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【小説】烏

 街を歩いている時、妙な事に気付いた。
 僕以外の全ての人が喪服を着ている。

 男も女もうつ向いて、出来るだけ体をちぢこめるようにして歩いている。建物を見ても、しめやかな黒い垂れ幕がかかっている。
 僕はTシャツにジーンズだ。明らかに浮いている。
 困惑した僕は、黒い着物の老婦人に尋ねる。

「あの……、何故皆そんな格好をしてるんです」

 老婦人は信じられないという顔をして僕を見る。彼女の隣のにいた黒いソフト帽をかぶった夫が、怒ったようにして老婦人を連れていく。
 僕は一人、取り残される。

 僕がキョロキョロしながら歩いていると、街の人々は驚いたような顔をして通りすぎる。
 ゴミ捨て場を見ると、残飯をあさるカラスまでもが黒い羽を纏っている。
 僕は心底羨ましくなる。

「どうしてなんだ」

 僕は道端でしゃがみこむ。道行く人々は皆怪訝な顔で通り過ぎていく。

「分からない」

 僕が悲鳴のような声でそういうと、カラスが近寄ってきた。そして、あの真っ黒な頭を傾げて、

「どうして分からないんだ」

 と僕に話しかけた。
 ゴミ捨て場にいたカラスたちが、羽をバタバタさせながらゲラゲラ笑った。

※毎週水曜日に掌編小説を更新しています。今回は幻想ホラー掌編集『紅い果実』より「烏」です。

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