みじかい「ありがと」に泣いた晩
長女 (3 歳) が 40.5 度の熱を出した。(元気になりました。)
見たことのないほど、はやい息の娘。ハァハァと苦しそうで、気持ちよさそうにすやすやと寝ている次女 (1 歳) を横目に見ながら、私と夫は夜中じゅう、びっくりするほど熱い長女を交互に抱っこし、抱きしめていた。
40 度超えは、私も見たことのない数字。
通常でないような寝言みたいな言葉を発しているのも心配で、荒い息、熱すぎる体、朝までこのままでも大丈夫なのか不安で心配で、夜中に #8000 (子ども医療電話相談) に電話をかけ、指示をあおいだ。
“寒がっていないなら冷やすように”
との指示を受け、夫にすぐ近くのコンビニに、ひえピタを買ってきてもらうことにした。
「行ってくるね」
ほんの少し、夫が外出した時間。
ドアが静かに、がちゃん…と閉まったとき、ずっと目をつむっていた長女が、すこし目をあけ、またつむった。
いつもは「お父さん、どこ行くの?」と聞いて探しに行く長女。
「すぐにお父さんは戻ってきてくれるからね」と伝え、長女の手を握った。
すごく、熱かった。じっと握った。握りしめた。
長女は、私の手を、両手で包みかえしてくれた。
とても、とても、大切そうに、握り返してくれた。
それから、暗闇のなかで、長女はきらきらした目を私に向け、言った。
「ありがと」
…え?
私の目を、まっすぐ、見ながら、かすれた声で言った。「ありがと」
たった 3 歳の、小さな子が、こんなにしんどいなかで、すこし微笑みながら
「ありがと」
だって。
どこからこんな言葉、湧いてくるの。
…泣いた。
たったひとこと発した言葉が、「しんどい」でもなく、「だっこ」でもなく…、『ありがと』だって。
心配と不安と、驚きとやさしさに、いろんな感情が入り混じった。
間もなく夫がコンビニから帰ってきた。だめだめ、私なんかが泣いていたら。
それでも、このやさしさを、私のなかだけでとどめておくことは、できなかった。
なんとか涙をぬぐって、何事もなかったように、夫に伝えた。
「ひえピタ、ありがとう。
それとね、○○が『ありがと』、だって」
声が震えるのは分かっていたけれど、やっぱり伝えずにはいられなかった。
あのきらきらした目。
その瞬間だけ微笑んでくれた小さな口もと。
やさしさそのものだった。
*
以前、聞いてみたことがある。
「〇〇は、なんでそんなにやさしいの?」
普段から、ほんとうに、やさしいのだ。
「わからない」
ちょっと考えて、にっこりしながら答えてくれた。
…わからないんだね。
やさしくしなきゃと思っているわけでも、喜ばせようと思っているわけでもなくて、ただ、自然なんだね。
たったこれだけのことだけれど、このちいさく、尊い存在に、胸を突き動かされ、泣かされた晩だった。
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