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未読のアガサ・クリスティ作品がたくさんある幸せ

 アガサ・クリスティ作品が好きだ。特に老婦人であり安楽椅子探偵であるミス・マープルものが好きだ。私は老人が大活躍するミステリが好きで、最近だとリチャード・オスマンの『木曜殺人クラブ』シリーズも好んで読んでいるが、老人が元気に謎解きしている姿を見ると元気が出るので、ミス・マープルものはかなり好みなのだ。
 ミス・マープルものはまだ手をつけたばかりなので、短編集の『火曜クラブ』と、長編だと『書斎の殺人』『動く指』『予告殺人』『ポケットにライ麦を』『パディントン発4時50分』の六冊しか読んでいないため、まだ七冊読める。ミス・マープルシリーズは十三冊あるらしいので、そういう計算になる。
 ポアロシリーズになると、人気作なのにほとんど読んでいないのでかなり読み残していることになる。特定の探偵が出ないシリーズや単発ものになるともっとだ。とてもわくわくする。

 実は三十代半ばくらいまで、アガサ・クリスティ作品が好みではなかった。代表作である『そして誰もいなくなった』やポアロものの『アクロイド殺し』などは読んでいるのだが、自分に刺さった記憶がない。アガサ・クリスティはあんまり合わないのだなと思っていたのだが、何となく読んだ『予告殺人』にハマり、『火曜クラブ』にハマり、ミス・マープルならいけるとわかった。さらにミステリではない作品『春にして君を離れ』でアガサ・クリスティの凄さに触れ、謎めいた探偵クィン氏が謎を解く『謎のクィン氏』が凄すぎて当時書いていたSFミステリの主人公がそっちに寄ってしまった。

 『予告殺人』は犯人が恐ろしくて、後半ダレがちな長編ミステリをずっと緊張感あるものにしてくれた作品だ。ミス・マープルは最後に出るだけなのだが、それでも登場人物たちが皆個性的で楽しませてくれた。ミス・マープルシリーズで一番好きなのはこの作品だ。
 『春にして君を離れ』は、俗な人物である主婦のジョーンが、バグダッドにいる娘に会いにいき、帰りに天気が悪くなったため駅にある宿泊所で何日も足止めされたことで人生を振り返ることになる長編作品だ。もしかして自分はよくない人間だったのではないか。家族に自分の要望ばかりを押しつけてきたのではないか。その結果夫は私をもう愛してはいないのではないか。娘に会いに来たのも観光感覚だったのではないか。家族は皆自分を忌避しているのではないか。そして彼女は悔い改める。ラストがかなり秀逸で、この後味の悪さがまさに人生という印象だ。
 『謎のクィン氏』は正義の味方ではない探偵の、謎めいた短編集だ。Wikipediaを見ると簡単な概要と作品タイトル、日本語訳作品の紹介のみと、日本では他の作品ほど人気はないらしい。ワトソン役とも言える裕福な男性サタースウェイト氏が求めると、不思議と現れる男ハーリ・クィン。彼が謎を与えると、サタースウェイト氏はたちどころにミステリを解いてしまう。クィン氏は全てをわかっているようなのだ。
 ラストの話でクィン氏はますます謎めいた人物となり、正義の側の存在ではないと痛いほどわかる。サタースウェイト氏はそれを知るのだ。
 この本を読んだころにSFミステリを書いていた。ちょうどクィン氏と似た雰囲気の探偵だったので、最後のほうにかけてかなりクィン氏に寄せてしまった。もっと俗っぽく、自分を信用してきたワトソン役を見下して笑うような探偵のはずだったのに。その作品は何となく納得がいかなくて、小説家になろうに少し載せているが、続きを載せるかはわからない。強い創作物というものは、他の創作物に影響を与えてしまう。恐ろしいものだ。

 このように、この五年ほどアガサ・クリスティにハマってきた。好みは変わるものなのだなとわかる。アガサ・クリスティは多作なので、たくさん読めてお得だ。これからも楽しみに読んでいきたい。

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