メルボリータ公爵令嬢の憂い
朝起きると転生していた。
昨日眠りにつくまでは日本の九州にいて、メルボルン移住を準備する昭和生まれの二十歳だったのに。
一体私の身に何が起きたの? 何も覚えていない。
今の私の名前は サケフィーヌ・デ・メルボリータ。
メルボリータ公爵の一人娘だそう。
公爵…つまり今の私のパパは、ラーリアン帝国一の貴族でメルボリータ領の領主。人望厚くお金持ちで何よりハンサムで優しい。
ママは…どうやら私が生まれて間もない頃に亡くなっちゃったみたい。
私の部屋に飾られた大きなママの肖像画。知らない人のはずなのに、懐かしく恋しい気分になるのは何故?
公爵令嬢の一日
とは言え、私が一番恋しいのはやはり転生前の私が慣れ親しんだものたち。
転生してもう数日が経ったけど、ついこの間まで当たり前に手にしていたものがメルボリータ領では入手できなかったり、貴重なものだったりしてそれはもう大変。
ということで、今の私の日課とともに転生前に愛したものをいくつか紹介するわね。
朝は目覚めの一杯に珈琲をいただく。
酸味がなく深いコクのある珈琲を、できれば烏龍茶くらいの薄さでグビグビ頂きたいの。韓国の安いアメリカーノみたいなやつ。
それなのに、ここ、メルボリータ領の珈琲って、なんか酸っぱくてやたら濃く量が少ないのよね…。
珈琲より、一緒に出てくる水(炭酸水のことも)の方が量が多い。混ぜて出してって言いたい。
転生前はこれを薄めに淹れて好んで飲んでいたわ。ちょっと贅沢な珈琲を薄めて飲むなんて、あの頃の私… 背伸びした庶民ね。
さて、珈琲もいただいたことだし、そろそろ働かないとね!
…の前に、私、ド近眼なの…。コンタクトレンズ、それもハードレンズを愛用しているのだけど、この帝国には私の知る限りハードレンズの洗浄液の種類が全然ないのよ。
日本って、このメニコンのやつみたいに120mlが3本パックになって1500円とか安いときだと1000円くらいで買えちゃうのに、この帝国では120mlのボトル1本で$15もするの。価格競争起こしてくれよ。
私が使っているのはRGPレンズ(ハードレンズ)用のBoston Advance Conditioning Solution。液とか呼んでいたものがこっちではソリューションって呼ばれているなんて、さすが$15ね。
これよこれ。Chemist Warehouseなんかで買えるわ。他にもっと安くていいものがあれば是非教えてね。
日中は机に向かってコツコツとお仕事をこなす。
私は天気が悪いと肩がこって頭が痛くなるの。気圧の関係かしらね。こうなると、公務に支障をきたしてしまう。
転生前は、久光製薬のサロンパスを湯水のように使っていたっけ。
あれってこの帝国でも見かけるけど、当然日本の方が安いわよね。
どんな黒魔術よりもサロンパスがよく効くから、いい代替え品を見つけられるといいのだけど。
一日を締めくくるお風呂。(私は15時に入る。)
日本で生まれ育った人って、バスタブの有無を必ずと言っていいほどチェックするわよね。
でもね、それだけですか?
よく見てください。
洗面台の蛇口、おかしいだろうが。
えっと、何帝国やっけ。あ、そうそうラーリアン帝国では、お湯の蛇口と水の蛇口を別々に配置した挑発的な洗面台がよく見受けられるの。特に古いお屋敷ね。
お湯使いたくてもこれじゃアッチッチーやねぇか。
みなさん、火傷にはポーポー軟膏ですわよ。
もちろんこれはすべて私が転生した世界でのお話。実在する国や都市、製品、ラノベとは一切関係ございませんことよ。
みなさん、社交界で私を見つけた際は気軽に公爵令嬢!と呼び止めてね!
あっ、執事が呼んでるからもう行かなきゃ! ごめんあそぼせ★