「遊漁船業の適正化に関する法律の一部を改正する法律案」の調査について(政治家女子48党浜田聡参議院議員のお手伝い)
はじめに
さかサキ減税副業派と申します。3回目の投稿になります。今回は、令和5年3月10日に閣議決定された「遊漁船業の適正化に関する法律の一部を改正する法律案」をご紹介します。話の流れとして、「遊漁船業」とは何か、「遊漁船の適正化に関する法律」の説明、改正案の内容説明、筆者の意見という順番でお話させていただきます。
「遊漁船業」とは何か
「遊漁船業」とは、読者の皆さんは何を思い浮かべますか。馴染みのない言葉で、イメージが湧かない方も多いのではないかと思います。「遊漁船業の適正化に関する法律」では、「遊漁船業」を「船舶により乗客を漁場(海面及び農林水産大臣が定める内水面に属するものに限る。以下同じ。)に案内し、釣りその他の農林水産省令で定める方法により魚類その他の水産動植物を採捕させる事」だと定義しています。うーん。なかなか分からないですね。笑
ちょっとイメージが湧かないという方は、水産庁にある「遊漁船を利用する皆さんへ」という案内に、「遊漁船業」について、以下のような例が挙げられています。
ざっくり言ってしまうと、「遊漁船業」は、「釣り」「いかだ釣り」などアウトドア・レジャーを楽しんだり、観光定着網や底引き網といった漁業体験をしたりする際に使用する、または案内のために使う「船」のことを指します。次に、「遊漁船業の適正化に関する法律」について、説明していきます。
「遊漁船業の適正化に関する法律」について
まず、「遊漁船業の適正化に関する法律」を制定する目的は、何でしょうか。以下、引用です。
「遊漁船で営業する事業者」に対して、「登録制度」という規制を行い、遊漁船における業務の適正化を推進し、利用者の安全確保、遊漁者の事業者の利益確保・漁場の恒久的な利用関係の確保の三点を同時進行で行うために作られた法律というわけです。
その目的を達成するために、遊漁船業者には、次のようなことが義務付けられています。
1つ目は「登録制度」による登録の取得です。遊漁船業は、利用者の安全にかかわる事業です。その為、遊漁船業を営む際に、不適格な事業者を排除等ができるよう、登録制度を設けています。登録の取得には、都道府県知事の承認が必要だったり、免許更新期間(現行では5年)が定められていたりと、登録には様々な要件があります。
2つ目は、「遊漁船業務主任者の選任」です。遊漁船業は前も述べたように利用者の安全にかかわる事業です。船を出す際には、利用者に対して遊漁についての的確な指示や情報提供が必要です。船上のトラブルは、生命の危険になる恐れがあります。そこで、遊漁船における業務の責任者として「遊漁船業務主任者」を選びます。遊漁船を出航させる際には、「遊漁船業務主任者」を必ず乗せなければなりません。
3つ目は、「損害賠償保険加入又は共済への加入義務」です。遊漁船業者は、万が一の事態に備えて、遊漁船の利用者に対する補償も準備しなければなりません。遊漁船定員一人当たり3000万円以上を補填する保険契約か共済契約に加入することが義務付けられています。
4つ目は、「業務規程の作成・届け出義務」です。業務規程は、遊漁船業者が事業を営む際の規範となるもので、利用者の安全確保やルールに違反しないで遊漁を行わせるために遊漁船業者や遊漁船業務主任などが守るべきことを定めているものです。具体的には、悪天候により出航を中止する基準や事故が起こった場合の対処方法などを記載します。
5つ目は、「気象情報の収集の義務」です。遊漁船業者は、出航前に気象及び海象に関する情報を収集しなければなりません。また、収集した情報をもとに、遊漁船の出航が困難な場合は、出航を中止しなければなりません。
6つ目は、「利用者名簿の備え置きの義務」です。遊漁船業者は、営業所ごとに、利用者名簿を備え置き、これに利用者の氏名、住所、年齢、遊漁船の利用開始年月日及び終了の年月日、案内する漁場の位置、緊急時における連絡先を記載しなくてなりません。これは、万が一の場合、救助や捜索などに活用したり、磯渡しなどの時に、利用者全員が出航地などに戻ってきていることを確認したりするためです。
7つ目は、「採捕規制内容の周知義務」です。遊漁船業者は、利用者に対して案内する漁場の水産動植物の採捕に関する制限又は禁止及び漁場の使用に関する制限の内容を周知しなければなりません。
8つ目は、「標識の掲示の義務」です。遊漁船を営業している者が都道府県知事の登録を受けた業者であるか否かを識別するために、遊漁船業者は、見えやすい場所に一定の様式の標識を掲示しなければならないとされています。
うん、多すぎますね、、。一般の人が「遊漁船業をやりたい」と思っても多大な労力を要することは確実です。安全を確保するという目的はあるにしろ、手続きやルール遵守に対するコストがかかりすぎな気もします。
