育ち③
重度身障者の妹は寝たきりだった。
その傍で育つ生活は突然終わった。
5歳になることなく、妹は亡くなった。睡眠時に呼吸が止まり、そのまま目覚めることはなかった。
真夜中の、母の叫び声。
救急隊の人の話し声、足音。
何度も開く玄関のドア。
寝ていた部屋で聞こえた音で、ただならぬ空気を感じていた。
朝になり、父に声をかけられる。
「妹ちゃん、死んじゃった。」
部屋から出ると、知らないおじさんが数人いた。
当時「おじさん」が苦手だった私はすぐに逃げたい気持ちを我慢して礼儀正しく「おはようございます」と挨拶をしたことをなぜかはっきり覚えている。
「おじさんは警察だけど、お話聞かせてもらえる?」と言う人の前で、いくつか質問に答えた。
警察の人たちは、そのあともしばらく家にいて、両親と話していた。
カイボウ、という言葉を繰り返すおじさんと、俯き首を振る母。「熱を出していたのに私がうたた寝して目を離してしまったから」とこちらも繰り返す。
白い布を顔にかけられてる以外は、いつもと同じように布団に寝ている妹との横で、いつも通りに絵本を読みながら、カイボウってなんだろうなあ?なんか怖いことかな?と思っていた。
当時はもちろんわからなかったことだが、自宅で亡くなった重度身障者の妹は不審死の扱いをされたのだ。
母は、わが子に手をかけたのではないかと疑われ、検死、現場検証、司法解剖がなされたのだ。
手を尽くして介護してきたわが子の突然の死の悲しみだけでも想像を絶するが、さらに事件性を疑われた両親の辛さは計り知れない。
小さな棺に入れられた妹を見ながら、
死んだらどうなるの?
天国に行くの?
いくつか両親に質問をした。
そして祖母が遠方から駆けつけるまで、私はやっぱり近所の家に預けられた。
怖いくらい鮮明な、4歳の記憶。