今日までのこと、少し聞いていってくれませんか。
少しだけ、私の話をさせてください。
2018年12月1日大学在学中に、演劇ユニットさかさまのあさを立ち上げた私は、2019年5月に旗揚げ公演、11月に短編オムニバス公演を行いました。
そして、満を辞して大学を卒業後、演劇に専念しようと思った矢先、コロナで向こう半年の仕事が全て無くなりました。
その時の私は仕事が丸っと無くなったことに、別に絶望したりはしなかったけど(生まれつき楽観的なので、実家暮らしだしバイトもしてるしまあ大変だけど仕方ないかな、くらいでした。)それでも、闘魂注入したやる気がポーンとそのまま外に放り出されて、すっかり宙ぶらりんになったような心地になったのは確かでした。
最初の緊急事態宣言の期間中、体を壊していたこともあり、一ヶ月全く外出しませんでした。そんな中私を外に連れ出してくれたのは、演劇仲間からの作品を作ろうという声でした。幸い、映像編集ができることもあって、私はいくつかの編集の仕事をしたりで、私はかろうじて演劇の世界と繋がっていました。
けれど私の本業は脚本・演出家であります。そうありたいと思ってこの世界に飛び込みました。せっかく時間があるのだから脚本を書けばいいじゃないかと。そう思って筆をとり、私は気づきました。
言葉が一言も出ないことに。
私は世界のたくさんの事柄から様々影響を受けてそれをインプットします。
インプットをし続けないと枯れてしまいそうになるから。
それと同時に、アウトプットを同じくらい、いいや、それ以上にしないと腐る、と、そう言い続けていました。
私は気づきました。
私の心の一部が腐ってきたことを。
私は、卒業と同時に宙ぶらりんになった心を、うまく地面に着地させることができず、そのままドロドロとした何かを抱え続けてきてしまっていたのです。
そのことにうっすら気がついて数ヶ月。
もやもやとした感情を発散できないまま、数ヶ月。
季節は春から夏を超え、秋も中盤の頃でした。
金木犀の香りが美しく、気まぐれに撮ったインスタントカメラの写真がなんだかとても素敵に撮影できた頃でした。
最初は、文章を書くリハビリのつもりでした。
ずーっと書いていないもんだから、言葉を紡ぐって、大層なことをしているような気がして、だから一言目が重くって。だったらそんなこと気にならないくらい書き続けざるを得ない状況にすればいいんじゃないかと。
宮田みやの日記、は、一体誰が見るんでしょう。一体誰が読みたいというのでしょう。私の個人的なことを知りたい人がどれほどいるのか、私はゼロだと確信していました。だって、その当時の私の生活は昼に起きて、夕方にバイトに行って、夜遅くに帰ってくる、そんな代わり映えのしない退屈な日々だったから。
でも、毎日続けた方がいいとなんとなく心のどこかで感じていました。
だからきっと、形式は日記がいいような気がしました。
私ではない、誰も知らないどこでも無い場所にいる誰かの、ちょっと不思議な今日のこと。
誰も聞いてなくても、誰にも知られてなくても、どこかの誰かにきっと届く、いつかの誰かの今日のこと。
きっとその世界では、くじらが宇宙を泳ぎます。
きっとその世界では、甘い星が口めがけて落ちてきます。
きっとその世界では、花が雨のようにふり続けます。
きっとその世界では、きっとその世界では、きっとその世界では。
私の”今日”は、すごく辛くて退屈な一日でした。
でも見知らぬ誰かの”今日”は、幸福で楽しくて素敵な一日でした。
私はその誰かの物語でほんの少し、幸せになれるような気がしました。
毎日続けて、目まぐるしい日々を乗り越えて、丸っと一年が経ちました。
あっという間で、本当に短かったです。
生まれたたくさんの物語、生まれなかったたくさんの言葉たち。
こぼれ落ちたの全部拾って、ナニカになった、ナニカたち。
あなたがいたから続けて来れたと思います。
あなたのお陰で進んでこれたと、心の底から思います。
私は今日、次の舞台のために稽古をしました。
けれど同時に、年老いた人間と一人の魔法使いが最期の時を過ごしているのを見届けました。
明日の天気は、晴れ、ときどき。
雨でしょうか、雪でしょうか、星でしょうか、花でしょうか。
それともまた違う何かなのか。
今の私には知り得ない。明日の私の楽しみにして。
少しばかり長くなってしまいました。
私は実は、おしゃべりがとても大好きなのです。
寝しなに今日あったこと話すみたいに、また取り留めのない私の与太に付き合ってくれたら、いかほどに幸せかとそう思うのです。
ありがとう。
おやすみなさい、良い夢を。
きっと素敵な明日の朝を。
追伸。
一年経った今、演劇ユニットさかさまのあさは、劇団さかさまのあさとして生まれ変わり、次回配信公演も決定しました。
一年はどんなに過ごしても短くてあっという間です。でもそのたった一年で、劇的に変わってしまうものでもあります。
去年の今頃自室のベッドの上で泣きながら丸まって寝こけている私へ。
来年の今は寝る時間もないくらいに忙しなくて、それから毎日ヘトヘトになるくらい笑い転げて過ごしてるよ。
世界は幾ばくか明るくて、ずっとずっと楽しいものになっているよ。
去年の私が信じなくとも、今の私は確かに今日が幸せだったと言い切れるから、だからどうか今はただ、向いた方を前だと信じ込んでとりあえず突き進んでみて。
上を向いたらそれがさかさでもあさがきっとあるからさ。
その景色はきっと、美しいはずだよ。
2021年9月28日 宮田みや
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