また、遊漁船を利用する側に対して、「遊漁船の営業所にある標識の確認」や「遊漁をする際のルールの遵守」「遊漁をする上でのマナーの遵守」と利用者側にも様々な決まりごとがあります。
このような遊漁船業に対して様々な規制を設けている現行制度を改正する今回の法案の内容とは一体どのようなものでしょうか。
「遊漁船業の適正化に関する法律の一部を改正する法律案」について
今回の改正案について、説明していきます。改正するに至った背景について、農林水産省「遊漁船業の適正化に関する法律の一部を改正する法律案」の概要で以下のように述べています。
背景には、「遊漁船における死傷事故が増加傾向にあること」や「利用者の安全確保に対する要請の高まり」、「遊漁船業における漁場の適正利用の重要性が増していること」をあげています。
「遊漁船における死傷事故」ですが、水産庁が出している「遊漁船業者の皆様へ 事故防止のお願い!」という資料では、遊漁船の事故による死傷者数は最新の令和3年は令和2年に比べて減ってはいるものの、船舶事故における遊漁船が占める割合は高くなっています。
次に「遊漁船を利用する者の安全確保に対する要請の高まり」ですが、令和4年4月に発生した北海道知床沖での遊覧船事故がきっかけとなっているようです。
北海道知床沖で起きた遊覧船事故とは、令和4年4月23日、斜里町ウトロ港を出航した遊覧船「KAZU I」(乗員2名、乗客24名)が知床沖で遭難。乗員乗客20名が死亡、6名が行方不明という海難事故です。調査が進む中で、遊覧船「KAZU I」を運営していた「(有)知床遊覧船」が事故前から、北海道運輸局や日本小型船舶検査機構(JCI)から度々指導を受けていたこと、別の事故を起こしていた(その際は死傷者はいなかった)ことが明るみになりました。事業者側の杜撰な管理体制が報道されたことで、利用者の安全意識が高まったと言えます。ちなみに、遊覧船は「旅客船」にあたり、遊漁船とは別の区分になります。
「遊漁船業における漁場の適正利用の重要性が増していること」ですが、「遊漁船の適正化に関する法律」では、目的として「漁場の安定的な利用関係の確保」とあります。しかし、近年、一部の漁港では漁業関係者の減少や高齢化の影響で、漁船や漁獲量の減少が問題視され、遊漁船業の指定団体数も減っている傾向にあり、漁場全体の継続に黄色信号が灯っています。そこで、地域の実情に応じて、遊漁船の利用者の安全を確保しつつ、水産業の調和が模索されています。
背景を調べた所で、次に実際の法案の内容について説明していきます。法律案の概要では、「遊漁船業の安全性向上に向けた措置」と「地域の水産業との調和に向けた自主的な取組を促進する措置」の二点が大まかな部分になっています。まずは、「遊漁船業の安全性向上に向けた措置」を取り上げていきます。
まずは、「遊漁船業の安全性向上に向けた措置」を取り上げていきます。主に、四つの項目になります。「1. 遊漁船業者の登録・更新制度の厳格化2. 遊漁船業者の安全管理体制の強化 3. 利用者の安全等に関する情報の公表等の措置 4.罰則の強化」になります。一つひとつ見ていきます。
最初の「1. 遊漁船業者の登録・更新制度の厳格化」です。具体的にはどう「厳格化」するのでしょうか。以下、引用です。
遊漁船業法の遵守状況が不良の者に対して、更新時の登録有効期間を現行の5年から短縮していくこと、不適格者の安易な再参入や処分逃れを防ぐために、登録を取り消され、再度登録できるまでの期間を2年から5年に延長すること、船員法(乗組員に対する安全関係の教育訓練義務等)の規定に違反してから5年を経過していない者、立ち入り検査後、登録の取り消しなどの処分を逃れる目的で廃業した者、暴力関係者が事業関係に関わっていたり、暴力団員をやめて5年経過していない者が携わっていたり、関連法人が登録取消処分を受けた者等に対して、登録や免許更新を安易に認めないことを明記しています。細かい内容ですが、知床沖での海難事故で、事業会社が検査や指導を複数回受けていながら、免許を取り消されていなかった部分が影響しているのかもしれません。
次に、「2. 遊漁船業者の安全管理体制の強化」です。以下も、引用になります。
「遊漁船の安全管理体制の強化」という部分ですが、具体的には遊漁船業者は業務の実施方法を定めた業務規程を登録の申請書に必ず添付しなければならないことや業務規程のうち「利用者の安全等に関する事項」が一定の基準に適合しない場合、登録を認めないこと、遊漁船の利用者への安全管理など行う「遊漁船業務主任者」の遊漁船への乗船を義務化し、利用者の安全管理を行うことを明確にしています。
これも、知床沖の遊覧船事故において悪天候にも関わらず出航を決行した経緯があり、業務規程にある悪天候で出航を取りやめる基準(出航中止基準)を一層徹底させていきたい意図が読み取れます。
「3. 利用者の安全等に関する情報の公表等の措置」は、以下のようになります。
