恋ではなく興味だと思っていた
「それ美味しい?」
別にその飲み物に興味はなかった。大量の生クリームにチョコチップの混ざった甘そうな代物。そんなものはどうでもいい。僕は君に興味がある。
毎週水曜日、3時限目。
君は窓際、前から4列目に座って気だるそうにそれを飲んでいる。いつも同じで飽きないのだろうか。席も、飲み物も。
確かに、席に飽きるも飽きないもない。僕だっていつも同じ席だ。生憎、ゲームのやりすぎで目が悪くなってしまったからあまり後ろには座れない。彼女もきっと大した理由なんてない。多分、たまたま1番最初に座ったのがその席なんだろう。理由なんて変わらない。
なら、その飲み物は?
いつもいつも同じ味を毎週飲むのは飽きないのだろうか。最初の興味はそこだった。初めて見た時、彼女はそれを飲んでいた。次の週も、そのまた次の週もだ。気づけば毎週彼女の飲み物をチェックするのが習慣になっていた。それで気づいたこともある。ボブより少し短い髪が伸びてきたこと。気だるそうな態度でもどうやらノートはしっかり取っていること。何より、いつも1人でいること。
「…美味しいけど。」
彼女は猫みたいな目をさらに鋭くして僕を見た。「そっか、ありがとう。ずっと気になってたんだ。」ここまで話して失敗したと思った。ずっと気になってたなんて、気持ち悪がられてしまう。慌てて「美味しそうだなって」と付け足した。
「あっそ。ねえ、スタバ行ったことないの?」
予想外の回答だった。まさか質問返しをされるなんて。やはり興味深い。「スタバ?行ったことないな。それはスタバで買えるの?」白々しかったかもしれない。しかも僕はスタバに行ったことがある。嘘までついた。君と会話がしたかったから。
「…本当に?まあ、いいけど。私、心理学部の三橋。あなたの学部と名前は?」
一瞬、疑われた。しかし、学部と名前を知ることができた。上出来だ。
「あぁ、僕は経済学部の高木。よろしくね、三橋さん。」
しまった、これだと会話が終わってしまう。貴重な時間が終わってしまう。ただ、少しだけ君を知ることができた。顔がにやけていないだろうか。僕がさみしさとニヤケで内心テンパっているのを余所に三橋さんは荷物をまとめ出した。そして「ねえ、高木くん。隣に座ってもいい?」"NO"という答えはない。
授業開始まであと5分。
君のことをもう少し知るまであと2時間。
この気持ちが恋だと知るのにあと1週間。
2人が恋するまであと1ヶ月。