。旬の冬に買った大根は、タイムセールをやり始めてすぐ瞬く間に台から消えていった。
そんな町に根付いた八百屋でも今では電子マネーを取り入れているところが多い。私は普段は現金を持ち歩いていないから、Suicaか PayPay、またはカードで支払いをする。スマホさえあれば、会計も一時停止なく流れるように終わるから買い物もスムーズだ。
この八百屋も例外ではなく、交通系ICや電子マネーで支払いできる。今日もSuicaでトマトとキャベツと新じゃがを購入した。いいお買い物ができると、心が満たされる。
路地に面したところにも様々な商品が陳列されている。店内に足を踏み入れなくても間口の広い入り口付近で品物を眺めることができる。ポケットに手を突っ込み、路面から顔だけ店内を覗き込むような格好で、通りかかったエプロンをかけた店員さんに「これひとつお願いね」と言う初老の男性を見かけた。
店員さんが男性に近づいてくると、男性はポケットをジャラジャラ鳴らし「はい」と言って小銭を出した。そのまま品物を受け取り男性は颯爽と去っていった。
これが八百屋さんだよなぁと思った。商店街に入っている一つの小さなお店。スマホを出して品物を受け取るのもスムーズだけれど、ポケットから小銭を出すのには叶わないなと感じた。
キャッシュレスが進み、財布が要らなくても困らない時代ではある。長財布も、専用の小銭入れも要らないかもしれない。でも小銭はポケットに入れておいた方がいい気がするし、ポケットに小銭を入れるという文化はなくならないでほしいなと思う。
2022.5.26
好きな四字熟語は「自画自賛」です。