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日本酒学レポ⑤日本酒業界を見てみる【7月の授業あれこれⅠII】

7月の1カ月間、新潟に滞在して受講した授業について、ここまで2本の記事を書いてきました。

▼ラボでのお酒造り実習

▼理系の授業あれこれ

3本目となる今回で、7月の授業についてまとめるのはラストです。最後は、「発展日本酒学実習」という授業で何をやったかをお話しします。

※関係者の方で修正の必要などを見つけた場合はメッセージいただければ幸いです。


業界について実践的に学ぶ授業。……たぶん

ラボでお酒造りをする授業の名前は「基礎日本酒学実習」でしたが、今回お話しするのは「発展日本酒学実習」です。

ラボでのお酒造りよりも発展した授業、ということで、冬には新潟県醸造試験場でより実践的なお酒造りをします。

▼醸造試験場ってこんなとこ

しかし、この科目は通年で、夏にもちょこっと授業がありました。それぞれ内容が異なり、もしかしたら無理矢理ひとつの科目としてまとめたのかもしれませんがあえて言うなら、業界について実践的に学ぶ科目ということができるかもしれません。

座学:日本酒業界の現状、組合、経営について学ぶ

まずは座学です。一日を使って、3人の講師の授業がおこなわれました。
授業の内容と講師の先生は、以下のとおり。

日本酒の需要振興(平島 健 先生:尾畑酒造 代表取締役/新潟県酒造組合 副会長)
組織:酒造組合の取り組みについて(大平俊治 先生:緑川酒造 代表取締役/新潟県酒造組合 会長)
酒蔵起業(田中洋介 先生:LAGOON BREWERY 代表取締役/元・今代司酒造 代表取締役)

たぶん、ご存知の方が見ると「わあ、新潟酒だなぁ」という御三方なのですが、こちらの講義、ひと言で言うとめっちゃおもしろかったです。

平島先生の講義は日本酒業界の概観でしたが、クラフトサケやラグジュアリーブランド、海外サケなどかなり幅広くカバーして解説されていました。「真野鶴」でおなじみ尾畑酒造の代表取締役でいらっしゃいますが、もともと角川書店に務めていたとあってか、着眼点とまとめ方がとてもメディア的。業界で働いていると、トップの方ほど内向きになってしまう例も見ているので、ここまで冷静にご覧になっているんだなぁと単純に感動してしまいました。

そして大平先生の講義は新潟県酒造組合のこれまでの取り組みについて。これは勉強になっただけでなく、笑い声も聞こえるようなおもしろい内容でした。新潟県酒造組合といえば、「にいがた酒の陣」。検索するとサジェストで「救急車」と出てきますが(笑)、毎年10万人以上も動員するという世界最大規模の日本酒イベントです。

そんなイベントがどうしてできるようになったのか、例えばドイツのオクトーバーフェストに自腹で行って研究したというようなお話も聞かせていただいたのですが、根本的に、「なんでも挑戦するし、ダメだと思ったらすぐに変える」というスタイルが身についているのが新潟酒のすごさなんだなと感じました。

そして、田中先生はご自身が創設されたクラフトサケ醸造所・LAGOON BREWERYの話をもとに、どうやったら酒蔵を作れるのかを費用なども含めて解説されていました。日本酒は、需給調整のために新しく製造免許が交付されておらず、その抜け道として登場したクラフトサケというジャンルは酒蔵さんによってはあまりよく見ていないというのに、懐が大きすぎんか、新潟大学。

なお、田中さんについてはわたくしが取材したSAKETIMESのこの記事にまとまっています。

酒蔵見学:未来に向けて、酒蔵はどうあるべきか

もうひとつの授業は、酒蔵見学です。こちらも一日かけて、新潟県新潟市の中でも西蒲区というエリアにある酒蔵2件にお邪魔しました。

▼ワインがお好きな方ならご存知かも、の西蒲エリア・カーブドッチ

1軒目は笹祝酒造さん、2軒目は宝山酒造さん。いずれも、蔵の見学をさせてもらった後、事前に提出した質問をもとに質疑応答をおこないます。

笹祝酒造さん。ここが木製なの初めて見たかもしれません。
墨濾過のシーンも初めて見ました。ほんとに真っ黒!
宝山酒造さん名物の甘酒。冷えていて美味しい。

少し前の地方の酒蔵さんは、東京や海外でどのように成功するかという「正解」を求めていた印象があるのですが、今回お二方のお話を聞きながら、「数ある選択肢の中で、何が自分たちにとってベストか」を考える方向にシフトしているのかなと心強く感じました。

あと、両者とも食用米の活用に重きを置いていて、その意義を学ぶとともに、酒米の流通システムが通用しづらくなっているのでは……という課題も感じました。

きっと成長できた一カ月間

というわけで、7月の授業のまとめは以上になります。

業界に片足だか両足だかを突っ込んでいる人間、かつジャーナリストという立場ゆえ、斜に構えた見方を懸念(期待?)されているかもしれませんが、純粋にとても楽しかったです。

仕事では、依頼されたことや、自分の扱うテーマに紐づいた知識しか蓄積されていかないですが(メディアという性格上、それが幅広いという良さはありますが)、自分ひとりではアプローチできなかった日本酒のさまざまな面に触れることができました

あと、前回の記事でも書きましたが、質問をするとどの方も真摯に答えてくださって、それが本当にありがたかったです。大好きな日本酒について、知らないことがあるのはやはりさびしい。まだまだ不思議もたくさんありますが、6月の自分よりも8月の自分のほうがたくさんのことを知っている、というのはちょっと自信になります。

この間お世話になった先生方、酒蔵のみなさま、本当にありがとうございました。日本酒学はいいぞ。

+ + +

というわけで、前期の授業はこれで終了。後期も授業があるとはいえ、基本的には1年生の前期で単位をひととおり取り、あとは自分の研究に割く時間を増やしていくというのが基本になります。

今後も、まとめるようなことがあればこちらに随時更新して参ります。


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Saki Kimura / Sake Journalist
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