誰だってやりたくない介護(排せつ編)~あなたの知らない裏(介護)社会~
★介護をやりたくない理由
介護生活に突入するときの状況は、あなたの他にやる人、やれる人がいなくて、仕方なく――というのが一般的ではないでしょうか。中には『親の面倒は自分が看るって決めてたから、喜んでやるよ! だってずっとお世話になってきたしね! ご恩返しだよ! 苦じゃないよ!」と、ものすごく前向きな方もいるかもしれない。ですが、こういう人は激レアで、ほとんどの人は『できることならやりたくない』と思っているのが普通でしょう。そして、それはとても当たり前のことですし、悪いことでもなんでもありません。だって『家族に介護はできない』んですから、やりたくないって思っている自分を責める理由なんてひとつもないんです。
ではなぜ、それほどまでに介護が嫌になるのか。理由はいろいろありますよね。たとえば『時間を削られる』からという理由はどうでしょう。仕事を休まなければいけなかったり、家事や育児の合間だったりと、自分の自由な時間や空いている時間を介護に費やさねばならなくなります。医者に連れていくということひとつとっても、送迎を含め、受付から薬をもらうまでの拘束時間は短くても一時間くらいにはなるはずです。これまで余暇活動に充てていた時間を犠牲にしなければならない、休む暇もなくなってしまうということを考えるだけで、背筋が寒い思いがしちゃいますよね。
その他に『下のお世話が嫌だ』という理由があるんじゃないでしょうか。実際によく見聞きしましたし、不安になる理由としては圧倒的に高かったように思えます。
そりゃ、誰だっていやですよ。赤ちゃんやペットとは量も匂いも違いますし、投げつけられでもしたら、それこそ手をあげたくなっちゃうくらい怒れるでしょうね。私だって仕事で対価をいただけなかったら、率先してやりたいとは思わないでしょう。しかし裏を返せば、ここをクリアさえできれば、介護やってもいいかなって少しは思えるようになるということではないでしょうか。可能性を秘めているということでもありますからね。
★慣れれば難しくないおむつ交換
私がケアマネの仕事をしているとき、ご家族の不安はなにかと伺うと、将来寝たきりになってしまうのが困る。おむつ交換ができるかどうかが心配という答えがよく返ってきました。
なぜ不安になるんでしょう? 困るんでしょう? どうしたら不安や困りごとにならなくて済むとあなたは考えますか?
それはあなたがおむつ交換の仕方をまったく知らないからです。見たこともないからです。やってもいないのに、やっていた人からたいへんだと見聞きしてしまって、足がすくんでしまっているからです。そういう未知のものに対する不安が増殖して、始める前から『無理』と決定づけさせるんです。
では実際、どうなのか。どういった点に留意すれば『おむつ交換って意外と難しくないのね』とハードルが低くなるかをお教えしましょう!
実際におむつ交換をやったことがある人ならばわかると思いますが、人間の足はすごく重たいんです。肉がついていない細く枯れてしまった人の足だって、持ち上げ続けるのってすごくたいへんな行為なんです。丸太を抱えて持ち上げる――そんなイメージをしてもらってもかまいません。ですから、ひょいっと軽々と持ち上げて、支え続けながら赤ちゃんのおむつ交換のようにお尻に差し込んで……なんてできるはずがありません。ちなみに、赤ちゃんのようにお尻に差し込むようなおむつ交換ができる人ならば、自ら腰を上げる力も残っていますから、わざわざおむつを使用する必要もありません。紙パンツで充分ですし、声掛けすれば自力でトイレにも行けるでしょう。
では、赤ちゃんのようなやり方でないのなら、大人のおむつ交換はどうやるのか。これはまず、介護される人の体を横向き『側臥位(そくがい)』の状態にしてから行います。実はここに第一の介護ポイントが存在します。自分で動けない人を横向きにさせる場合、コツをつかみさえすれば、楽々向きを変えられるんです。コツを知らずに動かそうとすると、石像みたいに重たくて、力任せにやらないといけなくなる。そうなると、介護される側もすごく不快な気持ちになるし、介護する側も『なんで、こんなたいへんな思いをしてやらないといけないの』とますます嫌になってしまいます。それくらい重いの。びっくりするほど動かせないの(笑)