遊漁船業者は、業務中に重大な事故を引き起こした場合は、事故の種類や原因などを都道府県知事へ報告することと、都道府県知事と遊漁船業者に対して、利用者の安全や利益に関する情報の公表をそれぞれ義務化するよう求めています。利用者の安心安全を確保するために情報公開の徹底を念頭にしています。
「4.罰則の強化」についてですが、以下のようになります。
法律案要綱に書かれている「罰則を強化するものとすること」において、どのぐらい「強化」されるのか。現行制度では、第二十八条から第三十三条までにおいて、「罰則」という箇所があります。そこでは、主な罰則は以下のようになります。
違反行為や必要な届け出を怠った者等は、懲役刑あるいは罰金刑に処せられます。それでは、改正案ではどうでしょうか。
従来の違反行為などに加えて、遊漁船の利用者の安全に関する業務改善命令に従わない遊漁船業者に対して、「懲役刑の導入、法人重科を創設」を明記しています。
ちなみに、「法人重科」とは、事業者による組織的な犯罪を抑止するという観点から、法人の業務において、法人の代表者及び従業員が違法行為を行った場合、その行為者を罰すると同時に、法人に対して、当事者よりも高額の罰金を科すことをいいます。それを、業務改善命令に従わない事業者に対して適用することが書かれています。
四つの観点を説明した所で、次は「地域の水産業との調和に向けた自主的な取組を促進する措置」について述べていきます。
利用者の安全を確保すると共に、「漁場の安定的な利用関係の確保」という視点も考えなくてはなりません。国もその面を意識していないわけではないようです。以下の取り組みを進めることにしています。
法律の文言にある「漁場の安定的な利用関係の確保」は、遊漁船業法の目的にも明記されており、それを踏襲する形になっております。具体的には、漁場利用協定(沿岸漁場整備開発法)や資源管理協定(海洋水産資源開発促進法)、資源管理規程(水産業協同組合法)といった、遊漁者、遊漁船業者、各種関係団体などが自主的な規制を設け、漁場の安定的な利用確保につとめています。
今回の改正案では、「漁場の安定的な利用関係の確保」の他に「利用者の安全確保及び利益の保護」という文言が加わり、「協議会」を組織することができるようにしています。また、協議会では「遊 漁 船 の 利 用 者 の 安 全 の 確 保 等 に つ い て 必 要 な 協 議 を 行 う も の」としており、ここでも利用者の安全確保を重視しているのが読み取れます。
以上で、今回の改正案の説明を終わります。最後に、改正案に対する疑問点や問題点を踏まえながら、筆者(私)の意見を述べさせていただきます。
筆者の意見
最後に、今回の改正案を調査してみて、私(筆者)の意見を述べていきたいと思います。
まず、私が気になった部分として、現行法から改正案までの中で、「遊漁船業の発展」という視点が乏しいことです。規制という部分に関しては、
申し分ないですが、「発展」という面で考えると、これでいいのかと思ってしまいます。遊漁船業法の目的には「漁場の安定的な利用関係の確保」を目指すならば、「発展」は必要不可欠でしょう。
その規制面ですが、改正案では、登録・更新制度の厳格化と情報公表の義務化・罰則の強化など、より規制を強化していく方向性となっています。昨年4月の知床沖の海難事故もあり、遊漁船の利用者の安全確保は喫緊の課題だと思いますし、私もそれには異論はありません。
しかし、今回の規制が果たして遊漁船業の事故の減少につながるのか、データが欲しいところです。知床沖の海難事故でも、立ち入り検査と行政指導を複数回実施しながら、事故を防げませんでした。規制を強化することも必要なことですが、その規制の内容そのものが正しいのか否かという議論も必要ではないでしょうか。安易に規制を設けるだけは、問題の解決は図れないでしょう。
更に、規制を設けすぎて、遊漁船業全体の衰退が加速してしまうことを私は懸念しています。現に、遊漁船業の指定団体は減少の一途をたどっています。遊漁船業に従事する者や団体が減ることは、悪質な事業者を撲滅することではなく、温存することになるのではないでしょうか。
そこで、安全面での規制は強化しつつ、他の規制を緩和することで、新規参入を促し、事業者の増加を目指すべきだと考えます。事業者が増えれば、サービスの向上が期待できます。自然と利用者の安全に対する意識も高くなり、安全意識の高い業者が選ばれ、安全意識が欠如している事業者は淘汰される。健全な競争の中で、遊漁船業における利用者の安全が担保されるという視点も必要ではないでしょうか。
私としては、遊漁船業に関わる規制の緩和と減税(船にも税金がかかっています)を実現することで、遊漁船業の発展を推進していくべきだと考えます。安全面ばかりに気を取られ、業界全体が立ち行かなくなることは避けるべきです。将来的に、事業者の減少で業界に対する補助金が必要となり、その財源は増税というのは本末転倒です。改正案を成立すると同時に、別の視点が必要ではないかと思います。以上で、本調査を終わりにします。ご拝読ありがとうございます。