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日本酒の「口開け」「瓶底」って?:日本酒を味わう二つの楽しみ方
「日本酒を、もっと身近に」という理念をかかげながら活動している日本酒メディア・コミュニティ『酒小町』。このマガジンでは、日本酒の豆知識をわかりやすく、ちょっと飲んでみたくなるようなコラムを書いています。
今回は「日本酒の”口開け”と”瓶底”」についてお話していきます。
どんなことにも、始まりがあれば終わりがあります。楽しい人と過ごす時間、つらい仕事、映画や舞台のひと作品、人の命、など。
それは日本酒も同じで、一つの酒瓶を開けて飲み始めれば、いずれは飲み終わってしまいます。みなさんは、お店で日本酒を飲む時に、
「このお酒、最初の口開けです」
「この一杯で最後、飲みきりです」
「この一杯が瓶底です」
という場面に遭遇したことはありますか?
自宅で買って飲む人は、自然と体験しますよね。日本酒を含め、お酒の瓶を新たに開栓・開封することを「口開け/口切り」、最後に飲み切る時の瞬間を「瓶底」と言うことがあります。
口開けや瓶底のシチュエーションは、お酒が好きな人にとってはちょっとときめく瞬間です。では、なぜときめくのでしょうか?
今回は、日本酒を飲む時の始まりと終わりの瞬間について見ていきましょう!
口開/口切りは初物の縁起
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口開け/口切りと瓶底という言葉は、どちらも日本酒好きは時に高らかに、時に穏やかにテンションがあがります。
この背景には、個人的な見解として、“初物“や”残り物“への縁起・願掛けの文化と関連しているのでは、と考えています。口開け/口切りは前者、瓶底は後者ですね。
初物の縁起の代表例は、旬の食べ物。
「初鰹は女房を質に入れても食え」という江戸時代のことわざがあるほど、“粋”といった独特の美意識を持つ江戸っ子たちの間では「初物を食べると75日長生きする」との言い伝えがありました。
中でも「勝男」の縁起物とされた初鰹は通常の10倍、750日長生きすると言われました。(※ただし、江戸時代の初鰹は、現代の貨幣価値に換算して1尾20万円近く!)
現代では、「新品」に初めて手をつけることへの幸福感と置き換えることができるでしょう。また、瓶をあけてないことでの安全性の保証(ほかと混ぜていたり、入れ替えていないですよという証明)という側面もありますね。
瓶底は残り物の縁起
一方、「残り物には福がある」「待てば海路の日和あり」という言葉。
初めではなく、最後に待つ方がいいこともあるよ、という考え方です。初物の考え方とは真逆ですね。
これはこれで縁起を担ぐ文化として根付いています。日本酒の瓶底では「飲み切った」という達成感も一つテンションがあがる要素です。
口開けから瓶底までに起こる現象とは?
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開栓をした・しない、の大きな違いは、日本酒がどれだけ空気に触れるかどうか、です。開栓すればその分日本酒は空気に触れることになります。
その時に起こる現象は、酸化。
鉄のクギや十円玉が錆びたり、りんごを切った断面が徐々に茶色くなるのも、同じ酸化です。酸化は“劣化する・ダメージを受けているというようなイメージが強いですが、決してネガティブな意味だけではありません。緑茶、紅茶、ウーロン茶などの茶葉は、実はすべて同じ茶葉。
その違いは発酵具合であり、お茶の成分であるカテキンの酸化によるものです。日本酒は開けてから数時間で、なんなら数分で味が変わることもあります。時間が経てばその分、酸化も進みます。
酸化によって味が変わり、その味が個々人によって好みが分かれるということはあれど、「飲用物として飲むことができなくなる」というところまで変わることはごく稀。
結果としてその日本酒の味の変化の振れ幅が一番大きいのが、瓶底の状況です。これが瓶底の醍醐味です。にごり系の日本酒を想像するとわかりやすいですね!
ちなみに、一回注ぎ終わってからしばらく瓶を立てておくと、瓶の側面についていた日本酒がごくわずかにまた瓶の底に溜まります。
それをまた注ぐ行為を「雫を拾う」と表します。日本酒は酒蔵の血と汗が詰まった結晶ですから、一滴たりとも無駄にはしたくありませんね。
口開けと瓶底。あなたが好きそうなのはどちらですか?同じお酒を2本準備し、口開けと瓶底の飲み比べると、味の変化のビフォーアフターに気づくことができますので、試してみてくださいね!
それでは今回はここまで。
参考:太陽化学株式会社 第1回「そもそも酸化って?」世界緑茶協会 紅茶 ・ ウーロン茶の保存法サントリー 緑茶、ウーロン茶、紅茶の違いはなんですか?質屋についての豆知識 初鰹は女房を質に入れても食え
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今回コラムを書いてくれた社会福祉士と日本酒学講師の資格をあわせもつ西嶋大悟さんのnoteはここから読めます。日本酒以外の話題も含め、優しくてわかりやすい文章が特徴です。