なので、片足(上に来るほう)を曲げさせてもらって、体を少しコンパクトにしてから向きを変えるようにします。こうすることで、わずかな力で体の向きを変えられるようになりますし、力を入れずに済むので、相手の体をぎゅっと握らずに済みます。そっと添えるだけ。お互いにすごく心地よく体の向きを変えられる(体位交換)ができるんです。
それから片方の手で体を支えつつ、おむつの中心をお尻に合わせてセッティングします。このとき、しっかり中心と深さを合わせておけば、あおむけに戻したときにずれることなく交換できます。ついでに言うと、介護される側の方に協力してもらえるなら協力してもらってください。ベッドのサイドバーを握ってもらって、いっしょに向きを変えてもらう。そうするとかなり楽です。あと、ベッドの高さを腰の高さ以上にすることもお忘れなく。そうじゃないと、腰を悪くすることになりますからねっ! 最後におむつの足回りのギャザーが立っているのを確認すれば終了。このギャザーをしっかり立てていないと漏れの原因となりますので、しっかり確認しましょう。
こんなふうに手順を踏まないといけないおむつ交換ですが、慣れれば手早くできるようになります。ポイントさえ押さえればなんとかなりますし、数こなせば失敗も少なくなります。ただし、おむつでカバーしきれないほど大量で漏れてしまっている場合には、これ以外に着替えやシーツ交換をしなければならなくて、かなり仕事量が増してしまうかとも思いますが……介護拒否などの抵抗がなければ、それほどむずかしい介助でもないのかなと思ってもらえればさいわいです。
でもね、できればやりたくないじゃないですか! 他人の陰部や肛門周りの洗浄とか、排泄物の処理とか、できるだけやる時期を先送りしたくなるじゃないですか! 最初は本当にしんどいです。情けない気持ちにもなるし、悲しくもなります。つらくなって、食欲も減ってしまうでしょう。もっとしっかりしてくれていれば、こんなことにはならなかっただろうにって、もしかしたら、介護する相手を傷つけてしまうかもしれません。
実際、私も仕事のときはテンション下がりました。おしっこでびしょびしょに濡れたカーペットの上に座り込んで立てなくなっている利用者さんを立たせるために、そこを歩かないといけないとか、あふれそうなくらい溜めまくったポータブルトイレの中身を処理しなければならないとか、腰まで流れて漏れてしまった緩い便を広げないようにおむつ交換しないとならないとか、陰部を拭いたタオルを投げられるとか……いやあ、いろいろありました。排せつ関係(笑)
だからこそ、私はできるだけ自分で排せつできる時期を伸ばしてあげたいと考えるんです。できるだけ布パンツで過ごして、外出先では漏れてもいいように紙パンツで。家のトイレが遠くて間に合わないなら、間に合う場所にトイレを作ることをお勧めしたいです。そうじゃないと、介護する側も介護される側も共に苦しくなってしまうから。
考えてみてください。あなただって、いつか誰かに介護されるときがやってきます。そのとき、トイレは最後まで自分で行きたくないですか? 紙パンツはなるべくはきたくないですよね? 粗相したことを他人や子供に知られたくないですよね? 自分が弱っていくことを認めたくないですよね? 誰かに頼らないと生きていけなくなってしまう自分が情けなく思えてしまいますよね?
介護される側の人たちもこう思ってます。そして同時にお世話してくれる人に対して申し訳なさでいっぱいになるんです。中には、当然と思う方もいるでしょうが、ほとんどの人は「こんな汚いことをさせて申し訳ない」と罪悪感を抱いてしまうんですよね。残り僅かな人生で、こんな気持ちを抱えて毎日生きていたら、そりゃあ、鬱にだってなっちゃいますよ。実際、老人性鬱って多いですからね。
★排せつの自立期間を長く維持するには?
