酒母の分類

「生酛」や「山廃酛」は現在、優良酵母が添加されているものがほとんどですが、醸造試験所で速醸酛の開発に当たった江田鎌治郎の昭和4年(1929)の著述では、酵母を添加し酒母期間を短縮したものはすべて速醸に分類されていました。 最近、「高温糖化山廃酛」や「酸基醴酛」とか呼称するものがありますが、古い文献もデジタル化されて読めるようになっているので、先人の業績をよく知ってから呼称を使ってほしいと思います。

物事は一番最初にいろいろなアイデアが試されることが多く、当時主としては採用されなかった「乳酸菌添加酛」なども、現代に容器・器具・人の衛生管理がされた中でよみがえっています。

また、速醸酛って、そんなに良い方法ならすぐに普及したのかというと、まず乳酸自体が安価で手に入らなければなりません。

江田氏に先駆けて新潟の岸五郎氏がドイツのメルク社製の乳酸を使ったそうですが乳酸が高くてこの試験は1回のみだったと回想しています。明治43年に江田氏が速醸酛を発表した当時、同様な研究をしていた人との間にどちらが最初か論争が起きて、江田氏が「単に乳酸の使用のみの点なら、新潟の岸五郎氏が君より数年前(明治37年)に使用している事実がある」と反駁したとあるので、岸五郎氏が乳酸を使用したということに関しては一目おいていたのでしょう。岸五郎氏は在野の醸造技術者として他にも様々な業績がある優れた方だったようです*。

*小森 咸吉:日本醸造協会雑誌43 巻 (1948) 1-2 号 p. 19-21
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/43/1-2/43_1-2_19/_pdf/-char/ja

日本における乳酸の製造は、「三共60年史」に、1916年(大正5年)鈴木梅太郎農博指導のもとに醸造用乳酸品川工場にて製造発売とあります。また、「発酵ハンドブック」にはサツマイモデンプンを使った乳酸製造が1917から1918に工業化され大小30あまりの会社が製造とあり、1949年には武蔵野化学研究所が合成法による工業生産を開始します。

江田鎌治郎の酒母分類(1929)

1 自然育成系(自然系)

1.1 生もと系 

  (I) 普通もと(すりもと)

  (II) 山卸廃止もと(山廃もと)

1.2 水もと(菩提もと)

2 人工培養系(培養系)

2.1 速醸系

(I) 醴もと

(1) 単純醴酛(注 酸性にしない甘酒酛)

 (2) 加酸醴酛(注 乳酸等使用甘酒もと 「高温糖化酛」)

(3) 生酸醴酛(注 培養乳酸菌使用、一部でいう「高温糖化山廃酛」)

     「酸基醴酛」は(2)、(3)をあわせた総称

(II) 速醸酛

(1) 加酸速醸酛(乳酸等使用、「普通速醸酛」注)

       注 開発当初の速醸酛の製法は「中温速醸酛」に近い

 (2) 生酸速醸酛(乳酸菌使用)

(III)強性培養酛(「酵母仕込み」)

 (IV)連醸元添え(元添酛)

(1) 加酸元添酛

(2) 生酸元添酛

詳細省略 興味のある方は「最新清酒連醸法:乳酸馴養(1912)」を

最新清酒醸造論 (四七) 江田 鎌治郎 日本醸造協会雑誌 24 巻 (1929) 11 号 p. 44-46

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/24/11/24_11_44/_pdf/-char/ja

最新清酒連醸法:乳酸馴養(1912) 江田 鎌治郎 国立国会図書館デジタルコレクション

http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/848001/183?tocOpened=1

こちらに「酸基醴酛」の節があります。

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