コロナ禍海外渡航のきっかけ

コロナ禍と呼ばれて1年3ヶ月が経過し、たくさんの仲間たちが必死で演劇の灯を守っている中、「舞台芸術は不要不急か」「医療崩壊の防止>劇場公演」という声はずーっと聞こえていた。

その声に対する自分の回答が見つかりそうで見つからない中、私はこの1年3ヶ月、文字通り休むことなく演劇の灯を消さない為の一員として働き続けた。ステイホーム!と叫ばれ、みんなが家での空いた時間をどう有効に使うかを模索している時、公演中止による大量の処理業務に忙殺されていた。劇場が再開してからも、「手探りのコロナ対策」が増えた現場の仕事はこれまでの倍の時間がかかり、日々変化する情報の収集と、日々変化する最善の模索に没頭し、「コロナ禍でも舞台芸術は必要か」という根本の問いに向き合う余裕は持てなかった。

そんな中で、「自分には演劇しかないから」という理由でだけは絶対に続けたくないと感じていた。どの世代もどの業界もどうにかなんとかマスクを着けて距離を保って働いて生きていこうとしている世の中で、マスクを外して顔を近づけることでしか創り出せない"演劇"を続けるには、それ相応のかなり特別な理由がなくてはいけないはずだ。「歩みを止めたら舞台業界は衰退する」「生きるのに必要なのは医療だけじゃない、健康で文化的な生活を維持する必要がある、それには舞台芸術も必要だ」ーもちろん私だって舞台業界の端くれとして大変同感であるし、そうであってほしい。でもこれが「それ相応のかなり特別な理由」なのかをちゃんと考えたい。

コロナ禍の演劇については、上記の「世の中に必要か」の議論と同時に、「自分たちの生活の為に必要だ」の議論がある。「劇場公演を中止されたらその業界で生活してる人はどうなるんだ!補償も十分にできないだろう!」ーー実際たくさんの団体が、劇場が、コロナ禍で消えていった。経営者は本当に苦しい。舞台スタッフや講師業や演奏業などで生計を立てていた仲間もたくさんやめていった。悲しかった。ただ、舞台に関係ない副業込みで生活しているタイプの役者については、舞台演劇公演がないと貧乏になるわけではないのも事実。

もし、もし、演劇以外でも生計を立てられる立場にいるのだとしたら、それは「生活/補償vsコロナ禍」ではなく、「夢/人生vsコロナ禍」の戦いだろう。難しい戦いだ。何を差し置いても夢は捨てられない。演劇人ならみんなそうだろう。業界に入る時、「親の死に目に会えない職業」だって言われた。何を差し置いても舞台に穴を空けずに、命かけて舞台に立つと、舞台の上で死ねたら本望だと思ってきた。でも。病床が足りないせいで亡くなる方がいると言われた時に、<テレワークできない><マスクできない><人を集める>私たちの夢は、誰かの命を奪っていないだろうか。

大好きな業界と仲間の中でこれについて割り切ってディベートできる程私の脳みそは柔軟じゃないし、一人で答えが出せるほど賢くはない。そして迷ったまま進める程甘い業界じゃない。もちろん舞台以外の業界だって全然甘くないと思うけど。

実際私の社会人経験は、「演劇しかない」。在学中に劇団に入って12年間同じ場所にいて、アルバイトだって25歳を最後にやっていない(そのバイトですら、これを元バイト先の方々に見られたら、やったうちに入らねえよって言われそうです、すみません)。正直バイトをする暇もなかったので、食べていけるようになるまでは極貧だったことはついでに書いておこう。だけど、今のところそうだとしても、これから「演劇以外にもある」私になることはできるかなと思った。ここまで必死でやって来て、やっと生活できるだけの収入がコンスタントにある演劇人になれたのに、それを捨てていいの?というもったいない精神みたいなものはあったが、「積み上げてきたものはわたしの身体と脳みそにある」と強気に思うことにしてみる。

2021年5月末で12年在籍した劇団を退団し、ロンドン行きの航空券を取りました。ロンドンに留学中の業界仲間が「イギリスなら渡航できる」と教えてくれたから。実際、イギリス以外の国(全部調べたわけじゃないけど、アメリカ、オーストラリア、ヨーロッパの主要国あたり)は国境が空いていなかった、と思う。初心者すぎてわかってない。予定は一個もない。とにかく最低限必要な、PCR陰性証明書、隔離期間の滞在先、到着後のPCR検査予約、パッセンジャーロケーターフォームだけ用意して、飛びました✈️

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