では、排せつの自立期間を長く維持するにはどうしたらいいでしょう。まずはなにがあっても最後まで自分でトイレに行くんだ! という気持ちを持ってもらうことでしょう。そのために、おむつだけを提案するのではなく、ポータブルトイレや自室にトイレを設置する等、トイレを身近なものにする必要性があります。とはいえ、認知症の方にトイレを意識させるというのはたいへん難しいかもしれません。ただ、トイレが身近になれば、粗相するリスクは大幅に減らすことができますし、介護負担を軽減することにもつながります。
一昔前のポータブルトイレと違って、最近のものはとてもハイテクになっています。温座や脱臭機能がついたものもありますし、見た目トイレとはわからないようなものまでそろっています。ポータブルトイレはレンタルはできません。しかし介護保険を利用すれば、10万円の限度額があるものの、定価の一割(一定以上の所得のある方は二割負担)での購入が可能です。つまり、2万円するトイレが2千円で購入できるわけです。ちなみに、この制度は指定福祉用具事業者からの購入でしか適応されません。購入したことを証明する書類を担当の市区町村に提出しなければならないので、ホームセンターの介護用品売り場ではできないんです。福祉用具事業所から購入したい場合は、担当のケアマネさん、担当者がいない場合は担当の地域包括センターへ相談するといいでしょう。
それから先日、Twitterにて室内に水洗トイレを設置できますよーというお話を伺うことができました。
SFA Japan株式会社(トイレ増設 超かんたん!水まわり機器を簡単に増やせます)さんという企業さんです。下記にもリンクを貼らせていただきましたが、押入れをトイレにすることもできるようで、古い家屋でもトイレを設置できるそうです。
これならば、ポータブルトイレの中身を片付けなければいけないという手間がなくなって、負担が大幅に減りますよね! こういうこともできるんだ!という選択肢のひとつとして知っているといいかなあと思って、取り上げさせていただきました。ご興味のある方はぜひ、直接こちらの会社さんへお問い合わせください。より詳しいお話をしていただけるかと思います。費用面についても、介護保険の住宅改修が該当するようなお話も伺いました。併せて確認いただければと思います。
★まとめ
介護は誰だってやりたくありません。それでもやらねばならないと、一生懸命がんばっていらっしゃる方、がんばろうとしている方へ、やりたくないという気持ちは少しも間違っていないし、とてもすごいことだとも思います。だって、なんとか自分を奮い立たせようとして戦おうとしているじゃないですか? それってすごく前向きだと思いません? 本当に嫌だと思ったら、まず向き合いません。逃げます。全力で振り切りますから。
しかし、そんなつらい気持ちをずっと持ち続けるのはやはりしんどいし、つらくなるばかりです。だからこそ、少しでも気持ちが楽になるように、気持ちの負担をやわらげつつ、介護生活が続けられるようにしていってもらいたいんです。
家族に介護はできません。これは私の持論です。自分の中にある心の貯金を削りながら、家族介護は続けねばならぬものだからです。心の貯金がなくなれば、借金にあえぐように、ただただつらくなるばかりです。そうなってしまうと、人生が楽しくありません。自分の人生をぶち壊す介護という時間を恨みがましく思うでしょうし、相手のことも憎らしく思えてきてしまうでしょう。
ですから、そこまで追い詰められる前にできるだけ多くの人を巻き込んでください。知恵を借りてください。力を借りてください。ひとりで抱え込まないでください。むりしないでください。
まあ、究極にしんどくなったら、もしも親と子の関係ならば世帯分離してうんぬんみたいな力業で施設介護に切り替えるなんてこともできるんですけどね。それはまた、別の機会ということで。
★余談
ペットボトルのシャワーを使えば陰部洗浄もできますし、ベッドで頭を洗うことも可能です。また可燃ごみ袋を広げることで、ビニールシートの代用もできます。排せつ介助のときにはエプロン着用もおススメ。ポケットには破れたときの対策で予備のビニール手袋を入れておくと、箱から出す手間も省けて便利です!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。少しでもお力になれたならうれしく思います。
それでは次回をお楽しみに~!